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【ネタバレ注意】『新幹線大爆破』を熱烈リブート!監督・樋口真嗣の仕事

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乗っている人の姿を見られてはいけない秘密列車

――撮影現場で大変なことはありましたか。

樋口  撮影は、特別ダイヤを組んで運行した走行中の東北新幹線の車内で行われたんですが、大変だった話を自慢げにいうと「ブラックじゃないか?」っていわれるんで(笑)。そもそも朝の6時に、エキストラも含めて上野駅に全員集合するのは大変ですし、俳優やエキストラに関しては、すべての支度を貸しオフィスで済ませてから、駅にやってくる。なぜ上野駅かというと、東京駅だと停車時間が短いからなんですね。

上野駅であれば、ある程度自由に使えるホームがあるので、停まってから乗り込むまでに5分使えるんです。でも発車する時刻は決まっているので、それまでに撮影機材の積み込みを終えなければいけない。その条件のなかで、ほかの列車に乗り込む乗客の邪魔にならないように全員がホームに入って、積み込みが終わりましたとなったら、出発して撮影地点に着くまで準備。上野から大宮の間は、窓外の景色があまりにも都会過ぎて劇中では使えないので、大宮を出発してから撮影を始めるんです。
映画を見ていただいた方はわかると思うのですが、場面は新青森から東京を目ざす上り列車です。ところが、撮影は上野からスタートしているので、最初に撮影してるのは下りなんですよ。

――進行方向が反対ですね。

樋口  最初は、単純に席の順番を変えればいいんじゃないかと思っていたのですが、東北新幹線に限らず、新幹線の車両(一部を除く)は、普通席は通路を挟んで2名掛けと3名掛けに配置されているんです。
だから、左右をひっくり返してもダメなんです。下り列車では、デッキだったり、車両の連結部分、あるいは席が2名掛け×2のグリーン車のシーンをひたすら撮影していました。

――シート配置の影響を受けないシーンですね。

樋口  撮影しながら新青森まで行くと大体12時ぐらいなので、そこで休憩してご飯を食べて、そこから折り返して上野に戻ってくる。戻る間も、鬼のような撮影。どっと乗っている修学旅行生役をずっと束ねながら、芝居をつけて、それを撮り続けて、その日の夕方の6時半には東京駅に着く。そこでまた、すべての機材を降ろさなきゃいけない。いま話していても、つらいんですけども(笑)。

――撮影用の列車は、何回ぐらい運行したんですか。

樋口  毎日ではないですけれど、計7往復運転です。お客さんが空いてるときに1回だけ運行してもらいます。基本的にほかのお客さんを一切乗せない貸し切りです。

――撮影専用列車ですね。

樋口  列車の中に機材車だったり、エキストラの待機場所だったり、そういったものを全部配置して走らせるんですが、あくまで乗客を乗せた列車ではないという扱いなので、我々の姿を一般のお客さんに見られてはいけない。駅で停車したら、すべてのシェードを下げて姿を消して。ドアの周りだけシェードがないので「そこには絶対立つな」みたいな話で。

――駅のお客さんには、撮影していることがわからないように秘密で?

樋口  そうです。向かいのホームや、停車してる向かい側の列車からも見えないようにして。

――樋口監督の班だけで撮影されたのですか? ほかの車両では別班が撮影している?

樋口  もちろん、別の班でも撮影をしていました。後に近県で組んだセットで使う、LEDで投写するための窓外の風景を撮ったり、先頭車両では運転席用の合成素材を撮ったり、各車両で別班が撮影していました。ただ問題は撮影してる時期が、2月の終わりぐらいからなので、東北地方は雪景色でした。結局その辺は、もう1回撮らなきゃいけなくなりました。

――演出面で原作を意識した部分はありますか。

樋口  原作があまりにもすばらしいので、自分の好きな部分をちらっと入れられるかな? っていうのはすごく考えました。気づいていただけたかわかりませんが、原作と同様に乗客の中に柔道部がいるんです。柔道着を着せられなかったのは残念ですけれど、部のジャージを着てカバンとか、そういうのは入れたり、パニックシーンにおける受験ノイローゼの高校生を登場させたり。「はしれちょうとっきゅう」を歌う商社マンが入れられなかったのは非常に残念ですが(笑)。

シチュエーションの面では、併走する救援列車の車両として高速試験車「ALFA-X」が登場します。救援列車の運転手は、原作だと千葉治郎さんという千葉真一さんの弟さんなんです。それを今回誰にしようか? っていったときに、映画『時をかける少女』(1983)で未来人ケン・ソゴルを演じた高柳良一さんという方が、ちょうどニッポン放送を定年退職されて、じゃあ出てもらおうということでお願いしたりしました。

――救援列車として登場したALFA-Xの検証データを活用した新車両E10系が、2030年に実用化予定というニュースが、つい先ほど発表されました(取材日は2025年3月4日)。

樋口  オレも知らなかった、そうなんだ! 2030年に実用化ってことは、そこからE5系の引退が始まるってことですね。今回、自分の中で、E5系新幹線がこんなに好きになるとは思わなかったし、E5系がすべて引退する時には、オレ泣くな(笑)。

――本作では、随所に新幹線のカッコよさが出てるなと思ったんですが、監督は、どういうふうに新幹線の映像を撮りたいと思っていましたか。

樋口  この映画を作る前から思っていたのが、JR各社が作っている新幹線のCMが、どれもかっこいいわけですよ、もう(笑)。 見るたびに「今度もかっこいいな」みたいのがあって、それに勝ちたいじゃないけど、ああいう感じで新幹線を本当に美しく撮りたい、おいしく撮りたいっていうのはずっとあったんです。世にあるYouTubeの動画も非常に刺激になりました。そういった中で、新幹線が好きな人は本当に多いけど、そうじゃない人にも「いまの新幹線はこんなにかっこいいんだよ」っていうのを見てほしいと考えました。それは自分が『新幹線大爆破』を撮る以上、最低限やらなきゃいけないことなんじゃないかなと、まず思いましたね。

――会心の新幹線ショットはどのシーンですか。

樋口  中間車を先頭にした救出号が追いかけてくるカットが、いままで誰も撮ってない、というか撮りようがないんですけど(笑)。あれはいいものが撮れたなと思います、やっぱり!

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