大盛況!『水木しげる生誕祭 ―生誕104年―』 鳥取県境港で開催
『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』など、時代を超えて愛される作品を生んだ漫画家・水木しげるさん。惜しくも2015年11月30日に93歳で逝去されたが、その104回目の誕生日を祝うイベントが、水木しげるさんの故郷・鳥取県境港市で開催された。
3月6日~8日の3日間にわたり実施されたイベントの様子をレポートする。

水木しげる生誕祭

写真提供:鳥取県まんが王国官房
漫画家・水木しげるさん。『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』、『河童の三平』など、世代を超えて愛される作品や、自身の体験を基に厳しい戦場の現実を描いた作品、評伝から風刺のきいた短編漫画まで様々なジャンルの作品を多数残した作家だ。
3月8日は水木さんの誕生日だ。ご本人は2015年11月30日に93歳でこの世を去ったが、ご存命であれば今年で104歳を迎える。この水木さんの誕生日を祝うイベント「水木しげる生誕祭」が、3月7日(土)8日(日)の2日間、水木さんの故郷である鳥取県境港市で開催された。「水木しげる生誕祭」は2017年3月に始まり、コロナ禍でのオンライン開催も含め10回目となる。
荒牧慶彦さん・大塚明夫さんが登場!~ホールイベント~

写真提供:鳥取県まんが王国官房
「水木しげる生誕祭」のホールイベントは、今回から有料となり、1日2公演実施となった。
会場の「みなとテラス」には、開場前から参加者が続々と集まってきたが、かなりの数の妖怪(姿の仮装)が混じっているのが楽しい。会場は2公演とも満席となった。
イベント冒頭は、水木しげるさんの誕生日セレモニー。鳥取県知事・平井伸治氏は、『悪魔くん』の埋れ木真吾の仮装で登場。前日の大谷翔平選手の満塁ホームランで盛り上がっているWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)をもじって「こちらはYBC(妖怪・化け物・クラシック)で大いに盛り上がりましょう」と満場を沸かせた。続く境港市長・伊達憲太郎氏も『悪魔くん』のメフィスト2世の仮装で登場。「境港が大観光地となったのは水木しげる先生のおかげ」と謝辞を述べた後「ふはっ、と先生が驚くような素晴らしい観光地にしていきます」と今後への思いも語った。
続いて壇上には、水木しげるさんの奥様・武良布枝さん、長女・原口尚子さん、次女・武良悦子さんが登場。「ここ境港で、水木しげるの作品や、思いを知り、楽しんでいただけたら、こんなにうれしいことはありません」と静かに御礼の言葉を伝えた。
ゲストトークコーナーには、舞台『ゲゲゲの鬼太郎2025』でゲゲゲの鬼太郎役を演じた荒牧慶彦さんと、ねずみ男役の大塚明夫さんが登場。それぞれが演じた役や水木作品への思いを語った。
鬼太郎役のオファーを受けて荒牧さんは、「自分は背が高いほうなので、鬼太郎役と聞いて意外だった。自分の中では『青年・鬼太郎』というイメージを持って臨んでいる」そうだ。大塚明夫さんは「ねずみ男のおもしろさは子どものころにはわからなかった。キャラの振り幅がすごい。ねずみ男の持つ『自由』と『孤独』がすばらしい」とキャラクターの魅力を語った。
後半にはオリジナルの朗読劇を披露。鬼太郎とねずみ男がふたりで境港を訪れる、というストーリーで、境港の見どころガイドにもなっていた。物語は次第にねずみ男のキャラクターにフォーカスしていく。ラストは、故郷がないと嘆くねずみ男に「ただいま、といえば、おかえり、と応えてくれる、そこはもう故郷だ」と鬼太郎が諭す。この場面の、荒牧さんのわずかな強調の仕方で、会場中が意図を理解した。ねずみ男が小さく「ただいま」といってみる。客席が「おかえり!」と応える。それを聴いたねずみ男は、今度は大きく「ただいま!」といえば、客席はさらに大きく「おかえり!」と迎える。舞台と客席の見事なアンサンブルが生まれた瞬間だった。望月清一郎氏による脚本の妙と、荒牧さんのさりげない、しかし明確に意図を伝えた演技の妙。さらに思わず「おかえり!」といってあげたくなる大塚明夫さんの心細そうな演技の妙も加わり、会場全体が幸福な一体感に包まれて、イベントは和やかに終了した。
水木しげる記念館でも複数のイベントを開催
《前夜祭トークイベント》

