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三池敏夫特撮美術監督が語る 災害を映像で再現すること
~阪神・淡路大震災から30年~

阪神・淡路大震災で起こった状況を追体験する映像がある。
『5:46の衝撃』。
神戸のHAT神戸脇浜地区にある「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」で、入館者が最初に目にすることになる7分の映像だ。
この映像を監督したのは、故・川北紘一監督。川北監督のもとで、あの象徴的な横倒しの高速道路をはじめ、壊れゆく数々の建造物を作り上げたのが特撮美術監督の三池敏夫さんだ。
この再現映像制作の裏側を、三池敏夫さんのコメントと資料で構成されたパネル展示とインタビュー映像で紹介する企画展示が4月26日から始まる。

「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」の震災30年記念企画展が始まる

阪神・淡路大震災から30年となる今年、「人と防災未来センター」2階の防災未来ギャラリーでは、震災30年特別企画2025「震災伝承の30年(これまで)と未来(これから)」という大きなテーマを掲げている。その具現化のひとつとして「再検証!ひとぼう1.17震災伝承コンテンツ」と題する企画展が、2025年4月26日から11月3日まで開催される。その中核をなすのが、三池敏夫監督による『5:46の衝撃』制作の裏側を紹介するパネルとインタビュー映像だ。
開催前日の4月25日、マスコミ向けの内覧会が実施され、三池敏夫監督も参加した。

企画展の全体概要の説明の後、河田惠昭センター長が挨拶に立った。「30年前、地震の中、なにが起こっていたのかを正確に理解することが、『これからもっと大きな災害が起きた時にどう対処するか』に役立つはず」と、河田センター長は災害を再現することの意味を強調した。「人と防災未来センターは、2002年の開館以来1000万人を超えるお客様に来館いただいた。今後も多くの人に、あの時なにが起こっていたのかを知っていただき、これからの災害に備える一助としたい」と締めた。

続いて三池敏夫監督が登壇。「地震の瞬間の映像は、なにも残っていない」。三池監督たち「特撮」映画の専門家に声がかかった背景をこう説明する。「自分たちの使命は、実際に起きたことをきちんと記録し残すこと。そこに嘘があってはならない」という決意で映像制作に臨んだという。映像が制作されたのは2001年。当時はまだCGの技術が発展途上で、ミニチュアを使った「特撮」技術で再現することになった。「今回の展示では図面や実際の撮影風景の写真で制作の様子を紹介しています。再現映像がどう作られたのか、その背景を感じていただければ」。

企画展では「人と防災未来センター」の西館4階にある3つの「震災伝承コンテンツ」を題材に、「災害を伝え残すこと」をどうやって形にしてきたのかを紹介している。
PART1が「震災伝承×特撮。『5:46の衝撃』playback」。PART2は「空間再現『震災直後のまち』reloading」。PART3が「『このまちと生きる』の30年look back」だ。
ここでは、三池敏夫特撮美術監督のコメントと所蔵する資料で構成されるPART1を中心に紹介する。

実際になにが起きていたのか

震災再現映像『5:46の衝撃』の制作背景は、14枚のパネルと約10分の三池敏夫監督のインタビュー映像、実際の記録写真と特撮制作現場写真の比較で紹介されている。

展示パネルとインタビュー映像で三池敏夫監督は、「通常はエンタテインメント作品のために使う”特撮”の技術が、震災を再現し、忘れられないことに貢献できた意義を強く感じた」と語っている。
また、震災再現映像では、通常の「特撮」映像とは異なり、そこでなにが起きていたのかを推定する難しさがあったという。阪神・淡路大震災の地震の中で起こっていたこと、の現場映像は、実はほぼ存在していない。残っているのは、地震後の惨状をとらえた映像と写真が中心だ。地震の最中、つまりあちこちのビルが倒れる瞬間や、高速道路が横出しになっていく瞬間をとらえた映像は存在していない。そこで三池監督は、建造物の地震前の姿と、地震後の写真を比較し、建築の知識をもとにそこでなにが起こっていたのかを推定していくところから始めたという。そのうえで、実際に起きたことを再現するための仕掛けを、実際に「壊し」を担当する「特殊効果」のスタッフとともに考案。その仕掛けを実現するための設計図を引き、ミニチュア制作会社に発注をかけた。
展示ではそういった制作手順の紹介をはじめ、映像の中で描かれるいくつかの場面について、三池監督のコメントと図面やセットプランといった設計段階の資料や、スタジオでの建て込みや飾り込み、実際の撮影時に撮った記録写真で紹介している。

「想定外」は必ず起こる

阪神・淡路大震災といえば、象徴ともいえる横倒しになった高速道路の姿。その再現について三池監督は展示パネルとインタビュー映像で触れている。一本足の橋脚がストレートに並んでいた阪神高速道路。「当然強度計算はされていたはず」。しかし「想定外」の揺れによって橋脚は振られ、根元から折れ、高速道路は倒れた。「たとえ鉄筋が入った丈夫なコンクリートで作られていようと一本足は危険。そのことはきちんと映像で残すべきと考え、アップで撮影するための橋脚の大きなミニチュアも作りました」。

この企画展は小さいスペースながら、災害の再現に挑戦した「特撮」マンたちの《凄い技術の知恵と力》と《再現映像制作に臨む思い》に満ちている。
関西方面にお出かけの際は、「人と防災未来センター」にぜひお立ち寄りいただきたい。
そしてミニチュア「特撮」技術が凝縮された『5:46の衝撃』を体験したうえで、この企画展もじっくりとご覧いただき、「特撮」マンたちが全力で再現した「思い」を、胸に刻んでもらえればと願う。

人と未来防災センター

【阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター】

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター
住所:〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-5-2
連絡先:078-262-5050
開館時間:9:30〜17:30(最終入館16:30)
休館日:毎週月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日)、年末年始
特別日:毎月17日は入館無料(17日が休館日の場合は翌18日)
入館情報:https://www.dri.ne.jp/guide/info/
特設サイト:震災30年特別企画 2025 震災伝承の30年(これまで)と未来(これから)

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