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「いまふたたび、森田芳光を感じる意味」
〜映画監督 森田芳光を知らない人にこそ、観てほしい〜

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森田芳光フィルモグラフィー

森田芳光が32年間の間に残した劇場映画

森田芳光監督作品

 

『の・ようなもの』(1981年)
『シブがき隊 ボーイズ&ガールズ』(1982年)
『(本)噂のストリッパー』(1982年)
『ピンクカット 太く愛して深く愛して』(1983年)
『家族ゲーム』(1983年)
『ときめきに死す』(1984年)
『メイン・テーマ』(1984年)
『それから』(1985年)
『そろばんずく』(1986年)
『悲しい色やねん』(1988年)
『愛と平成の色男』(1989年)
『キッチン』(1989年)
『おいしい結婚』(1991年)
『未来の想い出 Last Christmas』(1992年)
『(ハル)』(1996年)
『失楽園』(1997年)
『39 刑法第三十九条』(1999年)
『黒い家』(1999年)
『模倣犯』(2002年)
『阿修羅のごとく』(2003年)
『海猫 umineko』(2004年)
『間宮兄弟』(2006年)
『サウスバウンド』(2007年)
『椿三十郎』(2007年)
『わたし出すわ』(2009年)
『武士の家計簿』(2010年)
『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)

 

このフィルモグラフィには、鮮烈なデビューを飾った『の・ようなもの』、ベストテン第1位など映画賞を総なめにした『家族ゲーム』や『それから』『39 刑法第三十九条』、現在ではカルト的人気を得ている異色のハードボイルド『ときめきに死す』、吉本ばなな原作の世界観を見事に映像化した『キッチン』、世界でもいち早くネット世界での恋愛を描いた秀作『(ハル)』、流行語大賞にまでなったベストセラーの映画化『失楽園』、オタク的人生の遊び心をすくいあげた『間宮兄弟』、時代劇に経済ドラマを導入してエンタテインメントに仕上げた『武士の家計簿』など、各時代を代表する作品がズラリと並んでいる。だが、あえて誤解を恐れずにいうと、それでも森田芳光という監督の作品には、いまだに「名作」という呼称が似つかわしくない。なぜだろうか? 自主映画時代から変わらない、彼ならではの「時代を切り取る独特の視線」と「それを可視化したかのようなアイデアに満ちたポップな演出」が、そうした「箔付」を自ら拒絶するかのように遠ざけているのだ。
ある作品は、その作品が生まれた時代相の映像による批評のようであり、またある作品は、取り上げた題材やジャンルそのものと演出が一定の距離感を保ちながらシャイにたわむれているようにも見える。ずばりとテーマにドラマで斬り込むのではなく、映像と音を通じた感性に託してテーマを伝える。それが森田の映画だった。とにかく新鮮だった。だから漱石を映画化しても(『それから』)、小津作品にオマージュをささげても(『おいしい結婚』)、向田邦子作品(『阿修羅のごとく』)や黒澤映画(『椿三十郎』)のリメイクに挑んでも、新しい時代の衣をまとったような、若々しさ、軽快さ、近しさがあった。彼が2011年に61歳で亡くなったとき、多くの映画ファンが言葉にできない喪失感を感じたのは、そういった作品の感触ゆえのことだったのではないだろうか。
「まさか、もう森田の新作が観られないなんて!」と。

 

では、そんな森田らしさを表現した展覧会とは、どのようなものかを次章よりお届けする。

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