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三池敏夫監督と特撮美術の世界

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自選10作品紹介

三池監督の膨大な仕事歴の中から、ぜひここを見てほしいというコメント付きで10本の作品を選んでもらった。前ページ掲載の書籍にはその関連資料も掲載されているので、その該当ページ数も記載した。
ぜひ、作品とともに書籍の該当ページもご覧いただき、特撮美術の仕事を多角的に感じていただきたい。

1:平成ガメラシリーズ
『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)

 




「ガメラ 大怪獣空中決戦」
©角川映画・日本テレビ・博報堂/1995

「ガメラ2 レギオン襲来」
©角川映画 日本テレビ 博報堂 富士通 日販/1996

「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」
©角川映画・徳間書店・日本テレビ・博報堂・日販/1999

4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】(4K Ultra HD Blu-ray +Blu-ray 2枚組)
各8,580円(税込)

発売・販売:KADOKAWA

 

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平成ガメラ3部作UHD|映像商品

監督:金子修介 特技監督:樋口真嗣 脚本:伊藤和典 金子修介(3) 出演:中山忍(1、3) 藤谷文子(1、2、3) 螢雪次朗(1、2、3) 伊原剛志(1) 永島敏行(2) 水野美紀(2) 前田愛(3)ほか
※( )内数字はシリーズ3作品の識別
太平洋上で謎の巨大漂流環礁が発見された。その正体は古代文明が生んだ生体兵器ガメラだった。ガメラは地球環境を破壊する数々の敵に対し、敢然と立ち向かう。
本【P107‐159】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪昭和特撮から続く「ミニチュアワーク」のクオリティアップ≫
観客が見ている街の景色を忠実再現したいと思い、看板や自動販売機、電柱などのミニチュアのディテールにこだわりました。特に一作目『ガメラ 大怪獣空中決戦』では、どこにでもある商店街を描けたのが特撮美術の成果だと思っています。シリーズが進むと、より充実したミニチュアセットになっていきました。

2:『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003)

 


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発売・販売元:東宝

©2003 TOHO CO., LTD.

監督:手塚昌明 特殊技術:浅田英一 脚本:横谷昌宏 手塚昌明 出演:金子昇 吉岡美穂 ほか
ゴジラと3式機龍の死闘から1年。ある晩、43年前にインファント島を調査し、モスラの日本襲撃の際に対処した言語学者・中條信一の元に小美人とモスラが訪ねてくる。小美人は、人間が死んだ生物に手を加えてはならないとして、ゴジラのDNAから作られた機龍を海に返すことを訴えた。しかし、事態はゴジラの再上陸を受けて急変する。
本【P44‐61】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪壊すためのミニチュア≫
本作の特撮美術では「国会議事堂」が印象的です【P58-61】。 1954年の初代『ゴジラ』や92年の『ゴジラvsモスラ』でも怪獣が国会議事堂を壊しましたが、特技監督の浅田英一さんが手掛けた『東京SOS』の破壊シーンは、それらを超える描写が出来たと思います。ゴジラとメカゴジラが議事堂に激突して壊すシーンは一発勝負だったんですが、「壊すためのミニチュア」という意味で、自分の仕事の中でも代表作になったと思います。

3:『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)

 


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発売・販売元:東宝

©2001 TOHO CO., LTD.

監督:金子修介 特殊技術:神谷誠 脚本:長谷川圭一 横谷昌宏 金子修介 出演:新山千春 宇崎竜童 ほか
ゴジラの日本襲撃を防衛軍が撃退してから半世紀。米海軍の原子力潜水艦がグアム島沖で消息を絶った。捜索に向かった特殊潜航艇さつまは、原潜の残骸の近くで巨大生物の背びれを目撃。かつての襲撃で家族を失った立花准将の予測通り、ゴジラは再び日本に襲来する。そのときヤマトの守護神である3匹の護国聖獣が立ち向かった。
本【P6‐21】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪実在する山の再現≫
巨大なゴジラと小柄なバラゴンが大涌谷で戦うのですが、このセットは日本の怪獣映画史上最大規模のものです【P13-16】。過去のゴジラ映画でも山のセットはいっぱい作ってますが、1/25の「大涌谷」は第9ステージの天井まで届くスケールでした。切り立った崖や蒸気が立ち上ってる様子など、実景を忠実に再現することができたと考えています。大涌谷を背景に怪獣が激しい肉弾戦を繰り広げますが、過去のゴジラ映画にない名場面ができたと思ってます。

4:『ゴジラ×メカゴジラ』(2002)

 


