凄腕アニメーターの思考過程を展示する「太田晃博 作画展2nd」開催
東京・東大泉の東映アニメーションミュージアム特設会場にて、2026年7月21日(火)から8月31日(月)にかけて「東映アニメーションCREATORS FILE02:太田晃博 作画展2nd -イメージを具現化するアニメーターの仕事 -」が開催。太田晃博氏は映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)の原画・作画監督などで知られる、東映アニメーションのアニメーター。氏が手がけた原画や完成映像を通して、その裏にある工夫や思考過程まで見られる展示会の魅力をお届けする。

製作の流れに沿って創意工夫を味わえる『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』エリア

会場は、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、TVアニメ『ワールドトリガー2nd・3rdシーズン』(2021~2022)、TVアニメ『ONE PIECE』(1999~)の3作品に、太田氏の作画遍歴紹介をくわえた4エリアで構成されている。展示会名に「2nd」とあるのは、今年3月から5月に開催された「太田晃博 作画展」が好評を博し、第2期が開催されることになったため。全体の構成は変わらないが、『ワールドトリガー』と『ONE PIECE』エリアの展示内容がアップデートされたので、前会期に来た人も楽しめるはずだ。
最初は、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のエリア。本作の見どころである物語中盤、テラスでのゲゲ郎(鬼太郎の父)VS裏鬼道のアクションシーンを取り上げている。本シーンで太田さんは原画と作画監督(クオリティアップや絵の統一感を出すために各アニメーターが描いた原画を修正する)をつとめた。パネル展示はアニメ製作の流れに沿って進む構成で絵コンテをもとにした演出との作画打ち合わせからスタート。レイアウト(キャラクターの配置やカメラの動きなど各カットの画面を設計)や原画作業などを経て、最後は原画撮影映像と完成映像が展示されている。動きのイメージを固めるために自らアクションをやってみて、1日がかりで撮影したという参考用動画も見られる。実演した写真とラフ原画が並べられており、見比べられる点もおもしろい。絵コンテやタイムシートの見方、そこに書き込まれた専門用語の注釈まであって、アニメーターの仕事がわかりやすく説明されている。

そして本展最大の特徴は、シーンを預かったアニメーターが、どのような視点でカット内の動きや処理を考え、どのような技法を使って作画に落とし込んでいくのかが、端的な文章と実際の画面(場面写真)で説明している点。つまり、「視点」と「思考」の展示になっているのだ。アニメーターの思考を、ここまで丁寧に言語化した展示はきわめて貴重だ。解説コメントは、太田氏自身が書いたものだという。
先述した参考動画については、アクションのプロが演じたわけではないため、そのままの速度だと“素人っぽさ”が出てしまう。達人同士の戦いに見せるためスピードを1.5~2倍にしたとのこと。また、映像をよりよくするための工夫の一例として、ゲゲ郎が窓ガラスを割って室内に飛び込むカットがピックアップされているが、地面に落ちたガラス片をパッと消すという、物理的にありえないことをあえてやっているのがわかる。これはゲゲ郎が破片を振り払った様を表現しつつ、破片よりもキャラクターに意識を向ける意図からだ。ほかにも絵とコメントで様々な工夫が解説されていて、細部まで考えぬかれた絵作りによって、あの躍動感あふれるシーンが構築されたのかと感動を覚えた。
さらに古賀豪監督の絵コンテも展示。黄色のハイライトによって太田氏が書き込んだメモが区別され、そのシーンを任されたアニメーターの創意工夫が、可視化されているのが印象に残る。
よりマクロな視点で見せる『ワールドトリガー』と『ONE PIECE』
続いては『ワールドトリガー』のエリア。第1期の展示では、ひとりですべての原画を担当した『2ndシーズン』の2話「激突」などが取り上げられていた。原画マンとして経験を積み、こなせるカット数が増えたので「チャレンジさせてあげよう」と任せてもらえたそうだ。この経験について太田さんは「少ないカットしか持ったことがないと、自分のシーンのことしか考えられなくなりがちです。たくさんのカットを持てば持つほど、一番の見せ場は別にあるからこのシーンはあえて抑え気味にするといった、全体の流れのなかでどう描くかという俯瞰した視点が持てる」と教えてくれた。

現在展示されているのは、放送時に劇場版のようなクオリティの高さだと話題になった『3rdシーズン』の13話「1対1」。B級ランク戦のシーズン最終戦、盤面が大きく動き四つ巴の激戦となるエピソードだ。目を引くのは、ラストの二宮VS弓場の一騎打ちシーン。高所から見下ろすナンバー1シューターの二宮と、有利な間合いに持ち込むべくダッシュする弓場の立ち位置をイメージして、原画や絵コンテが配置されている。弓場の走りのシーンを盛り上げるため、アニメならではのウソで実際よりも長い距離を走らせる、横から見たカットと奥へ走っていくカットをつなげてカメラを回り込ませるといったアイデアが解説されている。また、この話数の途中で、紙からデジタル作画に移行している点にも注目。線の太さを細かく変えたり、縁取り線が設定できるデジタルならではの利点は、アステロイドのエフェクト作画にも役立っている。

