【ネタバレ注意】『新幹線大爆破』を熱烈リブート!監督・樋口真嗣の仕事
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樋口真嗣監督を知るための作品集
高校卒業後すぐに特撮技術を志し、数多くの制作にたずさわってきた樋口真嗣監督。長きに渡るキャリアのなかから、クリエーター樋口真嗣の鬼才ぶりを目の当たりにできる作品をセレクト。作品ごとに進化を遂げる様を、ぜひ追体験してほしい。
1:『ふしぎの海のナディア』(1990)

『ふしぎの海のナディア Blu-ray BOX STANDARD EDITION』
価格:2万4200円(税込)
販売元: キングレコード
商品詳細(KING RECORDS OFFICIAL SITE)
©NHK/総合ビジョン
絵コンテ/第23話~第39話監督:樋口真嗣 総監督:庵野秀明 脚本:大川久男 梅野かおる
声の出演:鷹森淑乃 日髙のり子 水谷優子
1889年、パリ万国博覧会にやってきた発明少年のジャン(日髙のり子)は、偶然出会った少女ナディア(鷹森淑乃)に一目ぼれ。ところが、彼女の持つ宝石ブルーウォーターを狙うグランディス一味が襲いかかる。ふたりは追手をかいくぐり、発明した飛行機でアフリカまで行こうとするが漂流。謎の人物ネモ船長が指揮する万能潜水艦ノーチラス号に救助される。
■特選ポイント≪初のアニメ監督作品≫
製作スケジュールが遅延したため、後の重要なエピソードに人的資源を集中させるために、中休み的な「第二部:無人島編」が製作された。そこへ樋口監督が投入されたのは、どんな状況でも作品の質を保つアイデアマンだったからだという。ジャンとナディアが南の島に漂着してドタバタを繰り返す無人島編と、島を脱出してナディアの生まれ故郷にたどり着くまでの話数を、樋口監督が手掛けている。
2:平成ガメラシリーズ
『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)

『ガメラ 大怪獣空中決戦 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray 【HDR版】』
価格:8580円(税込)
発売・販売元:KADOKAWA
© KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ/1995

『ガメラ2 レギオン襲来 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray 【HDR版】』
価格:8580円(税込)
発売・販売元:KADOKAWA
© KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 富士通 日販/1996

『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray 【HDR版】』
価格:8580円(税込)
発売・販売元:KADOKAWA
© KADOKAWA 徳間書店 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 日販/1999
監督:金子修介 特技監督:樋口真嗣 脚本:伊藤和典
出演:中山忍(1、3)藤谷文子(1、2、3)螢雪次朗(1、2、3)伊原剛志(1) 永島敏行(2)水野美紀(2)前田愛(3)ほか
※カッコ内はシリーズ3作品の識別
太平洋上で謎の巨大漂流環礁が発見された。その正体は、古代文明が生んだ生体兵器ガメラだった。ガメラは、地球環境を破壊する数々の敵に対し、敢然と立ち向かう。
■特選ポイント≪新しいセンスの特撮が登場≫
“平成ガメラ三部作”で、樋口特撮監督は、それまでの特撮映画の伝統的手法をブラッシュアップ。精密な美術を使ったオープンセットなどで、ミニチュア特撮を撮影。効果的な画面を作り上げ、洋画やアニメのリアルな映像に慣れていた観客を驚かせた。第1作『ガメラ 大怪獣空中決戦』は1995年の邦画配給ベスト10には入らなかったが、伝統を持つ「キネマ旬報ベストテン」に怪獣映画として史上初めて選ばれ(第6位)、第19回日本アカデミー賞特別賞、特殊技術賞を受賞した。
3:『ローレライ』(2005)
監督・特撮:樋口真嗣 脚本:鈴木智
出演: 役所広司 妻夫木聡 柳葉敏郎 香椎由宇
終戦が間近に迫った日本。海軍軍令部は、広島に次ぐ第2の原爆投下を阻止するため、絹見少佐(役所広司)を潜水艦「伊五〇七」の艦長に任命し、アメリカへの反撃作戦を開始させた。伊五〇七にはナチスの開発した特殊音響兵装「ローレライ・システム」が搭載されていた。絹見と先任将校の木崎大尉(柳葉敏郎)は、艦内で不可解な事象が起こることに疑念を抱く。
■特選ポイント≪長編映画デビュー作の戦争映画≫
2002年に短編アイドル映画で監督デビューした樋口監督が手掛けた、初の実写長編作品。樋口監督と交流のある原作者・福井晴敏へ、「第二次世界大戦」「潜水艦」「女」といったテーマをもとにしたストーリーの作成を依頼し、本作の草案ができたという。樋口監督は特技監督も兼任し、監督補に尾上克郎、VFXスーパーバイザーに佐藤敦紀という気心が知れた常連スタッフを起用。また画コンテ協力として、庵野秀明も名を連ねている。
4:『日本沈没』(2006)

