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【ネタバレ注意】『新幹線大爆破』を熱烈リブート!監督・樋口真嗣の仕事

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特撮において、大きさに勝るものはない

――特撮パートで原作を意識した場面はありましたか。

樋口  見せ場である浜松駅の、上下線の入れ替えとか、あるいは救援列車が並走するシーンとか、そういったところは、あのころにやっていた最高の特撮技術が、いまだったらこのぐらいになりますよというのを見せたかったと思いましたね。

――特撮の一部シーンで、新幹線の1/6ミニチュアを使われたそうですが、通常の特撮のミニチュア撮影とどう違うのですか。

樋口  とにかくでかい。ミニチュアを作ったり、撮ったりするときに、なにを第一に考えるかというと「本物に見えるかどうか」なんです。映画の中で、どうやって本物に見せるかは絶えず考えなきゃいけないんですけれど、ミ二チュアが大きいと、そこにたどり着くのが非常に楽なんです。 撮影するための工夫が「いらん、だってでかいんだもん」みたいな。壊れる場合、その破片を細かくしたりするときも、圧倒的に質量の大きさで説得力が違ってくるんです。でも、そういうと「ラク」したくてやってるみたいに聞こえるなぁ(笑)。でも、いろいろな意味で、大きさに勝るものはないというのは、我々が特撮をやるときの第一条件になっています。ミニチュアが大きくなったのは、2012年の映画『のぼうの城』以降なんです。

――意外と最近ですね。

樋口  それまで、ミニチュア撮影に限らず特撮をやるときは、東京の撮影所のステージを使っていたんですが、場所を借りるためのコストが高いんです。『のぼうの城』の時に、北海道にオープンセットを建てる前提で本編を撮影していたこともあり、特撮もそこでやれないかという話になりました。そこで、雨降ったらどうするんだとか、美術セットを現場まで運ぶのが大変だとか、反対意見もあったんですが、無理矢理、尾上克郎さん(『のぼうの城』セカンドユニット/特撮監督)とオレとでやってみようとなったんです。

そうしないと予算にはまらない、という理由もあったんですが、東京でオープンセット撮影をやるときだって一緒の条件だし、やればなんとかなるんだよって。そうして無理を押して実行すると、予算内で効果的な映像を作ることができたんです。それが成功すると、なによりも自信になって、その後も東京では撮影しなくなっちゃったんです。すると、いままでステージに入る大きさのミニチュアではないとダメだっていう常識のタガが外れて、その後は2020年の「須賀川特撮アーカイブセンター」(※)の設立以降、友好的な関係を結ぶことができた福島県須賀川市で、空いてる土地をお借りしてミニチュア撮影するのが慣例化しています。

※須賀川特撮アーカイブセンター:特撮に関連する貴重な資料等を収集、保存、修復、調査研究を行う福島県須賀川市の施設。須賀川市とNPO法人アニメ特撮アーカイブ機構によって共同で整備されている。

――1/6スケール新幹線の特撮シーンも須賀川で撮影されたんですか?

樋口  そうです。本作ではミニチュアがでかいだけではなく、それを100キロ近いスピードで走行させなきゃいけない。すると走らせるためのストロークもいるし、そのスピードに乗っかるまでの助走区間もいるんです。そうすると、走行用のセットはさらに長くなって150メートルぐらいになる。それを東京でやろうとしたら、とんでもないことになっちゃうんですよ。

――そもそも監督は、小学生のころから『新幹線大爆破』への思い入れが強かったそうですが。リブート版を作るきっかけはどのようなものだったのですか。

樋口  どうやって普段から映画を撮らせてもらえるか? を虎視眈々と狙って、何十年と仕事をしていますが、自分が撮りたいと思った作品は、なかなか撮れるものではない。だから、ヒマさえあれば「オレこれ大好き」っていうオーラを垂れ流しにして周囲にすり込ませるというか、そうやって種をまくことで「そういえばコレ、あいつが好きだったな」って思い出してもらう作戦が、うまくいったんではないかなと思います(笑)。

――『新幹線大爆破』への思いを、いろんな場面で話されて?

樋口  そうですね。事務所の壁に原作のポスター貼って (笑)。まあ、別にそれを作りたいから貼っていたわけではなく、本当に好きだから貼っていただけなんですけどね。それをプロデューサーが、たまたま覚えていてくれて。もちろん、プロデューサーも、やりたかったんだと思いますが。
自分としては初めて犯罪の映画を作るとなったときに、既存の映画会社では難しいとも思っていて、Netflixでやれるっていうのは、いろんなピースがピタッと一致したんじゃないかと思います。

――思い入れがあった『新幹線大爆破』について、この企画が2020年代に実現してよかったなと思う部分はありますか?

樋口  いまでしかできないし、10年前にこれができたかっていうとそうではない。なにより原作を、みんなが好きになっている風向きってあるんですよ、やっぱり。公開当時、みんなにボロクソにいわれてるのをいまだに覚えていて、あんなことは現実には不可能だとか、走行中の新幹線のドアを開けたら止まるぞ! とかですね。それはもういろんな人たちが、あらゆる方面から作品を叩いていたのを見て、子供ながらに納得がいかなかったんです。「こんなにおもしろいのに!」って。しかも、劇場もお客さんが入ってないみたいな(笑)、なんかオレが間違ってるんだろうか? と、小学生ながら思っていたんですけど、それがいま、みんな笑顔で楽しめる世の中になっているのは、すごくいいことだと思います。原作を見ていない人も、我々の作った映画を見ていただいて、その後に原作を見ると、さらに楽しめるように作ったつもりなので、いい感じのサイクルの中で、『新幹線大爆破』新旧共々よろしくお願いします!

――ファンへのメッセージをお願いします。

樋口  2025年4月23日から、いよいよ世界で配信が始まります『新幹線大爆破』。小学生からの夢だった作品を、現代によみがえらせることができました。いままでいろんな映画を作って蓄積してきた技術や経験を、出し惜しみなしで本作に込めました。これもNetflixというプラットフォームがなくしてはできなかったんじゃないかなと思っておりますので、ぜひ皆さんも配信でお楽しみください!

Netflix映画『新幹線大爆破』

2025年4月23日(水)よりNetflixにて世界独占配信中
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81629968

2025.3.4 東京 六本木スタジオ にて

 

取材:幕田けいた ヤマモトカズヒロ
構成・TEXT:幕田けいた

写真:諸星和明/映像:加藤祐仁
プロデュース:岩澤尚子・緒方透子

VECTOR youtubeでも動画版インタビューを公開中!

 

■映画監督・樋口真嗣インタビュー

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