『ONE PIECE』のエリアでは、ワノ国編とエッグヘッド編の担当シーンをピックアップ。注目は、1112話「激突!シャンクスVSユースタス・キッド」のコーナー。キッドが赤髪海賊団傘下の船に電磁砲(ダムドパンク)を放つ直前、シャンクスが”見聞色(けんぶんしょく)の覇気”で恐ろしい被害が起きる未来を予見するシーンだ。現実とシャンクスが見た未来のイメージの違いをわかりやすくし、シャンクスに神避(かむさり)を使わせるにいたった電磁砲の迫力と被害の大きさを巧みに表現している。ほかにも、ワノ国編の1061話「魔神の一撃!サンジVSクイーン」の緩急が印象的な戦闘シーンや、1072話「ふざけた能力!躍動するギア5」で疲労困憊だったルフィがふたたびニカに覚醒するシーンなど、見どころをあげればきりがない。

太田さんによれば、アップデートされた『ワールドトリガー』や『ONE PIECE』のエリアは、ピックアップした話数だけでなく見せ方にも第1期の展示とは違ったこだわりがあるという。「前回は1カットごとの工夫を伝えることを意識した構成でした。今回はカメラワークを見せたり、連続するカットで表現する意味などをわかりやすく解説するなど、よりマクロな視点の展示になっていると思います」。各エリアには、原画をパラパラ漫画のように楽しめる冊子もおいてあるので、ぜひ手にとって堪能してほしい。
“言語化”が太田氏の作画の真髄
最後は、作画遍歴を紹介するエリア。高校時代に「『もののけ姫』はこうして生まれた」のドキュメンタリーを見てアニメーターを志したことや、東映アニメーション入社後に先輩アニメーターの上手さに焦りを覚えるも、エゴン・シーレの絵を模写して手ごたえをつかんだことなどが、当時の素描と並べて語られている。そして、27才のとき「作画を言語化して捉える」という大きなターニングポイントを迎えた。このアニメーターとしての姿勢が、絵とともに思考回路も見せるという本展のあり方につながった。
言語化の重要性について太田さんは、「自分は白紙を渡されてすぐに描けるタイプではないんです。お絵描きの天才や子どものころから美術教育を受けてきた人なら、直感的に絵を認識できるけど、自分は言語化しないと絵を認識できないと20代後半から30代にかけて気づきました。だからアニメを見たときに、どの線がどうよかったかなどをメモするのが習慣になった。自分ではそれを“作活”と呼んでいて、絵を描くよりもすごく勉強になったという感覚がありました」と語ってくれた。2024年から東映アニメーション作画アカデミーの講師となり、言葉で作画を教える経験を積んだことも、本展に生きているという。


本展は、3作品のファンやアニメーターに憧れる人はもちろん、すべてのアニメファンにおすすめしたい。たとえ絵を描かない人でも、丁寧な解説によって、凄腕アニメーターの思考回路をたどれる。しかも、入場無料だ。ぜひ、すさまじいクリエイティビティの一端に触れて、より深くアニメを楽しめる視点を手に入れてほしい。
太田 晃博(おおた あきひろ)

1989年3月生まれ。宮城県仙台市出身。高校生のときにアニメーターに憧れを抱き、2008年に東映アニメーション研究所に入所。2010年の東映アニメーション入社後は、アニメーター・作画監督として活躍し、2024年4月より東映アニメーション作画アカデミーの講師も務める。代表作にTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期(2018~2020)、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』(2019)、TVアニメ『ワールドトリガー2nd・3rdシーズン』(2021~2022)、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)などがある。
【東映アニメーションCREATORS FILE02:太田晃博 作画展2nd
‐イメージを具現化するアニメーターの仕事-】

会期:2026年7月21日(火)~2026年8月31日(月)
会場:東映アニメーションミュージアム 特設会場内
開館時間:11:00~16:00(最終受付 15:30)
休館日:毎週水曜日・そのほか不定休
入館料:無料
公式サイト:https://museum.toei-anim.co.jp/information/2026-010.php
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Writer
中島文華
(なかじまあやか)
大阪府出身。Webや雑誌で、アニメや2.5次元舞台関連の記事を書いています。趣味はミステリー小説を読むこと。
Xアカウント:中島文華(@nakajima___a)