生誕祭前日3月6日(金)夜には、水木しげる記念館の多目的ホールで、前夜祭トークイベントが開催された。これはtabiwaトラベル主催のツアー参加者の限定特典イベント。水木しげるさんご長女の原口尚子さんと、水木しげる記念館館長の庄司行男さんが登壇、これまでの水木しげる記念館の写真を見ながら思い出を語る内容。尚子さんによれば、水木さんのサインの「る」の字のぐるぐる度合いで機嫌の善し悪しがわかる、という。また、尚子さんの幼少期、父の水木さんは授業参観や運動会には一切来てくれず、来てほしいと手紙を書いたことがあったが、その手紙がアルバムに貼られていてグッときた、という話など家族ならではのエピソードが満載。中学の時、宿題で静物画を描いたが、遊びに行って帰ってきたら絵がうまくなっていたそうだ。水木さんが影などを描き足したらしく、やむなくそのまま提出したら、校長室前に貼り出されてしまったのだとか。
庄司館長は「ファンあっての水木しげる記念館であり、水木しげるロードです。これからもよろしくお願いします」と語り、原口尚子さんは「家族として、ファンのみなさんに感謝しかない。思い出していただけることがありがたい」と頭を下げ、前夜祭イベントを締めくくった。
《ゲゲゲのクイズ大会》

3月7日(土)、ホールイベントの2公演目が終了したのちの17時30分から、記念館の多目的ホールで開催された。水木さんご長女の原口尚子さんと記念館館長の庄司行男さんが解説役で登壇。記念館学芸員の渡部紗弥佳さんが構成と進行を担当し、楽しくディープなクイズ大会となった。出題は全部で7問。すべて3択式だったが、選択肢が絶妙で参加したマニアックで濃度の高いファンも思わずうなる内容だった。一例を紹介すると、水木しげるさんと奥様・布枝さんは、お見合いから結婚式までが非常に短いが何日後だったでしょう、という問題。正解は5日後なのだが、以前は10日後とされており、リニューアル前の記念館でも当初はそう書かれていたそう。しかし2010年に放送されたNHK朝ドラの『ゲゲゲの女房』制作の際、番組スタッフが調査したところ島根県安来市の布枝さんの実家で布枝さんの兄が書き残していた日記が見つかり、5日後であったことが判明したという。
7問中5問以上正解の参加者には「ゲゲゲのクイズ博士認定証」が送られたのだが、ほぼすべての参加者が手にしていたようだ。
《原口尚子さんによるギャラリートーク》

3月8日(日)9時からは、原口尚子さんによるギャラリートークを、常設展示室で開催。第1章の「境港のしげる少年」から第6章「水木しげるの言葉」まで、充実した展示物の要点を紹介した。第1章の紹介で、のんのんばあという近所に住んでいたおばあさんが、しげる少年に「見えないもの」への興味を喚起したことを示し、続く第2章の「水木しげると戦争」で南方戦線に送られた水木さんが現地人と交流を深めたことにふれる。「ほかの日本兵が現地人と交流をよしとしないなか、水木が交流できたのは、のんのんばあから自分と異なる存在を認めることを教えられていたから」と紹介。水木しげるという人物を紹介する常設展示の6つの章立てが、決して独立した別々の要素ではなく、相互に関係してひとりの人物の在りようを描き出していることが感じられた。
第6章では「戦争を賛美するのは 戦地に行かない人間ですよ」を紹介。この言葉は、昨今の世界情勢を受けてSNSなどで取り上げられることが多くなっているそうだ。尚子さんはまた、自身が一番好きという言葉を紹介した。「(前略)一人の人間が生きているということは、その背後におどろくほど永い祖先というものがあるのだ(後略)」。尚子さんは「何万人、何十万人という祖先の縁、人の縁があって自分はいまここにいる、と感じさせてくれる」この言葉がとても好きなのだそうだ。
ギャラリートークの最後を、尚子さんはこう締めた。「水木は困窮のなかでもいつも笑っていた。母は苦しかったがその様子を見て大丈夫だと思った。水木はいつもポジティブだった。過ぎたことは思い悩んでもしょうがない。その前向きな姿勢が、運も人も引き寄せたのだと思う」。
妖怪たちが大集結!妖怪パレードにぎやかに大行進!

3月8日(日)生誕祭2日目のハイライトである「妖怪パレード」が実施された。
13時30分に水木しげる記念館前庭に設置された特設ステージで、『河童の三平』に登場するキャラクター「タヌキ」のお披露目会が行われ、そこに大勢の妖怪たちが集まった。
前日に続きメフィスト2世姿の伊達憲太郎境港市長、ねこ娘姿の1日推しごとナビゲーター・永尾柚乃さん、埋れ木真吾姿の平井伸治鳥取県知事が挨拶し、タヌキが登場。
ここを起点に、水木しげるロードを練り歩く妖怪パレードがスタートした。

前日の荒天から一転、快晴の空の下、約4500人がパレードに参加したという。
水木しげるロードの、水木しげる記念館前から妖怪神社の前まで約500メートルを、車両通行止めにして行進する。先頭のブラスバンドが『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌と「カランコロンの歌」また平成版『悪魔くん』の主題歌を順に奏でながら進む。今年はパレードの参加者も、沿道の観覧客も例年より大幅に増加。参加者も老若男女あらゆる層のファンが参加していた。
パレードの後は、JR境港駅前の「ゲゲゲの広場」で、キャラクターグリーティングが行われた。オフィシャルのキャラクターとの撮影会のみならず、会場のそこかしこで、妖怪やキャラクター姿の参加者同士も写真撮影を楽しんでいた。
今年の「水木しげる生誕祭」の感触~水木しげる記念館・庄司行男館長コメント~
3月8日(日)水木しげる生誕祭のすべてのイベントが終了したのち、水木しげる記念館の庄司行男館長に、今年の生誕祭の感触を聞いた。

