Netflixシリーズ『ガス人間』レビュー
身体を気体化させて、あらゆる場所に入り込み、狙った人間をつぎつぎと殺していく「ガス人間」。その目的はなにか? この怪人の正体は――。
1960年代に国内外の映画ファンを驚かせた東宝特撮映画「変身人間シリーズ」の傑作『ガス人間第1号』が、グローバルプラットフォームNetflixのドラマシリーズとしてリブート。日韓のトップクリエイターが集結し、最新のデジタル技術を駆使して描かれる、新次元のクライムスリラーシリーズ『ガス人間』として、配信がスタートする。

カルト的人気の変身人間シリーズをリブート
Netflixシリーズ『ガス人間』は、現在も海外を中心に人気を集める変身人間シリーズ(※)の1本『ガス人間第1号』(1960、監督:本多猪四郎 / 脚本:木村武)を、全8話でリブートしたクライムスリラー。東宝やWOWPOINT、白組、Netflixという日韓のヒットメーカーが結集し、伝説的特撮映画を完全オリジナルストーリーとしてよみがえらせた。


監督は、探偵SFサスペンスの劇場作品『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(2023)、配信ドラマのサスペンスホラー『ガンニバル』(2022)を手掛けた片山慎三。
脚本とエグゼクティブプロデューサーを務めたのは、アクションホラーの劇場用作品『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)の監督・脚本、その前日譚の劇場用アニメ作品『ソウル・ステーション/パンデミック』の監督・脚本・プロデュースを手掛けた韓国の鬼才ヨン・サンホが務めた。

人間の狂気と闇をじわりと描き出す作風の片山監督と、アニメ出身ならではのテンポのよさを持ち、緊急事態下での家族愛を描かせたら右に出る者がいないヨン・サンホは、まさに新生『ガス人間』のためのコンビといえるだろう。
犯罪スリラーにとどまらない、ヒトクセあるヒューマンストーリーを演じるのは小栗旬と蒼井優。日本映画界のトップランナーのひとりである小栗は、連続殺人犯・ガス人間の謎を追う刑事・岡本賢治役。演技派として海外でも注目されている蒼井は、この異常な事件を追跡取材するTV局記者・甲野京子役を演じる。
タイトルロールのガス人間を演じるのは、海外を中心にファッションモデルとして活躍するUTA。本作が俳優デビューながら、父親・本木雅弘ゆずりの圧倒的な存在感で、生物を超越した怪人の不気味さを見せつける。
TV生放送の最中に起きた人体爆発が、謎の怪人・ガス人間の犯行声明によって劇場型連続殺人の皮きりだとわかるのが第1話の約16分。物語は、ここから最終話まで加速し続け、「点」だと思われたガス人間の標的や関係者、そしてガス人間自身も、過酷な運命という「線」でつながっていることが明かされていく――。
VFXがドラマに拍車をかける「特撮サスペンス」

注目したいのは、『ゴジラ-1.0』(2024)で米アカデミー賞視覚効果賞を受賞した白組が「ファンタジーではなくリアル」をコンセプトに挑んだVFX。VFXプロデューサーに『シン・仮面ライダー』(2023)の井上浩正、VFXスーパーバイザーに、『ゴジラ-1.0』でCGディレクターを務めた髙橋正紀が参加。人間がガスへと変化する様子を克明に描写するだけでなく、グリーンバックの合成やドローンを使った空撮、ワイヤーワークを駆使して、縦横無尽に動くガス人間と俳優をひとつの画面に見事に合成。

原作版『ガス人間第1号』では成しえなかった、建物内を飛び回り、空中から警官隊におそいかかるシーンをダイナミック、かつリアルに描いた。スピード感あるVFXシーンの数々が、重厚な人間ドラマと推理劇と組み合わさることで、物語のテンポを加速させ、一気に最終話まで見切ってしまう没入感を支えている。

ぜひ、本作だけが持つドキドキ、ハラハラ感、そしてストーリーの巧妙さを味わってほしい。何度も鑑賞することで、俳優の演技やセリフに隠されていた伏線を発見する楽しみもあり、圧倒的なストーリーテリングの妙を楽しめるだろう。
本作でプロデューサーも務めたヨン・サンホは、企画当初から「アジア発信の企画で、世界で勝つ」といい続けてきたという。Netflixをプラットフォームにした『ガス人間』が、世界を席巻するのも、夢物語ではないかもしれない。そう思わせるだけの説得力に満ち、視聴後の満足感も格別な作品である。

【Netflixシリーズ『ガス人間』】

Netflixにて2026年7月2日(木)世界独占配信(全8話(一挙配信))
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/ガス人間
【ストーリー】
生放送中のTV局で、インタビューされていた大学教授がガスに包まれ、ふくらんで爆死するという前代未聞の事件が発生。その直後、謎の男からの犯行声明が届き、男は自らを「ガス人間」と呼んだ。一部始終を目撃したTV局記者・甲野京子は、さらなる殺人を予告するガス人間の追跡取材を開始。さらに京子の元恋人で、謹慎処分となっていた岡本賢治刑事も現場に呼び戻された。
あらゆる場所に現れて犯行を重ねるガス人間の正体をつかめないまま、不可解な連続殺人が発生。日本中が恐怖に包まれるなか、京子と岡本刑事は、事件の核心に近づいていく。
【キャスト】
刑事:小栗旬
記者:蒼井優
動画配信者(妹):広瀬すず
動画配信者(兄):林遣都
ガス人間:UTA
ヤクザ:竹野内豊
【スタッフ】
原作:『ガス人間第1号』(監督:本多猪四郎 / 脚本:木村武)
監督:片山慎三
脚本:ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ
エグゼクティブプロデューサー:ヨン・サンホ、市川南・大田圭二・臼井央・佐藤善宏(Netflix)
企画・プロデュース:馮年、呉良次
プロデューサー:小野田壮吉、ヤン・ユミン
企画:山内章弘
企画・製作:東宝
共同企画・制作:WOW POINT
制作プロダクション:TOHOスタジオ
配信:Netflix
註釈
- ※ 「変身人間シリーズ」
変身人間シリーズは、『美女と液体人間』(1958)、『電送人間』(1960)、『ガス人間第1号』(1960)、番外編ともいえる『マタンゴ』(1963)が制作され、海外にも輸出され評判をとった。中でも『ガス人間第1号』は英語吹き替え版『The Human Vapor』として、『妖星ゴラス』(1962)の吹き替え版『GORATH』と二本立てで1964年に上映。アメリカで大ヒットを記録し、続編として『フランケンシュタイン対ガス人間』が企画された(未制作)。
Latest Article
Writer
幕田けいた
(まくたけいた)
宮城県出身。SFホラーや特撮系映画が得意ジャンルのフリーライター。ジャンク・カルチャー研究家。ネッシー好き、妖怪好き、恐竜も好き。日本ジュール・ヴェルヌ研究会会員。
著書に『ウルトラマンをつくったひとたち』(共著/偕成社)、『ジュール・ヴェルヌが描いた横浜: 「八十日間世界一周」の世界』(共著/慶應義塾大学教養研究センター)












