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『ウイングマン』実体化! 監督:坂本浩一の仕事

1980年代を席巻したSFコミック『ウイングマン』。特撮ヒーローファンの中学生が、異次元から来た少女と出会い、本物のヒーローに変身する! この設定は、SF+ヒーローアクション+ラブコメの独自路線であり、多くのファンを獲得した。
そんな『ウイングマン』が40年の時を超えて実写化された。
メガホンを取ったのは特撮作品の名手・坂本浩一だ。
坂本監督に、今回『ウイングマン』を実体化させたことへの思いをたずねた。

Index

TVドラマ『ウイングマン』監督・坂本浩一インタビュー

企画と3次元化
~桂正和先生が丁寧にスーパーバイズ~

――TVドラマ『ウイングマン』は、どのような経緯で制作がスタートしたんでしょうか。

坂本浩一監督(以下、坂本)  1年以上前ですが、東映ビデオの山田真行プロデューサーから、「『ウイングマン』の実写化企画を立てているので、監督としてやっていただけませんか?」というお話をいただきまして、企画書に自分の名前を載せてもらってスタートしました。
ただ、『ウイングマン』は当時読んでいてファンでしたが、40年前の作品なので、どのような座組で実写化企画が成立するのかわかりませんでした。最初の打ち合わせに自分が行くまでは、信じられなかったのが本心です。これ本当なのかな?みたいな(笑)。

――1970年生まれの監督は、年代的に『ウイングマン』直撃世代だと思います。

坂本  中学生当時、ジャンプを毎週楽しみに買っていた中で、『ウイングマン』は自分の好きな要素が詰まった作品でした。幼少のころから特撮番組が大好きで、特撮ヒーローの真似事ばかりしていたし、9歳のころにジャッキー・チェンの映画を見てからは、ずっとジャッキー・チェンになりたかったんです(笑)。ですから特撮ヒーローとアクション映画とは、離れられない生活をずっとしていたんですね。
さらに、ちょうど思春期で女性を意識しはじめたり、「かわいいな」「綺麗だな」と思い始めたりしたころでした。『ウイングマン』には、魅力的なヒロインがいっぱい出てくるじゃないですか。ヒーローアクション、それにヒロインという、本当に好きだった要素がすべて詰め込まれた作品だったので、毎週楽しみにしていました。

――主人公の広野健太くんは、監督の学生時代に近いキャラクターですか。

坂本  そうですね。自分もアクティブにヒーローの真似をするのが好きだったので、子供時代の写真を見返すと、すべてヒーローポーズをとっています。学校でヒーローごっこをしたり、休み時間になると友達同士でジャッキー・チェンのカンフーの真似をしていました。それを考えると、本当に健太くんの学園生活に近いことをしていましたね(笑)。当時は「オタク」という言葉がなかったと思いますが、自分はアニメも大好きで、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』と通ってきて、映画は立ち見で観に行っていました。そういう面でも健太くんは、自分の学生時代に近いキャラクターだと思います。

――学生時代を思い起こした部分は?

坂本  劇中で、「アクション演劇部」を立ち上げるじゃないですか。自分も16歳のころに、この業界に入ってスタントマンとして活動を始めたんですね。そのときは週に3〜4回練習があったので、学校帰りに部活のようにアクションチームの練習に通っていました。殺陣の練習もあるので、学ランに木刀を背負って学校に通っていました。昭和の少年マンガみたいに(笑)。なので、すごく健太くんに親近感を覚えました。ただし、自分は健太くんと違ってモテませんでしたが……(笑)。ヒーローのアクションに没頭しながら過ごした学生生活は、似ていますね。

――企画段階では桂正和先生とお会いになりましたか。

坂本  桂先生とお会いしたのは、企画が決まって最初の打ち合わせでした。自分と脚本家チーム、プロデューサーチームと、まず作品の方向性を決めて「足並みをそろえましょう」というところで、桂先生にもいらっしゃっていただきお会いしました。

――お会いしていかがでしたか。

坂本  いやあ、もう緊張ですよ。だって子供のころからずっと読んでいた、好きなマンガの先生じゃないですか。現在も活躍されているし、作品もいろいろと読ませていただいているので、「憧れの人に会う」的にすごい緊張しました。どのように(今回の実写化のことを)先生が考えているのか? というところに一番興味がありました。先生が自分のことをご存知かどうかわからなかったので、自分も探り探りという感じでした。

――桂先生も「X」で、「デザインを細かく調整した」という話をお書きになっていますね。

坂本  桂先生も思い入れがある作品じゃないですか。デビュー作でもありますし。最初は、できあがった脚本に対してのコメントという感じで進めていましたが、だんだん先生もギアが入り、いま『ウイングマン』をやるのなら……などの貴重なアイデアをたくさん出していただきました。それを制作側の自分や脚本家チームからどのように物語に組み込むかを提案する……という形で進めていきました。
デザインのほうも、当初先生は「ウイングマン」のみを描かれる予定でしたが、アオイのコスチューム、ドリムノート、キータクラーなどドンドン増えていきました(笑)。
お忙しいと聞いていたのですが、「どうしても自分でやりたい」とのことでした。
設定のディテールや、キャラクターデザインまで、色々な面で強いこだわりを持っていられました。

――マンガやアニメという「2D」だったものを、立体化されたわけですが、スーツ・コスチュームや、ドリムノートのデザインについて、また立体化の際の設定リニューアルのお話をお聞かせください。

坂本  一番、難しかったのが、「ウイングマン」を立体化するときに、どういう素材で表現するかというところでした。桂先生が上げられたデザインは、基本的なシルエットは原作の『ウイングマン』と一緒ですが、ディテールが追加されていました。よく見ると、原作では真っ黒だったところに細かいラインが入っているんです。近年では、マーベルやDCも、古典的なヒーローをリニューアルするときに、ディテールを追加していますよね?桂先生も「ウイングマン」をよりリアルに表現するには?というアプローチからスタートされていたのだと思います。なので、そのデザインをどのような素材を使って造形物として落とし込んで行くのかが大きな課題でした。

――造形作業も大変そうですね。

坂本  今回、造形はレインボー造型さんに担当していただきました。過去の経験から、どの作品やどのヒーローで使った素材が一番適しているかを検証する所から始めました。様々なロケーションでの撮影や、激しいアクションに耐えられる耐久性はもちろんのこと、着用するスーツアクターの動きやすさも考慮しなければなりません。
やはり、自分の経験上、どんなに見た目が素晴らしくても、スーツアクターが充分なパフォーマンスを発揮出来ないスーツだと、撮った映像が残念な物になってしまいます。
結局は、様々な特撮番組の「いいとこ取り」のような最新造形技術の結晶のような感じになりました(笑)。素材の方向性が見えたところで、粘土による原型製作に入ります。この工程では桂先生も直接参加し、細かいチェックを繰り返しました。その後も作業が進むと、何度も工房に足を運んでくださり、キャラクター造形への愛情を感じましたね。

次ページ▶ 制作体制と世界観の構築

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