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三池敏夫監督と特撮美術の世界

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三池敏夫監督のイベント仕事
~先達の仕事を復元・紹介し、継承する~

ここでは、三池敏夫監督が再現に尽力した「岩田屋」ビルのミニチュア復元模型に関わる2つのイベントについて紹介したい。
東宝初のカラー怪獣映画『空の大怪獣 ラドン』(1956)のクライマックスシーンで、当時の福岡天神のターミナルデパート「岩田屋」がラドンに襲われ壊滅していく。この「岩田屋」のあまりにも精巧なミニチュアを設計し作り上げたのが特撮美術の井上泰幸氏(当時 特殊美術のチーフ助手)だった。
2022年に東京都現代美術館で開催された「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」の中核的展示物としてこの精巧な「岩田屋」ミニチュアの復元模型制作を担当したのが三池敏夫監督だ。

井上泰幸のセカイ展

井上泰幸氏の故郷・福岡県古賀市で10月6日(日)まで開催中のイベント。「岩田屋」の復元模型を中心に、いかにしてこのような精緻なミニチュアを作ることができたのか、その工程や道具を含めて紹介している。

 

井上泰幸氏の展覧会は、井上氏の姪である東郷登代美氏の熱意で、10年前に古賀市で始まった。しかしその時にはまだ、この「岩田屋」の復元模型は存在していなかった。今回初めて、福岡天神にあった「岩田屋」のミニチュアが福岡に展示されることになった。
開催期間はもう残りわずかだが、この機会に、舞台地・福岡での展示を味わってほしい。
なお天神にあった旧岩田屋ビルは、現在PARCOとなって営業している。外観の印象はだいぶ異なるが、天神交差点に面した建物の北東角が丸くラウンドしている様子に、往時の「岩田屋」をわずかに垣間見ることができる。だが残念ながら、このビルも2026年には再開発のため姿を消すそうだ。

【三池監督コメント】

井上泰幸さんの資料関係を管理している、井上さんの姪御さん・東郷登代美さんが、井上さんの生まれ故郷である福岡県古賀市で、福岡にあった「岩田屋」の復元模型をどうしても展示したいという思いで実現させた展示イベントです。
10年前に、東郷さんの熱意で古賀で「井上泰幸展」が開催され、それがその後の「井上泰幸展」の始まりだったのですが、その時には「岩田屋」の復元模型はありませんでした。
今回は、井上泰幸さんの業績の中でも「岩田屋」が登場する『空の大怪獣 ラドン』に絞り込んだ展示にしました。井上さんの原点であり、東宝の特撮ミニチュアセットのクオリティを上げたスタートでもあると思います。もちろん最初の『ゴジラ』(1954)から国会議事堂など素晴らしいミニチュアはありますが、モノクロ映画でした。『空の大怪獣 ラドン』は最初のカラー怪獣映画であり、また井上さんの故郷・福岡が舞台なので、すごく力が入っていて井上さんのミニチュアへのこだわりの第一歩と言っていいと思います。
誰が見てもすごいミニチュアだったことがわかるように、当時のロケハン写真とほぼ同ポジのミニチュアの写真を並べています。「岩田屋」に限らず、中洲の川沿いの日活ホテルとか、西鉄街という商店街とか。もう本当に見分けがつかないですよ。
写真そっくりに見える忠実なミニチュアを作る上で重要なのは、本物を採寸することです。井上さんは実測と写真判断を行いました。測れるところをメジャーで測って、それを基にビルの上のほうなど測れないところは写真から割り出していくのです。その時の、足で回った採寸のスケッチが残っているんです。それを見ると、井上さんがどれだけ丁寧に時間をかけて測って回ったかが分かります。岩田屋屋上の遊具、地面の線路の幅、電柱や道路標識などあらゆるものを測っています。その時に使用した実際の道具類も展示しています。
特撮セットのミニチュアを作りあげるには、全て図面が基準です。図面に基づいて大道具さんが地形や建物、飛行機を作ったりする。ですが、残念ながら井上さんが描いた『ラドン』の図面はもう残っていません。ですから「岩田屋」の復元模型を作るために私が引いた図面を代わりに展示しています。図面ありきで美術の仕事が成立するという作業工程がわかるような展示にしています。
「岩田屋」の復元模型にも工夫をしました。『空の大怪獣 ラドン』の中で、岩田屋の中で人が逃げているというカットがあります。当時は鏡を使って現場で演じているカットですが、復元模型では、そこにモニターを仕込んでビデオカメラで写した映像がそこに映るようにしています。お子さんにも楽しめるような工夫です。これは東郷さんのこだわりですね。

