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大胆かつ繊細で鋭利。ちりばめられた「おトボケ」。 漫画表現の探究者「こうの史代展」金沢でスタート!

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開始初日にこうの史代登壇のトークイベントも!

――漫画家生活30年を振り返る

開催初日5月2日13時30分から開始されたトークイベントは、こうの史代氏と本展覧会監修者で小説家の福永信氏の対談形式。トークは福永氏の穏やかな進行で始まった。
漫画家生活30年について、こうの氏は、「漫画家30年ということは、漫画家じゃない時期より長いということですね。決して平坦ではない30年でした。だからこそ飽きることなく続けてこられたかな」と振り返る。さらに「最初は(自分の作品が)雑誌に載ったらいいな、と思い、その次は単行本になったらいいな、と思っていました。でもなかなか出ずに10年。『夕凪の街 桜の国』でようやく単行本になり、そこからそれ以前の作品も単行本になりました。大体、こうなったらいいな、と思ってから10年後に実現するような感じできています」と続ける。
苦しかった時を聞かれたこうの氏は「『この世界の片隅に』を描いている時には、もうダメかと思った」という。「(前作の)『夕凪の街 桜の国』の印象が強すぎて、(『この世界の片隅に』の連載を)描いても手応えがなく、孤独でした。描いても描いても『夕凪の街 桜の国』の話をされて」いたそうだ。『この世界の片隅に』のアニメ映画がヒットしたらしたで『この世界~』の話ばっかり」になってしまったそうだが。

――漫画制作に関わることを人生になぞらえる

こうの氏は「よくいわれるように、やはり作品は自分にとって子どもです」と語ったうえで、漫画制作にまつわる事象を説明する。
「漫画にとって、生み出している私は母親なんですね。編集者は父親です。要所で大事な指摘をしてくれ、軌道修正もしてくれる。作品の発表の場を与えてくれるのは、進学先を決めてくれるような感じかな。雑誌連載は通学、単行本は就職でしょうか」と人生になぞらえた。
こうのさんは、プロとして活動しながらも、自費出版による作品発表も続けている。その理由について「漫画は《自由な表現形態》と思われていますが、商業作品には意外に決まっていることが多く自由がないんです。基本モノクロ1色とか、単行本として成立するページ数とか。本当はもっと自由でいいはずだと思います。短い作品を、ほかの作品と一緒にせず《薄い本》でそれだけで見てもらいたい、ということもあります」
と語る。「自費出版は、学校に行かずに世に出る子どもかな」とつけくわえて笑顔を見せる。

――せめて漫画を読んでいる時は楽しい思いを

福永さんの進行は、観客の発言を柔軟に取り入れる。全体で90分ほどのトークだったが、3回ほど観客の質問をうながした。
制作工程に好き嫌いはあるかと問われると「《コンテ》は楽しい。人物の《下描き》も楽しい。嫌いなのは《ペン入れ》。苦手なんです」とこうのさん。あの繊細な手描き背景の達人が「《ペン入れ》が苦手」とは!
「笑い」を積極的に取り入れる理由をたずねられると「世の中は悲しいことが多い。だから、せめて漫画を読んでいる時は楽しい思いをしてほしいからです」ときっぱり。
氏の芯にある強い思いを感じさせて、開会記念のトークイベントは終了した。

ライブペインティングも実施!

翌5月3日には、こうの史代氏によるライブペインティングも実施。
この日は11時くらいから約2時間、休憩をはさんで14時すぎから1時間半ほど、会場内に設置された特設スペースで行われた。

多くの観客が見守る中、床置きのキャンバスに向かってペンを走らせるこうの氏。
普段の漫画制作とは異なる姿勢で、多くの人とカメラに見つめられながら、描く。
これも、氏の「漫画表現への探究」なのかもしれない。
※ライブペインティングは5月20日(火)、21日(水)も実施予定

展覧会図録も必見!

本展開催にあわせて制作された図録「こうの史代 鳥がとび、ウサギもはねて、花ゆれて、走ってこけて、長い道のり」(青幻舎)が物販コーナーで販売中。
展示された数々の原画を厳選して掲載しているほか、大ボリュームの「こうの史代インタビュー」、「こうの史代略年譜」などを収録。「こうの史代関連文献リスト」は力作だ。デビュー当時の様子を描いた4ページのエッセイ漫画は、こうの漫画らしい「トボケ味」が効いていて、思わず吹き出してしまう。こうのファンならずとも必携の一冊に仕上がっている。

 

TEXT:ヤマモトカズヒロ

【展覧会情報】
漫画家生活30周年 こうの史代展
鳥がとび、ウサギもはねて、花ゆれて、走ってこけて、長い道のり

会場:金沢21世紀美術館 市民ギャラリーB
   石川県金沢市広坂1-2-1
   公式サイト:https://www.kanazawa21.jp/
会期:2025年5月25日(日)まで(会期中無休)
開場時間:10:00-18:00(入場は閉場の30分前まで/最終日は15:00閉場)

くわしくはイベント情報(北陸中日新聞)をご確認ください

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