『日本沈没』
価格:スタンダード・エディションDVD 4180円 (税込)
発売元:セディックインターナショナル/小学館
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 2006映画「日本沈没」製作委員会
※2025年4月23日の情報です。
監督:樋口真嗣 脚本:成島出 加藤正人
出演:草彅剛 柴咲コウ 及川光博 福田麻由子 豊川悦司
日本各地で、強い地震による建物倒壊や火災が起きていた。地質学者の田所雄介博士(豊川悦司)は「日本は1年以内に沈没する」と政府に警笛を鳴らす。その沈没を食い止めるには、日本海溝のプレートを爆破するしかないというが……。そんな中、深海潜水艇わだつみのパイロット小野寺俊夫(草彅剛)は、ハイパーレスキュー隊員の阿部玲子(柴咲コウ)と出会い、次第に惹かれあっていくのだった。
■特選ポイント≪古典的名作のリメイク≫
樋口監督が「映画制作を志すきっかけ」と語る、お気に入り映画『日本沈没』(1973)のリメイク作品。原作小説を再度映像化したものだが、原作ともオリジナル映画版とも違う、登場人物の設定や、新たな物語展開も多く付け加えられている。草彅剛との初タッグ作品で、初登場ランキング1位となり、興行53億4000万円のヒットを記録。庵野秀明がメカニックデザイン、平成ガメラシリーズで特撮助監督を担当した神谷誠が特撮監督を務めている。
5:『隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS』(2008)

『隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS』
DVD発売中
価格:4180円(税込)
発売元:バップ
販売元:東宝
©2008 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」製作委員会
監督:樋口真嗣 脚色:中島かずき オリジナル脚本:菊島隆三 小國英雄 橋本 忍 黒澤 明
出演:松本潤 長澤まさみ 阿部寛 宮川大輔
群雄割拠の戦国時代。小国の山名は隣接する大国・早川を狙って、もうひとつの隣国・秋月に攻め入った。山の民の武蔵(松本潤)と木こりの新八(宮川大輔)は、城内の強制労働に従事していたが、坑内で起こった爆発にまぎれて脱走。路頭に迷いながらも、偶然滝のほとりで秋月の紋章の入った軍資金「黄金百貫」を発見する。喜ぶ彼らの前に、秋月の侍大将・真壁(阿部寛)と雪姫(長澤まさみ)が現われる。
■特選ポイント≪樋口監督初のスペクタクル時代劇≫
黒澤明監督の傑作時代劇『隠し砦の三悪人』(1958)のリメイク作品。オリジナルのエッセンスを維持しつつも、新しい解釈で大部分がオリジナルストーリーになっている。樋口作品初の時代劇となる本作は、視覚効果を駆使したスピード感あるアクション作品に仕上がっている。脚本の中島かずきは、「劇団☆新感線」の座付き作家で、映像分野でも多くのアニメ作品や特撮作品を手掛けている。『シン・ウルトラマン』(2022)では企画協力で参加した。
6:TVシリーズ『MM9』(2010)