「ゴジラ×メカゴジラ<東宝DVD名作セレクション>」

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2,750円(税抜価格2,500円

発売・販売元:東宝

©2002 TOHO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

監督:手塚昌明 特殊技術:菊地雄一 脚本:三村渉 出演:釈由美子 宅麻伸 小野寺華那 ほか 1954年に出現したゴジラ以降、日本には巨大生物が頻繁に出現するようになった。45年ぶりに2頭目のゴジラが現れたことを受け、日本政府は究極の対G兵器の開発に着手。初代ゴジラの骨格を基に「機龍」を完成させる。対特殊生物自衛隊による機龍のテスト機動が開始されたとき、ゴジラが八景島に上陸し、一大決戦が開始された。
本【P22‐43】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪架空の存在をデザイン≫
「機龍ドック」というメカゴジラの整備工場をデザインしました【P30-33】。怪獣サイズのドックは実在しないので特撮で作らなければなりません。これも特撮美術の一つの見せ場になっています。施工図面は『ゴジラ2000 ミレニアム』などを手掛けた高橋勲さんにお願いしました。架空の建築物の設計は大仕事でしたが、作り込んだディテールとライティングで、機龍を引き立たせる空間ができたと思います。

5:『モスラ2 海底の大決戦』(1997)

 


「モスラ2 海底の大決戦<東宝DVD名作セレクション>」

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2,750円(税抜価格2,500円

発売・販売元:東宝

©1997 TOHO CO., LTD.

監督:三好邦夫 特技監督:川北紘一 脚本:末谷真澄 出演:小林恵 山口紗弥加 羽野晶紀 満島ひかり ほか
ある日、石垣島の少女・汐里は、伝説の国ニライカナイの秘宝を守っているという不思議な生物ゴーゴと出会った。ニライカナイは、環境汚染の浄化システムとして生み出した怪獣ダガーラが暴走し滅亡した超古代文明だった。ダガーラ復活を察知したエリアス姉妹はモスラを召喚し、暴れ出したダガーラに戦いを挑む。
本【P102‐103】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪大きなセットを分割して動かす≫
特撮美術の見せ場は海底から浮上するピラミッドです。周囲の四つの石像は大澤哲三さんのデザインですが、ピラミッド自体は私がデザインし、その分割ラインも設計しました。一辺が12mの大きさがあり、大プールで撮影した後に上半分だけを小プールで浮上シーンを撮り、また大プールでフルサイズにして撮る必要がありました。お客さんが関知するところではありませんが、セットの構築や移動という要素も美術が苦心するところです。

6:『のぼうの城』(2012)

 


「のぼうの城」

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価格:スペシャルプライスBlu-ray 2,750円(税込)

発売元:アスミック・エース

販売元:ハピネット・メディアマーケティング

©2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ

監督:犬童一心 樋口真嗣 セカンドユニット・特撮監督:尾上克郎 原作・脚本:和田竜 出演:野村萬斎 榮倉奈々 佐藤浩市 ほか
周囲を湖に囲まれた忍城の領主・成田長親は、領民から「でくのぼう」の「のぼう様」と親しまれる人物だ。天下統一目前の豊臣秀吉は「武州・忍城を攻略せよ」と石田三成に命じ、大軍で忍城に迫った。すでに降伏を決めていた長親は、戦を仕掛けたい敵勢の策略に陥り、籠城戦が幕を開けてしまう。
本【P188‐189】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪見えない部分の設計≫
「忍城」という被写体として映る側のミニチュアセットと、画面では見えないけれど大量の水をセットにぶつけるための仕掛けも設計しました。この「見えない部分の設計」も特撮美術の大きな役割です。本作では1tタンクを18基、一度に18tの水を流す仕掛けを作りました。スタジオの中では、この規模の撮影はできないので、北海道の湿原地帯にセットを作っています。水源地だから、水は汲み放題、流し放題というメリットがありました。

7:『巨神兵東京に現わる』(2012)

 



© 2012 Studio Ghibli

監督:樋口真嗣 監督補・特殊技術統括:尾上克郎 脚本:庵野秀明 ナレーター:林原めぐみ 巨神兵造型・イメージデザイン:前田真宏 雛形造型:竹谷隆之
突然、東京で一人暮らしをしている「私」のところに、弟が訪ねてきて「明日、この街は滅ぶ」と言い出した。そして、不吉な言葉を残して姿を消した弟の予言通り、翌日、「巨神兵」が現れ、都市を焼き尽くしていくのだった。
本【P218‐233】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪様々な仕掛けのプラン≫
短編作品ですが、破壊シーンの連続なので、監督と特殊効果の関山和昭さんと相談しながら、裏側の仕掛けも含めて具体的なプランを描きました。CGに移行する時代にアナログの可能性に挑戦する企画で、テンパーガラスという強化ガラスを割って、表面を砕け散らせることでビル崩壊を描く方式【P230】など、いくつかの新しい技術を開発して導入しています。準備期間と予算などの条件が揃えば、まだミニチュアでも新しい技術が開拓できるんじゃないかと問題提起ができたと思います。

