Feature

「いまふたたび、森田芳光を感じる意味」
〜映画監督 森田芳光を知らない人にこそ、観てほしい〜

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展示の見どころ 3

<その5 映像「森田芳光の原点」>

監督が使用していた8ミリ機材も飾ってあり、編集台も再現された。

――お話に出たアイデアノートとリンクしているのが、ライムスター宇多丸さんが監修された「森田芳光の原点」という映像です。あれを観ると、森田監督が8ミリ時代から試していた様々な実験的手法や、好んで使用していたテクニックが、その後の作品で生かされたことがわかります。しかも、その原点が実はアイデアノートにあった。あの映像展示はどういうアイデアだったんですか?

三沢  森田の映画を本当に愛してくださっている宇多丸さんに、展示のご相談をした時に出たアイデアがこれでした。宇多丸さんは、近年になって森田の8ミリ作品にふれたんですが、彼はしょっちゅう森田の劇場映画を観ていたから、8ミリ作品のなかにテクニックの原点があることをすぐに発見しちゃって、興奮されていたんです。

それを展示で具体的に見せたら面白いんじゃないですか! って。それを集めて編集したのが、あの映像になるんですが、さらに驚いたのは、映像を編集した映画編集者の光岡紋さんが、映像中にアイデアノートを組み込んでいたことですね。光岡さんは、膨大なノートのなかにあれらを発見して、映像に組み込んだんですが、あれは誰も知らなかったんです。それでますます、あの映像の価値が高まりました。宇多丸さん自身も驚いてました。 「こんなすごいものになっちゃったんですか!」って。

<その6 世界各国からのビデオメッセージ>

――最後のコーナーで、各国で森田監督の特集を企画した映画祭プログラマーからのビデオメッセージがありますが、これだけの数が集まったのも壮観です。

各国でそれぞれに趣向が違う森田レトロスペクティヴのポスターの数々(左からシンガポール、香港、台北でのもの)。

三沢  この3年ほど、各国で驚くほど多くの映画祭プログラマーの方々が、森田の映画に興味を持って特集を組んでくれました。ですから、実際に私が各国を回って感動した反応を、そのまま皆さんにお伝えしたいと思ったんです。まず特集のポスターが、その国によってまったく違って、みんなすごくそれらしいっていうのはおもしろいじゃないですか。あと、どの映画が好きかとか、微妙に皆さんちょっとずつ違っているというのもおもしろい。それで今回、どうして森田の作品に興味を持ってもらえたのか、ビデオでメッセージをくださいとお願いしました。そこで改めて思ったのは、森田の映画って多岐にわたりますし、文芸大作の『それから』(1985年)の後に『そろばんずく』(1986年)を撮るとか、そういうことで「森田作品をどう評価していいかわからない」といった声も当時は少なからずあったのですが、今回海外の方々はそれらをいっぺんに見たわけです。そうすると、彼らなりに、森田作品の振り幅をものすごく理解していただいた感じがします。毎回、自分の作品を1回壊して、ゼロから構築して、新しい方法で作っているのが、まさに森田の作家性そのものなんだと、これは共通して皆さん評価されてるんです。これは新しい気づきでした。

――メッセージビデオを見ていますと、ポップアート的であるとか、映画術を駆使した遊びがあるとか、そういった評価は日本でもあったかと思いますが「謎」や「政治的」、「リアリズムと幻想を行き来する」、さらには「折衷主義」なんていうワードが出てくるのは、日本ではなかった視点ですね。

三沢  「折衷主義」なんていうのは、日本語訳のせいもあるかとは思いますが、実にフランスらしい表現だなと思いました。いずれにせよ、いまの若い方たちが森田作品を観ても「新鮮」、「衝撃的」と皆おっしゃる。それは、森田が聞いたら一番喜んだんじゃないかな。そのふたつをいつも掲げてやってきたと思うので、こんなに何十年も経っても、若い人にそういわれるっていうのは、本人はすごくうれしいんじゃないかなと思います。

  • 監督の言葉が、まるで天から降り注ぐようなコーナーも。
  • 全作品のポスター。展示には傾斜がつけられていて、角度によって全作を一挙に眺められるようになっている。

――いろいろとうかがいましたが、そのほかにも展示のここを観て! というポイントがありましたら教えてください。

三沢  まずは、全作品のポスターですね。森田は映画の宣伝においてもアイデアを出す監督でしたので、ポスターにもうるさかった。新人監督のころは口出しできなかったんですが、途中からもう全部本人が口を出してるんです。今回、一堂に会したポスターを観ると、そういう流れもわかっていただけるかなと思います。そして、1回全部見終わって最後まで行ったら、今度は逆から観てほしいんです。そこには1本1本の映画のセリフからひとつずつ抜き出してあります。これもスタッフみんなで選んだものですけれど、森田のシナリオは、特に本人が書いたセリフは抜群におもしろいので、自信があります。