『MM9』
©2010「MM9」製作委員会
総監督:樋口真嗣 脚本:伊藤和典
出演:石橋杏奈 尾野真千子 高橋一生
M(モンスター)と呼ばれる特異生物が跋扈する日本。気象庁特異生物部対策課、通称「気特対」は、天気予報のようにMの出現予報や分析、警報発令を行い、対応法を自衛隊にアドバイスして被害を最小限におさえる組織だ。その「気特対」に新人・藤澤さくら(石橋杏奈) が配属。機動班4年目の朏(尾野真千子) は、彼女の教育担当を任され、浮かない表情を浮かべるが……。
■特選ポイント≪初の特撮ドラマシリーズ≫
SF作家・山本弘の原作を実写化したTVドラマ。樋口監督が手掛けた初のシリーズもので、ストーリーもキャラクターも原作と異なるオリジナル作品として全13話が放送された。尾野真千子や松尾諭らの、後の樋口作品の常連俳優も出演。監督陣には「ホームレス中学生」の古厩智之、「ひぐらしのなく頃に」の及川中、本作のプロデュースも担当している登坂琢磨、ウルトラシリーズの田口清隆らが集結。脚本は「平成ガメラ3部作」の伊藤和典が手がけている。
7:『のぼうの城』(2012)

監督:犬童一心 樋口真嗣 原作・脚本:和田竜
出演:野村萬斎 榮倉奈々 佐藤浩市
舞台は戦国時代末期。主人公・成田長親(野村萬斎)は、周囲を湖に囲まれた忍城の城主一門で、領民からは「でくのぼう」の「のぼう様」と親しまれる人物。そこへ、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉が小田原征伐を開始。小田原城の支城である忍城にも、石田三成率いる軍勢が迫る。降伏を決めていた長親だったが、戦で功績を挙げたい敵勢の策略に陥り、2万VS500人の籠城戦が幕を開けてしまう。
■特選ポイント≪樋口作品の特撮の転換点≫
戦国時代の実話をもとにした時代劇。特撮を活用したスペクタクルシーンが多用されたため、犬童監督と共に樋口監督が登板。北海道の苫小牧に東京ドーム約20個分の巨大なオープンセットを設営し、城を沈める「水攻め」シーンを再現している。同時に特撮シーンも撮影され、この成功によって以降の樋口作品のミニチュア撮影は、地方に大型のオープンセットを組むのが恒例となっている。第36回日本アカデミー賞では優秀作品賞のほか、優秀監督賞などを受賞。
8:『巨神兵東京に現わる』(2012)
監督:樋口真嗣 脚本:庵野秀明 監督補・特殊技術統括:尾上克郎 巨神兵造型・イメージデザイン:前田真宏 雛形造型:竹谷隆之
ナレーション:林原めぐみ
東京でひとり暮らしをしている「私」(林原めぐみ)のところへ、突然弟が訪ねてきて「明日、この街は滅ぶ」といい出した。そして、不吉な言葉を残して姿を消した弟の予言通り、翌日異形の巨人「巨神兵」が現れ、都市を焼き尽くしていくのだった。
■特選ポイント≪伝統的手法を駆使した短編映画≫
東京都現代美術館で開催された展覧会「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」で上映された短編映画。『風の谷のナウシカ』の巨神兵を用いたスピンオフ作品で、特撮博物館で上映するため、CGを一切使用せず新旧様々な特撮手法とデジタル合成のみで製作された。もともとは特撮の撮影法をメイキング映像で紹介する展示企画であったが、そうした映像自体がほとんどなかったため、メイキングを作るために本編を作ったという。のちに本作の劇場版が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)と同時上映された。
9:『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN(前篇)』(2015)
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド(後篇)』(2015)

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
Blu-ray & DVD発売中
価格:Blu-ray通常版 5280円(税込)、DVD通常版 4180円(税込)
発売元:講談社
販売元:東宝
商品詳細(TOHO theater STORE)
Blu-ray
DVD
©2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 ©諫山創/講談社