8:『男たちの大和/YAMATO』(2005)

 


「男たちの大和 YAMATO」

Blu-ray&DVD発売中

Blu-ray:3,300円(税込)DVD:3,080円(税込)

発売・販売:東映ビデオ

 

【東映オンデマンド】

監督:佐藤純彌 特撮監督:佛田洋 脚本:佐藤純彌 原作:辺見じゅん 出演:反町隆史 中村獅童 松山ケンイチ ほか
2005年 4月、鹿児島県の枕崎漁港の漁協を、内田真貴子という女性が訪れた。老漁師の神尾は、真貴子が戦時中の恩人、内田二曹の養女であることを知り、亡くなった内田の「遺骨を大和沈没地点に散骨し、戦友たちと一緒にして欲しい」との遺言を実現するため船を出す。
本【P168‐169】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪発展途上のCGとミニチュアの共存≫
巨大戦艦・大和をCGだけで描くには心もとなかった時代でしたので、ミニチュア主体で撮影しています。7mあるミニチュアを水に浮かべないという選択をし、海面はCGで表現しています。水に浮かべないので船体を3分割にすることができ、制作工程や運搬時にメリットがありました。さらにカメラが分割位置に設置できるので主砲を見上げるアングルでの撮影も可能になりました。砲撃の水柱は石を砕いた造園用の白い粉末を圧縮空気で飛ばして表現しています。

9:『クロスファイア』(2000)

 


「クロスファイア」

DVD発売中

6,600円(税抜価格6,000円)

発売元:TBS

販売元:東宝

©2000 東宝・TBS

監督:金子修介 視覚効果:小川利弘 脚本:山田耕大 横谷昌宏 金子修介 原作:宮部みゆき 出演:矢田亜希子 伊藤英明 桃井かおり ほか
OLの青木淳子は、物を発火させる超能力パイロキネシスをもっていた。孤独な生活だった淳子は同僚の多田一樹と出会い、親交を深めていく。そんなとき一樹の妹が惨殺された。だが犯人グループは親のコネと証拠の不十分さで無罪放免に。淳子は一樹に代わり、犯人たちに復讐しようと決心する。
本【P166‐167】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪ミニチュアではない原寸サイズの特殊美術≫
本作では俳優さんが絡む本編のセットも含め、全体の美術デザインを手掛けました。1/1「タンクローリー」の爆発を撮影したんですが、車体は本物でタンクだけ木製の偽物を作りました。巨大なミニチュアを作る予算はないし、俳優さんの芝居場にもなるシーンだったので1/1で撮影することにしました。特撮美術はミニチュア専門と思われがちですが、たとえば偽物の鍾乳洞や地震で割れる窓など、本編における特殊美術、特殊造形も重要な役割です。

10: 1.17シアター『5:46の衝撃』(2002)

 


人と防災未来センター 1.17シアター

・阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター

・株式会社トータルメディア開発研究所

・株式会社東宝映像美術

 

【人と防災未来センター】

監督:川北紘一 操演・特殊効果:久米攻 撮影:江口憲一 照明:斉藤薫
兵庫県神戸市に作られた施設「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」用に制作された映像。1995年1月17日の午前5時46分52秒に発生した「阪神・淡路大震災」。断層の露出から、建築物、鉄道高架線路の倒壊、横倒しになる高速道路の様子など、災害による大規模な破壊を、特撮による再現映像で詳細に描く。
本【P210‐217】

 

【三池監督コメント】

■自選ポイント≪実際に起こったことを忠実に再現する≫
これまでフィクションの中で、いろいろな物を壊してきましたが、本作は実際の災害を再現映像として作らなければならないので嘘がつけません。地震で壊れる建物を、火薬で爆発させるような表現は避け、ワイヤーで下に引っ張り込んだり、シリンダーを裏からミニチュアの石膏にぶち当てて壊すなど、様々な工夫を凝らしました。実際に起きたことを教訓として残す防災用映像の役割に、特撮技術が活かされたことは非常に印象深いです。

《コメント取材》

2024.9.10 調布市文化会館たづくり スタジオ にて

コメント取材:ヤマモトカズヒロ・幕田けい太

TEXT:幕田けい太

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