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コンテンツ消費論 稲田豊史 × 加山竜司

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読者が“次”に選ぶ作品とは?

――映像作品を例に「近年、評価の定まったものに人が集まる」という旨のお話がありました。マンガでも、同様のことが起きているのでしょうか?

加山  以前であれば、日常的にマンガを買う人たちは、冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』(1998年~連載中)をおもしろいと思ったら、『幽☆遊☆白書』(1990年~1994年連載)、あるいは最初の連載作品『てんで性悪キューピッド』(1989年~1990年連載)と、その作者の過去の作品にさかのぼっていた。
ただ、いまの一番マスの人たちは、『鬼滅の刃』(2016年~2020年連載)が流行ったら、次は『東京卍リベンジャーズ』(2017年~2022年連載)、その次は『呪術廻戦』(2018年~2024年連載)。トレンドを追いかけるのに忙しすぎて、なかなか遡行できないんですよね。

稲田  ほかのエンタメも全部そうじゃないですか。映画だって、多くの人は監督やスタッフでは観ていない。アニメも、演出家が誰、脚本家が誰で観る人は随分と減った気がします。

加山  日本の映画史上一番興行収入があった『鬼滅の刃 無限列車編』(2020年)も、ほとんどの人は監督の名前をいえないですから。

稲田  僕はよく、「情報を面でなく、点で取る」という言い方をします。ニュースもそうで、昔は新聞をばさっと開いて「どんなニュースがあるかな?」とやっていました。でも今の大学生にヒアリングすると、Xで勝手に流れてくるタイムラインやLINE NEWSの通知で、つまり「点」でばかり情報を取っています。ニュースの流れを体系的に、つまり「面」では取ろうとしていない。
このあたりが、「観客は今、どんな作品を観たいのか?」につながってくる話だと思います。作り手や発信者は、それを見越して作るものや発信方法を考えていかないといけないんですね。

推し活は「コスパがいい」

――お金や時間を節約するコスパ・タイパ視聴が若者に流行る一方で、「推し」に際限なくお金と時間を使う推し活をする人も増えてきています。この傾向について、どう思われますか?

加山  『「推し」という病』を書く際に色々な方に取材をしたんですが、皆さん「私はそんなにお金を使ってないから」というんですよね。よくよく聞くと「それ(累積で考えると)1000万円超えてるんじゃないの?」ということになるんですが、「いや、それでも私はほかの人たちよりはコスパよく楽しめている」と口をそろえるんです。

稲田  そう、「コスパいい」って言葉が出てくるんですよね。『「推し」という病』に「ホストはコスパがいい」という小見出しがあって、「お金で決められるのが楽なんだ」とおっしゃっている方がいた。関係を切りたいならお金を払わなければいいし、100万円払ったら10万円分の何かをしてくれる。だからいいのだと。要は費用対効果がはっきりしてるんですよね。

加山  高額の支払いをしてくれた女性に対しては、ホストがディズニーランドでデートしてくれるなどの見返りがある。それを本書に出てくる女性は「キャッシュバック」と表現していました(笑)。付け加えるなら、その女性は「私みたいに、たいして見た目もよくない女がイケメンと特別な関係になれるんだったら、安い」と。

稲田  推し活全部がそうだとは思わないですが、費用対効果が可視化されていることとファンの自己肯定感の低さの掛け算で成立してる界隈は、結構あると思っています。
非常に無粋なことをいうと、リアル恋愛って費用対効果が見えない。好きな人に100万円つぎ込んだからといって、100万円分好きになってくれるわけじゃない。次のデートで必ず進展するわけでもない。一方、ある種の推し活は投入した分だけ必ずリターンがある。それが「コスパがいい」という言い方になるんだと思いました。

加山  もっといえば、途中参入できる。お金さえあれば、その界隈にいる前の人を追い抜けるし、勝てるんですよね。

稲田  これがリアルな人間関係だとそうはいかなくて、基本的に関係性が深いライバルがいる場合、途中から割って入ることができません。自己肯定感の高い、自分の容姿なりスキルに自信がある人なら、費用対効果が見えなくても、努力して相手の心を振り向かせようとしますが、自己肯定感が低いとそんなことはできない。で、昔はできないからそれで終わっていたところ、投入した努力に対して確実なリターンが見込める「推し活」というフィールドが用意された。そりゃあ恋愛する人も結婚する人も減りますよ。

加山  ちょっと結論めいた話になりますが、自分の人生を豊かにするって、実はコスパが悪い。恋愛の例にあったように、努力しても必ず報われるわけじゃない。それに対して、推し活はお金さえ払えば結果が得られる。
「コスパ」という言葉、最近は費用(お金)対効果というより、「自分の人生のどれを削ってリターンを得るのか?」になってきているのかなと思います。

――ものすごくお金を使っているように見えるけれど、お金や時間をかければ報われるから、推し活は「コスパがいい」と。

稲田  これまでの話も合わせると、やはり2020年代に入って「投入したことが報われず徒労に終わるのを避けたい」という感覚が、若者を中心にすごく強くなっている気がしています。それも当然で、日本経済は停滞しているし、物価も上がっているから、普通に働いているだけではどんどん貧乏になっていく。自分のスキルと収入を上げていかないと普通の生活すらキープできない中、シビアにならざるをえませんよね。確実なリターンが見込めないものには、ベットできない(賭けられない)状況になっています。
そういった意味では、推し活は費用対効果がいい。資金を投入したら投入した分だけトップオタになれる。ゲームに課金すればするほどいいアイテムが手に入る。ある種、非常にフェアな世界なんですよね。

加山  ひとことでいうなら、札束で殴り合う……。

稲田  昔はそれが下品な行為とされていたけれど、よくよく考えると、お金って出自がどうであれ、手にさえすれば平等に力を持てるじゃないですか。「親ガチャ」という言葉が象徴するように、自分の力ではどうにもならない生まれや育ちに絶望する人も多い中――本当にイヤな言い方ですが――お金だけは裏切らない。なんらかの方法でお金を手にしてそれを投入さえすれば、必ずリターンがある。その最たるものが、ある種の推し活なのかなと思います。

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