アニメーション紀行「マルコ・ポーロの冒険」 ALLファン祭り★プレミア上映&トークショー イベントレポート
奇跡の復活を果たした『アニメーション紀行 「マルコ・ポーロの冒険」』の「ALLファン祭り★プレミアム上映&トークショー」が開催! 2025年4月13日、埼玉県川口市の「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ」で開催された、このイベントの模様をお届けする。

46年ぶりに全話再放送にこぎ着けた幻のアニメ

『アニメーション紀行「マルコ・ポーロの冒険」』(以下、マルコ・ポーロの冒険)全話が46年の時を経てよみがえった。
現在、NHK総合で毎週土曜午前5時10分から再放送中の『アニメーション紀行「マルコ・ポーロの冒険」』は、1979年からの放送後、第1回と最終回以外の放送原版が失われ、長らく「幻」とされていた作品だ。
マルコ・ポーロは、13世紀から14世紀にかけて活躍した、ヴェネツィア共和国の商人・冒険家。『東方見聞録』によって、中央アジアや中国、そして日本をヨーロッパへ紹介した人物である。その『東方見聞録』をモチーフにした『マルコ・ポーロの冒険』は、旅を描いたアニメと十数カ国におよぶロケ取材による実写のドキュメンタリー映像を組み合わせて制作された、まったく新しいタイプの作品だ。また、海外ロケの取材先の情報がほとんどない当時、暗中模索の状態で制作が進められた前代未聞の企画でもある。
NHKでは、海外放映用ネガフィルムとポジフィルム、デュープネガ(ネガの複製)を発掘。欠落した日本語音源や映像を、視聴者から提供されたVTRテープや音声を録音したカセットテープから抽出し、映像や音声のリマスターを行い再放送にこぎ着けたのだ。
その奇跡の復活を祝い、「アニメーション紀行『マルコ・ポーロの冒険』ALLファン祭り★プレミアム上映&トークショー」が開催され、日本全国から大勢のファンが集った。

全3部構成のイベントでは、声優の水島裕さんとNHKのキャスターが司会を担当。
第1部は、第16回「命の色」・第8回「バグダッドの幻想」を上映し、番組ディレクターを務めた中村哲志さんをゲストに迎えてトークショーを実施。第2部では、第38回「ラージャの遺産」を上映し、アニメパートを手掛けたマッドハウス(当時)の丸山正雄プロデューサー(現・スタジオM2)をゲストに、制作の裏側を解き明かした。第3部では、第12回「じゅうたんに秘めた恋」・第41回「父と子の絆」のダイジェスト版を上映し、第12回でミリアム役を務めた一龍斎春水(麻上洋子)さん、第8回でビドア役を務めた小山茉美さん、そしてここまでのゲストトークの司会も務めた第41回ダナ役・水島裕さんが登壇し、鼎談形式で当時の記憶を振り返った。

第1部登壇のディレクターの中村さんは、当時、少年ドラマシリーズ(※1)などを手掛け、演出家として脂がのっていた時期だった。それでもアニメと実写の比率が50:50の企画は難しいのでは? と思ったという。
「でも、誰もやっていないというのは魅力的でした。若かったからね(笑)。最初のロケは、イラン(※2)とアフガニスタン(※3)に行ったんですが、英語はほとんどしゃべれないし、初めての海外ロケ。メンバーはカメラマンと僕のふたりだけでした」(中村哲志さん)
と苦労話が飛び出す。

「当時は情報がなかったから、撮影スケジュールが決められない。遺跡は撮れるんですよ、動かないから(笑)。ところが遊牧民は動くから、探し回っても見つからない。アフガニスタンのロケが残り10日になったところで、カンダハルに突然、彼らが現れた (笑)。この作品は、僕の青春の時代です。マルコもシルクロードで成長していく。そのマルコと自分の青春を重ね合わせることができました」(中村さん)
アニメーター・杉野昭夫が描いたキャラクターに惚れました

第2部に登壇した丸山正雄プロデューサーも、アニメと実写ドキュメンタリーの融合という挑戦に苦労を重ねたひとり。当初は、キャラクターのデザインだけという依頼だったが、最終的にはアニメ制作も引き受けている。
「最初は、商売人の話はやりたくないなあ、と思ったんだけれど、キャラクターを杉野昭夫が描いたんです。このキャラがいいんですよ。この子が旅する話だったら、いけるかなと。杉野のキャラクターにほれたんですね」(丸山正雄プロデューサー)

しかし、前例のない制作現場は暗中模索状態だったという。
「ロケの撮影隊が、なにを撮ってくるのかわからない。だからなにをやるのか誰もわからない。丹泰彦プロデューサーと藤田克彦ディレクターと毎日ケンカですよ(笑)。マニュアルがないので、とにかくやってみての勝負でした。はじめてのことですから、みんな面白がってやりました。これはNHKの演出の方も一緒だと思います」(丸山さん)
演出で助けられたのは、オープ二ングやエンディング、挿入歌を担当したシンガーソングライターの小椋佳さんの音楽だったという。
「感心したのは、曲の世界観が、僕らがこれからやろうとしている映像を先読みしたような歌詞になっている。すげえなと思いました」(丸山さん)
富山敬さんへの想いを胸に