【水木しげる記念館 庄司行男館長のコメント】
ホールイベントを有料化し、1日2回公演にしたことが非常によい形で成果につながったと思います。本日の妖怪パレードもかつてないほど一体感があり盛り上がったように感じました。
ホールイベントは、今回初めて有料とし、回数も1公演から2公演に追加されました。有料化は、参加を強く希望する人が申し込むので、観たい人が観やすくなり、当日のキャンセルも減りました。
また公演回数を増やすことで、観たい人がより参加しやすくなりました。
同時に、水木しげるロードでも変化を感じました。1回だけの公演だと、公演の時間中は水木しげるロードのお客さんがいなくなってしまうのです。ですが2回の公演だと、1回目の公演中は2回目に参加予定のお客様が、2回目の公演中は1回目に参加したお客様が、水木しげるロードを楽しんでくれる形になったので、ロードの賑わいも1日中途切れることがなくなりました。
妖怪に扮しての「妖怪パレード」は、まず参加者が非常に多かったと思います。また沿道での観覧者もすごく多かったです。しかもこれまではパレードに参加した人と観覧の人とに少し温度差がありましたが、今回は観覧の方が妖怪の名前を呼んで手を振ってくれたり、すごくリアクションがよく傍観者ではなかった。参加者も手を振り返したり、両者の一体感がすごくあり、皆さん笑顔でとてもよかったです。今までで一番よいパレードだったように思います。
参加した方にも話を聞きましたが、パレードとてもよかったです、や、来年も絶対来ます! という声も多く聞けました。
水木しげるロード振興会のみなさんも、今回、7日夕方と夜にぜんざいのふるまいをしたり、新たな試みをされていました。こうしたことの積み重ねが、生誕祭のさらなる魅力になっていくと思います。
「水木しげる記念館」「水木しげるロード」で活性化した境港

写真提供:境港市観光振興課
ホールイベントで伊達憲太郎・境港市長は、「境港が大観光地となったのは水木しげる先生のおかげ」とコメントした。そのコメントの背景を簡単に紹介したい。
鳥取県境港市の人口は、戦後は増加傾向にあったが、1985年の3万8894人をピークに減少に転じた。市内の個人商店も1991年から2002年にかけて約2割も減少。「水木しげるロード」の整備前は商店街を歩く人が1日平均約100人程度であったという。

写真提供:境港市観光振興課
1993年、「水木しげるロード」がスタートする。当初のブロンズ像はわずか23体であった。

しかし、スタート初年約21万人の観光客が来訪。翌年には約28万人と、徐々に増増加。「水木しげる記念館」がオープンした2003年には、初年の4倍約85万人が訪れた。その後も右肩上がりで、2007年には100万人の大台を突破し、約147万人を記録。そして2010年、NHK朝の連続テレビ小説で『ゲゲゲの女房』が放送されると、観光客数は約372万人に達した。その後は約200万人前後で推移したが、コロナ禍の影響で激減。苦難の時代を経て、2023年11月の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の大ヒットと、翌2024年4月の「水木しげる記念館」リニューアルオープンにより、2024年は約201万人に回復した。
そして、前述のように、今年2026年3月の「水木しげる生誕祭」はかつてない盛り上がりを見せた。
水木しげる記念館 企画展『たたかう鬼太郎』4月11日(土)より開始!

素材提供:水木しげる記念館
水木しげる記念館の新たな企画展『たたかう鬼太郎』が4月11日(土)から始まる。鬼太郎が特殊な能力を使い、ときには仲間と力を合わせてピンチをのりこえる名場面を、41点の貴重な原画で紹介するものだ。
水木しげる記念館の企画展は、2024年4月のリニューアルオープン以降、半年ごとにテーマを決めて企画展示室で実施。企画展は、水木しげるさんの肉筆原画がみられる貴重な機会となっている。
これまでにも「鬼太郎の誕生」や水木しげるさんによる「戦記漫画」「昭和史」など、多彩なテーマを取り上げていて、充実した内容で魅せる企画展ばかり。
照明や空調が適切に整備され、1点1点、じっくり原画を鑑賞するのに最適な空間だ。
新たな企画展も魅力に満ちた展示になることは間違いない。
【2026年度前期企画展「たたかう鬼太郎」】
会期:2026年4月11日(土)~2026年10月4日(日)
会場:水木しげる記念館 企画展示室
※2026年4月6日(月)~4月10日(金)までは、展示替え作業につき企画展示室はご覧いただけません。
常設展示は通常どおりご覧いただけます。
水木しげる記念館 公式サイト:https://mizuki.sakaiminato.net/
水木しげるさんの故郷・境港が、水木しげるファンの心のふるさとであり続けられるよう「水木しげる記念館」や境港市から、魅力的な発信が続くように応援していきたい。
TEXT:ヤマモトカズヒロ
