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「いまふたたび、森田芳光を感じる意味」
〜映画監督 森田芳光を知らない人にこそ、観てほしい〜

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展示の見どころ 1

<その1:『家族ゲーム』>

――では順を追ってご説明いただけますか? まず入口ののれんをくぐると、『家族ゲーム』のダイニングテーブルがセッティングされていますね。最初にこれがあるので、驚きました。

『家族ゲーム』のダイニングテーブル。実際に座って5人の誰かと入れ替わって撮影できるようになっている。

三沢  まずなにを展示するか、というときに一番最初に挙がったのがこれでした(笑)。『家族ゲーム』は、森田の代名詞のような作品だし、このテーブルのシーンは誰でも覚えていますから。とにかくいらした方が参加できるというか、ちょっと遊園地的に楽しめるという意味で置こうと。一番最初に決まった展示物です。もちろん、撮影当時のテーブルはもうありませんが、今回『家族ゲーム』の美術デザイナーの中澤克巳さんが、サイズも模様もまったく同じに作ってくださっています。

<その2 森田監督の書斎>

――次にある書斎が、まるで映画のセットのなかにいるようです。非常に居心地のいい空間になっているんですが、この書斎はなにをモデルにして作られたのですか?

  • 伊豆高原の書斎が見事に再現された。
  • 幼いころに描いていたノート。
馬主でもあった森田。競馬好きの森田らしい目標がここに。

三沢  伊豆高原に森田の別荘がありまして、そこの書斎をデザイナーの山﨑さんが再現したものです。伊豆高原なので、デスクの前に座ると、目の前のガラス窓越しに、一面に高原の緑が見えてとても気持ちいいんですが、驚いたのはデザイナーの山﨑さんが、その風景を写真に撮って再現しようと考えたことですね。最初にそのアイデアを聞いた時は「あまりに陳腐じゃないの?」と思ったんです。ところが映画のセット美術のすごさですよね。本当に奥行きを感じられて、伊豆の書斎に座ったような気分になれるんです。あの景色は別荘から見える景色そのもの。『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)の撮影・沖村志宏さんが伊豆に行って撮ってきてくれました。

――本棚の蔵書は、写真で見せることもできたと思うんですが、すべて森田監督の蔵書が運び込まれています。ただただ圧倒されて、思わず背表紙を撮影してしまいます。

来場者の多くが写真を撮っていく圧巻の書棚。すべて森田の蔵書を運び込んだ。

三沢  これはもう絶対やりたかったんです。伊豆からトラックで蔵書を全部、国立映画アーカイブに運び込んで並べました。伊豆の別荘は、車道からちょっと坂を登ったところにあるんですよ。だからスタッフ総出で本をかかえてトラックまで運び込んで。でも来場されたみなさんが喜んでくださるので、苦労した甲斐がありました。

――漫画の蔵書もいっぱいあって、読みたくなってしまいます。

三沢  ちょっと前衛的な漫画も含めて「ガロ」とか「COM」とかも、いっぱいあります。本人は生前「絵コンテは漫画で勉強した」ってはっきりいっていましたね。だから、漫画はなるべく外さずに持ってきました。あとは、私達の年代だと「これ、学生時代に読んだ!」っていう懐かしい本が結構あると思います。シュールレアリスム小説とか。アメリカの近代文学、フランス文学とか理論書など。特にマクルーハンは好きでしたね。ル・クレジオも何冊も。とにかくあの当時の新しい文学みたいな本は全部ある感じです。

――デスクの上には、カルト的にファンの多い『ときめきに死す』(1984年)のラスト近くの、いったいどうやって撮ったんだろうと当時話題になった撮影の仕掛けが、さりげなく模型で再現されていて驚きました。

三沢  走っている乗用車の周囲を360度ぐるっと回った撮影です。これも山﨑さんが、本当に凝り症なんですけれど(笑)模型で再現してくれました。撮影の仕組みについては、現在城西大学にいらっしゃる栗山修司(当時、撮影部)さんのところに行って聞いてきて、その通りに作っています。

<その3 レコードコレクション>

このコーナーではBGMにジャズが流れている。

――書斎を出ると森田監督の写真を取り囲むように、ジャズのレコードジャケットが並んでいます。モニターで流されている映像内で「マイルス・デイヴィスのように進化したい」と語っているように、森田監督がジャズ好きというのは有名なところですが、これらのレコードは、どのように選ばれたのでしょうか?

三沢  私もジャズをやっていまして、森田もジャズが好きだったので、我が家には1000枚以上レコードがあるんです。そのなかから、森田の好きだったものを選びました。私と違う森田の好きなジャズには2パターンあって。ひとつは、ちょっとフリージャズっぽいやつですね。アルバート・アイラーとかエリック・ドルフィとか。あと女性ボーカルも好きなんですよ。だからビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドも忘れずに入れました。

――ジャケット推しもありますか?

三沢  よく気がつきましたね。だって、同じようなモノクロのコルトレーンばかりを並べるわけにいかないし、ジャケットが好きだったという点で、ジャズではないけれどピンク・フロイドも入れちゃいました。そういう趣味もあります。

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