第3部ではミリアム役の一龍斎春水(麻上洋子)さん、ビドア役の小山茉美さん、ダナ役の水島裕さんの声優鼎談が繰り広げられた。
第16回「命の色」に出演した小山茉美さんは、1990年にマルコのような地球一周の「東方見聞旅」に出かけたという。
「私はイスラエルからヨルダンに入ったんですが、現地に行かないと分からない中東の空気感や太陽の強さを経験しました。ですから今日、作品を拝見して『マルコ・ポーロの冒険』には本当に臨場感があると思いましたね」(小山茉美さん)
と感想を語ってくれた。

第8回「バグダッドの幻想」の劇中で歌を披露した一龍斎さんは、1995年に亡くなったマルコ役・富山敬さんを懐かしんだ。
「譜面をもらって歌を練習しましたが、最後の音が外れているんです。その後、マルコ役の敬さんが同じ曲を、同じように歌ってくれて助かりました(笑)。あれは優しい敬さんが、わざと音を外してくれたのかも。本当に敬さんは優しかったですね」(一龍斎春水さん)

水島さんも――。
「敬さんは先輩というよりも、チームのリーダーのようでした。メガネの奥の目がいつも笑っていて、大好きでした」(水島裕さん)
と述懐した。
イベントの最後には、1980年に放送されたNHK-FM放送の深夜ラジオ番組『クロスオーバーイレブン』(※4)の、富山敬さんによるオープニング・ナレーションが流された。さらに、富山さんが当時のファンクラブの会報のために、マルコへの”想い”をつづった寄稿文を水島さんが代読。

「もう一度、あの愛しいマルコに逢いたい。そんな思いです。」(富山さんの寄稿文)
46年の時を経て、この日ようやく富山さんの思いが結実した。それを実感できたマルコ・ポーロの冒険ファンの温かい拍手に会場は包まれ、この素晴らしいイベントは終了した。
アニメーション紀行「マルコ・ポーロの冒険」
NHK総合テレビ 毎週土曜日 午前5:10~再放送中
NHKプラス(同時配信・見逃し配信)とNHKオンデマンド(放送当日18時から)でも配信中
作品情報(NHK):https://www.nhk.jp/p/ts/968LX32ZWM/
註釈
- ※1 少年ドラマシリーズ
NHK総合テレビで、1972年から1983年まで小中学生向けに放送されたドラマシリーズ。第1作は筒井康隆原作『時をかける少女』をドラマ化した『タイム・トラベラー』。最終作はあだち充、やまさき十三原作のマンガをドラマ化した『だから青春 泣き虫甲子園』だった。 - ※2 イラン
1935年から1979年初めまでは、イラン最後の王朝パフラヴィー朝によるイラン帝国時代。1979年にイラン革命が勃発して、現在のイラン・イスラム共和国が成立。中村氏らによるイランロケは、帝政末期の政情不安な情勢のなか行われたと推察される。 - ※3 アフガニスタン
イランと西で国境を接するアフガニスタンは、イラン以上に波乱な歴史に揉まれてきた地域。イギリスの植民地の立場から、1919年に王政で独立するものの、1973年にクーデターにより共和制に移行(アフガニスタン共和国)。それも長く続かず、1978年に再度クーデターが勃発し、大統領一家18人が皆殺しになる凄惨な事件を経て、社会主義化(アフガニスタン民主共和国)。アフガニスタン民主共和国は、ソビエト連邦と同盟を結び、国内で決起したイスラム聖戦士(ムジャーヒディーン)との戦争に突入(アフガニスタン戦争)。翌1979年には、アフガニスタン民主共和国の要請により、ソビエト連邦軍が侵攻した。
イランロケと並び、アフガニスタンロケも混迷を極める政情のなか、行われたのは間違いない。
その後のアフガニスタンは、1989年のソビエト連邦軍の撤退までに、国土は荒廃し、インフラも壊滅的な被害を受けた。ソビエト軍撤退後も、激しい内戦が繰り広げられた後、2001年にアメリカ軍が侵攻。2021年にアメリカ軍が撤退後、ターリバーンによるアフガニスタン・イスラム首長国が、アフガニスタンを支配している。 - ※4 『クロスオーバーイレブン』
NHK-FMで、おやすみ前の夜11時台、良質でセンスのいい音楽と「スクリプト」と呼ばれるミニドラマで構成した新しいタイプの音楽番組としてスタート。1978年から2001年まで20年以上続いたレギュラー放送のあとも、夏の特集期間などで度々“復活版”が放送される。富山は1980年度1年間ナレーターを務めた。