大胆かつ繊細で鋭利。ちりばめられた「おトボケ」。 漫画表現の探究者「こうの史代展」金沢でスタート!
漫画家・こうの史代。
アニメ映画『この世界の片隅に』(2016)の原作者、といえば通りがいいだろう。
しかし、こうの史代という作家の凄みは、そこに押しとどめられるべきではない。
日常生活、ファンタジー、戦争、ペット、古事記、般若心経、東日本大震災……。
多様な題材にアプローチし、漫画の表現手法で様々な挑戦を行う。
そんな「漫画表現の探究者」こうの史代がプロデビュー30周年を迎える。
これを記念した大規模巡回展が、金沢21世紀美術館で5月2日より始まった。

多様な題材、変化に満ちた表現手法、圧倒的なボリューム。
密度の高い展示で「こうの史代を浴びる」!

こうの史代の漫画は、ぱっと見「親しみやすい」。
やわらかいラインで描かれたキャラクター、ぬくもりを感じる背景、ちりばめられるトボけたギャグ。
しかし、その先に待っているのは……。

「こうの史代展」では、プロデビュー直前に雑誌掲載されたイラストから2025年3月に執筆された最新作『描く人へ』まで、30年間に描かれた作品の原画を編年体で展示。基本的に短編作品は全ページを、連載作品は数話をセレクトして各話ごとに全ページ展示している(『空色心経』のみ抜粋展示)。まずは、この作品展示で「こうの史代を浴び」てほしい。

「物語」の面では、作品の題材選択の自在さ、人間に対する鋭い観察眼、知性的な表現、思わず吹き出してしまうおトボケ。「絵」の面では、画材の選択も含めた表現手法の多種多様さなどから、大胆かつ繊細で鋭利な「こうの史代」を存分に味わえるだろう。
脚本
コンテ

また、こうのならではの漫画創作手順が感じられる中間素材も紹介。『空色心経』の「脚本」「コンテ(ネーム)」「下書き」が展示され、それぞれどの部分を固めていくためのステップかを丁寧に解説している。

さらに、高校時代の原稿や、商業誌未発表のブログ掲載イラストも一部展示されていて、商業発表された漫画作品の背景にある、こうのの漫画活動の一端を垣間見られる。

なお、漫画には右上から左下へという「読む方向」があるため、基本的に反時計回りに展示しなくてはならず閲覧順序が複雑になっている。展示スタッフの苦心の跡が感じられる床面の色付き矢印を手掛かりに、しっかりと観覧されたい。
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