【ネタバレ注意】『新幹線大爆破』を熱烈リブート!監督・樋口真嗣の仕事
謎の犯人によって爆弾が仕掛けられた新幹線はやぶさ60号。時速が100キロを下回ると、即座に爆発してしまう! 国内外で熱狂的人気を誇るクライム・サスペンス映画『新幹線大爆破』(1975)が50年の時を超えてリブートされ、2025年4月23日からNetflixにて世界独占配信される。
手掛けたのは『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』で、世界的人気を獲得した樋口真嗣監督。小学生以来のあこがれという作品への挑戦について、樋口監督にうかがった。
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Netflix映画『新幹線大爆破』監督・樋口真嗣インタビュー
なぜそんな犯罪をするんだろうかってところを話し合った

――制作がスタートしたときに、監督はどんな作品にしたいとお考えになりましたか。
樋口真嗣監督(以下、樋口) いままで自分が携わってきた作品と決定的に違うのが、本作が「犯罪の映画」であることなんです。これまでは災害や、そういうものに置き換えられる事件を描いた作品が多かったんですけど、やっぱり、そうしたものとは決定的に違っているんですね。誰かが悪意をもって事件を起こしていて、どう解決させるかという軸が実は初めて手掛ける題材だったんです。登場人物が罪を犯すということで、現代だったらなにができるだろうかを考えないといけない。しかも、いまの世の中は、昔に比べて凶悪犯罪は少ないんです。銀行強盗も営利誘拐もないし、爆弾を仕掛けて身代金を要求するような犯罪は、現在の警察力の強さの中では成立しない。では、なぜそんな犯罪をするのか? という部分を、脚本家チームやプロデューサーなど、みんなで話し合いました。
原作のすばらしいところは、その時代における成功者に対する弱者の復讐が軸になっていて、新幹線車内にいる金儲けをしようとしている商社マンが翻弄される姿を見て、当時(1970年代)の観客が溜飲を下げるという構造もあった。ところが現代は、そうではなくなっている。昔の新幹線の立ち位置は、上流階級が利用する「スペシャル」なものでしたが、現在はだれもが乗れる、もっとポピュラーな存在になっています。

その時代での『新幹線大爆破』がどうなるだろうかを考えたときに、乗客の話にするべきなんじゃないかと。犯人の話をずっと追いかけても、それは原作の持っている「時代性」には、絶対かなわないはずなので。
新しい『新幹線大爆破』の軸として、見ている人たちが自分と重ね合わせられるのが「乗客」だと思いました。そこで話の軸足を乗客に移して、その上で新幹線の運行を担当する責任ある人たちが、事態をなんとかしなければいけない。その責任をまっとうする展開にすべきだと考えたんです。
――物語が列車の中でほぼ進行するのは、そういうことですね。
樋口 ただ、それだけだと物語は終わらない。犯人の人物背景を描く時間が短い分、印象を強烈なものにしなきゃいけない。じゃあどうするかという話になって出てきたのが……、ここからはネタバレになるので配信をご覧ください!(笑)
――舞台となる新幹線に関しては、当初から東北新幹線一択で進行していたのですか。

樋口 最初は、あまりにも内容が大胆過ぎるので、新幹線を持っている鉄道会社さんが協力するとは、正直思っていなかったんですね。 だから、いかようにでもなるように作ってはいましたけれど、その中でいち早く手を挙げてくださったのがJR東日本さんだったんです。そこで話を組み立て直したんですが、東北新幹線だからできる事もいっぱいありましたね。
――JR東日本の新幹線の中で、はやぶさ(E5系)が選ばれた経緯は?

樋口 はやぶさはスターですからね。 JR東日本の代表選手だと思うし、列車が走っている東北新幹線(東京~新青森)そのものが大動脈で、乗客数も一番多いだろうし、一番走行距離が長いので話の舞台にもしやすい。E6系(秋田新幹線)の「こまち」も候補にあがったのですが、こまちは秋田に入ってから、大曲でスイッチバック(急勾配を登るために停車して進行方向を入れ替えながら走る仕組み)があるんですよ。スイッチバックがあると絶対そこで止まらなきゃいけないんで爆発しちゃう(笑)。そのためE6系を使うのは早々に断念して、代わりに途中の盛岡駅で出てもらうことにしました。
――JR東日本と、いろいろやり取りをされたと思うのですが、先方が難色を示したりなんていうことは?

樋口 いや、非常に友好的に、協力的に対応いただきました。撮影では、すべてが非日常でした……。普段だったら絶対に見られない裏側が見れたことが、やはり一番大きかったですね。安全かつ正確な運行のために、見えないところで大勢の人が働いているっていうのもわかりました。撮影でJR東日本の敷地だったり、施設で撮影するときは、撮影させていただいてる“お客さん”ではなくて、僕ら自身も“鉄道人の一員”という意識を持たなければならなかったんです。 乗客の行動を止めてまでなにかをすることは絶対許されません。いつものロケ場所で撮影させてもらうときとは違うんですよね。「受け入れてくれるJR東日本の人と我々だけ」ではなく、そこに絶えず列車に乗り込み続ける乗客がいるので、その人たちをいかに優先させるか、そういう人たちがなによりも大事だというのは、改めて意識させられました。

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