コンテンツ消費論 稲田豊史 × 加山竜司
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【対談③】これからの作品に求められるもの
話題になるのは「議論のタネになる映画」?
――今後、観客に受け入れられる作品とは、どんなものだと思いますか?
稲田 面白い、のは絶対条件として……。
加山 いま世に出てる作品、だいたい面白いですからね。
稲田 支持されてる作品には、なんらかの面白さが絶対にある。だからそういう意味では、大昔みたいなメディアのゴリ押しは効かないと思います。クソみたいな映画に何十億円と宣伝費をかけて、代理店がチケットを巻いて興行収入を底上げするみたいなのは、もはや現実的じゃない。
加山 いまいえないアイデアが浮かんでいます(笑)。
稲田 言っちゃっていいですよ(笑)。

加山 映画の興行収入ランキングには載らないけど、実質ヒットしている映画がいくつかあるじゃないですか。たぶん、その売り方が一番……。要は、推し活をしてもらうってことなんですけど。特定の宗教団体の映画って、確実な興行収入が見込めるじゃないですか。評論家の口の端に上ることはないですけど。要は、熱心なお客さんに推し活をしてもらう……。そういうのはどうなんでしょうか?
稲田 まさに『超かぐや姫!』ですね。興行収入ランキングに入ってくるほどヒットしているけど、老齢の評論家が論評できないんですよね。長い歴史のある『ドラえもん』や『名探偵コナン』ならともかく、特定のファンダムに支持されていて興収30億近くいくような作品は、従来型の評論家にとっては射程範囲外ですよ。
もう少し一般層にも語られる作品ってなんだろうと考えると、今ならたとえば『プラダを着た悪魔2』(2026年)は議論のタネになる映画だと思うんです。出版やマスコミに関わっている人は作中で描かれる雑誌文化の衰退について色々と言いたいことがあるだろうし、ファッションに興味がある人はこの20年間のファッション業界の変化を語りたくなる。映画好きなら20年前の前作と今作でカタルシスの種類がまったく違うことを指摘したいし、その違いに社会の変化を表しているという評論は大いに成り立ちます。
加山 それは、作品の質を担保しつつ、どれだけ多くのコンテクストを集約できるかということですね。
稲田 ファン向けに絞るのとは逆の方向性ですが、誰もが何かいっちょ噛みできるよう、結論を言い切らないでおく。すると、皆頼んでもないのに語るんです。実は、『本を読めなくなった人たち』もそれを意識して、皆がむずむずする記述をたくさん入れています。
加山 あの本はとくに、出版業界の人は必ずなにかしらいいたいと思います(笑)。

稲田 帯イラストの女の子が「長い文章はChatGPTが要約を返してくれるので、本を読む必要はないです」と言っていますが、これにむずむずする人はたくさんいるじゃないですか。でも読んでみると、実は本を読んでいる人に対しても優しくないことを言っている。そういう議論のタネを仕込んで、読者の「語り」を誘う。決まったファンダムが存在しない作品は、この方法がわりと得策だと思っています。
――今後売れていくコンテンツは、ファン向けか、誰もが語りたくなる作品であると。
稲田 先日、吉本ばななさんのnoteがかなり話題になり、いろんな意見が飛び交いましたよね。あれを読んで思ったのが、いま売れるコンテンツって、「物語」か「書き手の物語」のどちらかしかない気がします。皆、吉本ばななさんの、ゴシップ感の強い彼女の壮絶な境遇に惹かれて500円の文章を買っている。吉本さんの小説を1冊も読んだことがない人でも、買っている人がいる。結局、多くの人は語り手が背負っている物語が知りたい。どういうやつが書いてるかを知りたい。僕はそのことを、『本を読めなくなった人たち』の中で「ファンはコンテンツではなく、キャラにつく」と書きました。
アニメや映像コンテンツにもそういう部分が必要です。この作品はどういう経緯で企画されたのか、作り手はどういう気持ちで作っていたのか。そこが大事です。公式の監督インタビューがなぜ読みたくなるかというと、作り手である監督自身の「想い」を聞きたいからでしょう。発表されたものの内容を詳しく説明するだけでは、どこにも届かない。
加山 「キャラにつく」で、おもしろいなと思ったのが、落語立川流を創始した家元・立川談志師匠の話。「落語家はメディアにならなければいけない」といういい方をしていたんですね。どういうことかというと、「今日起きた出来事を、あの落語家はどうしゃべるんだろう?」と、興味をもってもらえるようにならないといけないと。

稲田 皆、「何を言ったか」より前に「誰が、どう言ったか」に興味がいく。だから今、ポッドキャストやラジオが結構人気じゃないですか。
落語家と同じで、何かすごい事件があったら、「私の好きなあのパーソナリティーは、あの件をどうしゃべるんだろう?」という点に、視聴者の興味は集中する。そこにだったらお金や時間を費やしてもいいと思う人が多いんですよね。さっき「映画は監督やスタッフで観られない」と話しましたが、それは作品に込められた作風の話。それとはまったく違う軸で、作り手の人間性みたいなところに興味が持たれているんだと思います。
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コンテンツ消費論 稲田豊史 × 加山竜司
■インタビュー:稲田豊史、加山竜司
■取材・画像協力:文藝春秋
■画像協力:光文社、中央公論新社
■取材:ヤマモトカズヒロ
■構成・TEXT:小山田美涼
■写真撮影:諸星和明
■映像撮影:加藤祐仁
■映像編集:創太
■記事編集:ウォーターマーク(尾崎健史・諸星和明・池田倫夫)
■プロデュース:ライトスタッフ(山本和宏・岩澤尚子・緒方透子)