監督:樋口真嗣 脚本:渡辺雄介 町山智浩
出演:三浦春馬 長谷川博己 水原希子 本郷奏多 三浦貴大
100年以上前、突如現れた巨人たちによって文明は崩壊した。生き残った人類は、巨人の侵攻を防ぐために防壁を築き、その内側で暮らしていた。壁に守られた平和な生活にいら立ちを覚えるエレン(三浦春馬)は、外の世界を夢見ていたが、ある時、超大型巨人が出現。壁を破壊して内部へ侵攻する。エレンは2年後、対巨人兵装で武装した調査兵団の一員になっていた。
■特選ポイント≪特撮デジタル技術のプロトタイプ≫
諫山創の同名人気コミックの映画化作品。樋口監督と『ローレライ』『のぼうの城』などでチームを組んだ尾上克郎が特撮監督、三池敏夫が美術、佐藤敦紀がVFXスーパーバイザーで参加した。特撮シーンでは、ミニチュアをスキャニングして3DCG素材を作り、ロケセットと合成。超大型巨人は、CGと造型物を組み合わせて表現した。その技術や手法は、後の『シン・ゴジラ』(2016)でも使われることになり、本作はデジタル特撮のプロトタイプともいえる作品となった。
10:『シン・ゴジラ』(2016)

監督・特技監督:樋口真嗣 脚本・編集・総監督:庵野秀明
出演:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ
東京湾アクアトンネルで浸水事故が発生。政府は原因を海底火山の噴火と見て、湾内を封鎖した。一方で、内閣官房副長官の矢口蘭堂(長谷川博己)は、事故は海底に存在する正体不明の巨大生物が原因ではないかと推測する。その生物は、多摩川河口から遡上して蒲田に上陸し、都市を破壊しながら北進を開始。超法規的に、害獣駆除を目的とした自衛隊の防衛出動が要請される。
■特選ポイント≪日本特撮が世界的に注目されるきっかけ≫
ゴジラシリーズ初となるフルCGで制作され、『のぼうの城』で樋口監督と組んだ狂言師の野村萬斎がゴジラの“モーションキャプチャ”を務めた。特撮だけでなく、制作に際して、シーン検討用映像となるプリヴィズを本格的に導入。日本のVFX技術のエポックメイキング的作品となった。公開後はリピーターが続出し、社会現象と呼べる大ヒットを記録。第40回日本アカデミー賞では、樋口監督は庵野総監督とともに最優秀監督賞を受賞した。
11:『シン・ウルトラマン』(2022)

監督:樋口真嗣 企画・脚本:庵野秀明
出演:斎藤工 長澤まさみ 有岡大貴 早見あかり 山本耕史 西島秀俊
巨大生物「禍威獣」が出現する日本。政府は禍威獣特設対策室(禍特対)を設立し対策に当たっていた。ある日、禍威獣ネロンガが出現すると、大気圏外から謎の巨人が飛来。外星人である巨人は、着陸した衝撃から逃げ遅れた子供をかばった禍特対の神永新二(斎藤工)の自己犠牲を見て、地球人に興味を示し、神永と一体化するのだった。
■特選ポイント≪VFX技術を駆使したSFアクション≫
1966年放映のTVドラマ『ウルトラマン』のリブート作品で、樋口監督は画コンテや撮影も担当。ウルトラマンや禍威獣のアクションは、ミニチュアを使った特撮ではなく、2次元のデザイン画をCG化し、アクターが演じた動きをもとに芝居を付けて表現。『進撃の巨人ATTACK ON TITAN』『シン・ゴジラ』などでつちかってきたVFX技術がふんだんに取り入れられ、第46回日本アカデミー賞では優秀作品賞のほか、優秀監督賞などを受賞した。
「『新幹線大爆破』を熱烈リブート!監督・樋口真嗣の仕事」
■インタビュー:樋口真嗣
■取材:幕田けいた ヤマモトカズヒロ
■構成・TEXT:幕田けいた
■写真撮影:諸星和明
■映像撮影:加藤祐仁
■映像編集:創太
■記事編集:ウォーターマーク(尾崎健史・諸星和明・池田倫夫)
■プロデュース:ライトスタッフ(山本和宏・岩澤尚子・緒方透子)