同業の監督たちが、森田とその作品について語った言葉の数々もおもしろい。
ほかにも、現場のメイキング写真を集めたモニターでの映像、映画監督や俳優の方々が森田について語ってくれた言葉の数々、展示会場に流れている音楽など、まだまだ見どころは語りつくせないほどあるのですが、最後に一番いいたいのは、この展覧会を形にしてくださった展示スタッフへの感謝です。森田組スタッフが総力を結集した展示だというのは、私も各方面でいわせていただいて、かなり浸透しているようですけど、国立映画アーカイブで企画からずっと担当していただいた岡田秀則さん、藤原征生さんは、限られた予算でどこまでやるつもりかと、当初はものすごく戸惑われたことと思います。でも、徐々に趣旨や我々の思いの深さをわかってくださって、最後はおふたりもひとつのチームになっていました。会場のところどころに見かける「緑のハート」、『ときめきに死す』をお好きな方はわかると思いますが、あのアイデアは岡田さんからですからね。そういう、わかる人には気がついてもらえるユニークな遊びもふんだんに散りばめられていますから、本当に、時間をかけてじっくりと、観にきていただけたらと思います。

 

  • 映画に登場した印象的な小道具の数々が、あちこちにさりげなく置かれている。すべてわかれば筋金入りの森田通だ。
三沢和子

三沢 和子(みさわ かずこ)

映画プロデューサー。ニューズ・コーポレイション(森田芳光事務所)代表。東京教育大学付属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)、早稲田大学卒。1981年、森田芳光とニューズ・コーポレイションを設立。『の・ようなもの』を製作する。
おもなプロデュース作品は
『永遠の1/2』(1987年)
『バカヤロー! 私、怒ってます』(1988年)
『バカヤロー!2 幸せになりたい』(1989年)
『キッチン』(1989年)
『バカヤロー!3 へんな奴ら』(1990年)
『バカヤロー!4 YOU!お前のことだよ』(1991年)
『夜逃げ屋本舗』(1992年)
『未来の想い出 Last Christmas』(1992年)
『免許がない!』(1993年)
『夜逃げ屋本舗2』(1993年)
『大夜逃 夜逃げ屋本舗3』(1995年)
『(ハル)』(1996年)
『OL忠臣蔵 Chu~Shin Gura』(1997年)
『お墓がない!』(1998年)
『39 刑法第三十九条』(1999年)
『黒い家』(1999年)
『阿修羅のごとく』(2003年)
『海猫 umineko』(2004年)
『間宮兄弟』(2006年)
『サウスバウンド』(2007年)
『椿三十郎』(2007年)
『わたし出すわ』(2009年)
『武士の家計簿』(2010年)
『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)
『の・ようなもの のようなもの』(2015年)
など。

パンフレット「はじめまして森田芳光」

<パンフレット「はじめまして森田芳光」>

今回の展覧会・上映会にあわせて、三沢さんが自ら陣頭指揮を執り編集した全100ページのパンフレット。各国での映画祭で、森田作品の詳細なガイドがほしいと要望されたことが刊行の発端だという(そのため全内容に英語対訳付き)。全作品解説、三沢さん執筆の年譜、ライムスター宇多丸さん執筆の監督論、海外の映画祭プログラマーの言葉など、必携の森田芳光作品入門書となっている。現在は、国立映画アーカイブ受付でのみ入手可能。価格は1980円(税込)。

 

<企画概要>

企画展「展覧会 映画監督 森田芳光」
会期:2025年11月30日まで開催中(月曜休館)
国立映画アーカイブ7階(展示室)
詳細:映画監督 森田芳光 – 国立映画アーカイブ

 

特集上映「映画監督 森田芳光」
会期:2025年10月12日〜10月26日、11月4日〜23日
国立映画アーカイブ2階(長瀬記念ホール OZU)
森田芳光の劇場用監督作品だけでなく、自主制作映画(8ミリ)、さらに脚本家としての仕事にもスポットを当て、31プログラム(38作品)を上映。鑑賞本数によって記念グッズがもらえるスタンプラリーも実施。上映スケジュール、チケット情報などの詳細は、
詳細:映画監督 森田芳光 – 国立映画アーカイブ

VECTOR youtubeでも動画版インタビューを公開中!

 

■映画プロデューサー 三沢 和子が語る映画監督 森田芳光 前編

 

■映画プロデューサー 三沢 和子が語る映画監督 森田芳光 後編

「いまふたたび、森田芳光を感じる意味」
〜映画監督 森田芳光を知らない人にこそ、観てほしい〜」

■インタビュー:三沢和子

■取材協力:ニューズ・コーポレイション(森田芳光事務所)、国立映画アーカイブ、独立行政法人国立美術館

■メインビジュアル:『それから』撮影中の森田芳光(1985年) 篠山紀信撮影

■取材・構成:ヤマモトカズヒロ、佐々木 淳

■TEXT:佐々木 淳

■写真撮影:尹 哲郎

■映像撮影:加藤祐仁

■映像編集:創太

■記事編集:ウォーターマーク(尾崎健史・諸星和明・池田倫夫)

■プロデュース:ライトスタッフ(山本和宏・岩澤尚子・緒方透子)

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