古賀が生んだ特撮美術の匠
井上泰幸のセカイ展

【会場】リーパスプラザこが 歴史資料館ギャラリー
    〒811-3103 福岡県古賀市中央2丁目13-1 内

【開催期間】2024年10月6日(日)まで

【開館時間】10時から18時まで

【休館日】9月24日(火)、26日(木)、30日(月)

【入館料】無料

【主催】古賀市/古賀市教育委員会

 

※詳しくは古賀市ホームページにてご確認ください

 

映画のまち調布 シネマフェスティバル

東京都調布市には、角川大映スタジオ、日活撮影所をはじめ多くの映画/映像関連企業・団体が集積している。そんな調布市ならではの、「素晴らしい映画制作の技術を未来につなげる」ことを企図した映画祭が「映画のまち調布 シネマフェスティバル」だ。
昨年度(2024年1月開幕)は、調布市内で約70年間映画・映像の仕上げや修復を行ってきた「東京現像所」の営業終了(2023年11月)を惜しむ特集上映を開催。その一環として東京現像所が2022年の「午前十時の映画祭12」での上映に際して4Kデジタル修復を行った『空の大怪獣ラドン』も上映された。

この上映後に三池監督と4K修復を担当した東京現像所の清水俊文氏のトークが行われ、また作品関連展示として「岩田屋」ミニチュア復元模型と関連資料の展示が行われた。

【三池監督コメント】

『空の大怪獣 ラドン』はもう約68年前の作品ですが、4K修復してリマスター版が作られ、特に色がとてもきれいになりました。この作業を行った東京現像所という会社がなくなるので、調布のシネマフェスティバルで記念上映をすることになり、「岩田屋」の復元模型も併せてぜひ展示したい、ということで上映と展示の連動が実現しました。
タイミングとしては非常によかったなと思います。ホビージャパンから「夢のかけら エクストラ・ジ・アート・オブ『空の大怪獣ラドン』」も出版されていたので、その紹介もできました。
上映する。ミニチュアを立体で展示できる。メイキングの本が出せる。・・・というのが非常に何か良いタイミングでした。ありがたかったです。

 

*****

「映画のまち調布 シネマフェスティバル」では、今後も特撮作品の上映・展示の可能性があるようで、三池敏夫監督が関わった特撮作品の上映も期待したいところだ。 今年度(2025年2月開幕)の上映作品はまだ発表されていないが、上映ラインナップの発表を心待ちにしたい。

映画のまち調布 シネマフェスティバル2025

【会場】調布市文化会館たづくり
    〒182-0026 東京都調布市小島町2丁目33-1 イオンシネマ シアタス調布
    〒182-0026 東京都調布市小島町2丁目61−1 トリエ京王調布 C館 ほか

【開催期間】2025年2月7日(金)から3月2日(日)まで

【主催】調布市文化・コミュニティ振興財団/調布市

 

※詳しくは映画のまち調布 シネマフェスティバル 公式ホームページにてご確認ください。

《コメント取材》

2024.9.10 調布市文化会館たづくり スタジオ にて

コメント取材:ヤマモトカズヒロ・幕田けい太

TEXT:ヤマモトカズヒロ


「三池敏夫監督と特撮美術の世界」

■インタビュー・コメント・資料提供:三池敏夫

■取材協力:角川大映スタジオ
 調布市文化・コミュニティ振興財団

■画像協力:KADOKAWA 竹書房 東宝 ハピネット・メディアマーケティング
 東映ビデオ スタジオジブリ
 須賀川市 アニメ特撮アーカイブ機構 古賀市
 調布市文化・コミュニティ振興財団

■取材・TEXT:幕田けい太・ヤマモトカズヒロ

■写真撮影・照明協力:諸星和明

■映像撮影:加藤祐仁

■映像編集:創太

■記事編集:ウォーターマーク(尾崎健史・諸星和明・池田倫夫)

■プロデュース:ライトスタッフ(山本和宏・岩澤尚子・緒方透子)

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