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三池敏夫監督と特撮美術の世界

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三池特撮美術を体感できる場所

福島県須賀川市にふたつの魅力的な特撮関連施設がある。「円谷英二ミュージアム」と「須賀川特撮アーカイブセンター」だ。
須賀川に特撮施設があるのには理由がある。「特撮の神様」=故・円谷英二の生まれ故郷であり、市が「特撮」を文化としてとらえ、特撮ゆかりの街づくりに取り組んできたからだ。また、2023年には市が特撮を文化として顕彰していくことを示した「須賀川市特撮文化振興基本方針」が策定された。
その両施設に、三池敏夫の特撮美術マインドが堪能できる場所があるので紹介したい。

円谷英二ミュージアム


円谷英二ミュージアム外観(市民交流センターtette)

市の中心部にある須賀川市民交流センター「tette(テッテ)」の5階に位置する。ここは館全体が図書館機能も有している。
「円谷英二ミュージアム」は円谷英二監督の生い立ちから活躍を7つのパートに区切り紹介する「円谷英二クロニクルボックス」や「空想アトリエ」といった大きな4つのゾーンで構成されている。


円谷英二ミュージアム フロアマップ

「空想アトリエ」はその発想と展示方法がユニークだ。円谷英二監督が伝えていた学びの大切さを、「空想生物学」「空想機械学」「特撮世界と環境学」「特撮天文学」「特撮寓話学」「特撮映像学」 の6つの架空の学問に区分し、それぞれをテーマとして展示をまとめている。
「空想生物学」には怪獣たちの、「空想機械学」にはメカニックの模型が数多く展示されている。

 

そして秀逸なのは、それぞれのテーマに関わる書籍たちが、特撮と直接関係あろうとなかろうとずらりと並べられており、しかも誰でも、これらの本を借りることができるのだ。館全体が持っている機能を、このミュージアムも変わらず持っているというところが展示施設として極めてユニークで特徴的だ。


円谷英二ミュージアム 特撮スタジオ

三池美術マインドが楽しめるのは「特撮スタジオ」のゾーン。円谷英二監督が多くの作品を手掛けた東宝撮影所(現:東宝スタジオ)をミニチュアジオラマで再現。特撮映像の背景画の大家・島倉二千六氏直筆の背景画が配された東宝大プールのジオラマでは大海戦の撮影シーンが再現されている。

また第8・9ステージのジオラマでは、「須賀川でゴジラを撮影する」という夢の光景が描かれている。

【三池監督コメント】

東宝撮影所の8スタ9スタおよび大プールってのは、東宝特撮の聖地なんです。しかし、もはや大プールも存在しませんし、8スタ9スタも特撮ステージじゃなくなりました。そこで、円谷監督が生きてた時代の、全盛期の特撮の様子を再現したいと構成しました。たくさんのスタッフがいたり、様々な機材が置いてあったりという往時の姿を、9スタと大プールで表現してます。大プールにはホリゾントがあり、その裏が怪獣とミニチュアの倉庫だったんです。裏側から見るとそういう雰囲気がわかるジオラマです。『ゴジラ須賀川に現る』を9スタで撮影してるイメージで、須賀川市役所庁舎とtetteのミニチュアも配置。そこで円谷監督がゴジラに指示している、新作を演出している雰囲気のジオラマにしてあります。実は大プールのほうにも円谷さんがいるので、2人存在しちゃってますが。

円谷英二ミュージアム

【所在地】〒962-0845 福島県須賀川市中町4-1

【開館時間】9時から17時まで

【休館日】火曜日/年末年始(12月29日〜1月3日)

【入館料】無料

 

※詳しくはtette公式ホームページ 円谷英二ミュージアム ページにてご確認ください。

須賀川特撮アーカイブセンター


須賀川特撮アーカイブセンター 外観

須賀川市が設立し、ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)が協力する特撮専門の収蔵施設。
本施設は特撮技術を後世に伝えていく役割を担い、特撮に関連する貴重な資料等を収集・保存・修復・調査研究を行うほか、特撮文化を顕彰、推進することを目的としている。


須賀川特撮アーカイブセンター 1階フロアマップ

1階には収蔵庫があり、収蔵品の一部を見学することができる。


須賀川特撮アーカイブセンター 収蔵庫

修復された6メートルにも及ぶ「戦艦三笠」のミニチュア(映画『日本海大海戦』で使用)をはじめ、ウルトラマンシリーズや『マイティジャック』に登場する数々のメカニック、ヒーローたちのマスク、『巨神兵東京に現わる』で使用された巨神兵のロッドパペットや映画『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』に使用された渋谷の「東急文化会館」のミニチュアなどが所狭しと並べられている。(見学できる収蔵品は模様替えが行われます)


須賀川特撮アーカイブセンター 2階フロアマップ

階段を上って2階に上がると三池特撮美術マインドを体感できる場所が現れる。

「ミニチュアセット」だ。
こちらも島倉二千六氏直筆の空ホリゾントを背景に、ミニチュアの町並みが広がっている。このミニチュアはパースが強調されており、空ホリゾントが背景に来るよう、カメラをセットに近づけて撮影すると大迫力の「特撮的」写真が撮影できる。ホリゾントとセットの間は人が通れるので、同行者をそこに配置すれば「街に巨人が出現!」といったさらに「特撮的」な写真も可能なのだ。
この「ミニチュアセット」の展示設計も三池敏夫特撮美術監督によるものだ。
さりげなく配置されているようでありながら、精密に計算された特撮美術の巧みを、ぜひいろいろな角度から写真を撮りながら体感してみてほしい。

【三池監督コメント】

◆「戦艦三笠」ミニチュア
ミニチュアの目玉としては、円谷英二監督の遺作となった、日露戦争を描いた映画『日本海大海戦』の「戦艦三笠」ですね。個人の方が屋内で飾っていたので奇跡的に残っていたとはいえ、やっぱり傷んでいたので、その後文化庁支援の予算で、「日本特撮アーカイブ」の事業として修復しました。塗装も剥がれてきていたので、1度全部剥がして塗り直すことになりました。塗装をはがしたら、高度な技術を用い寄木で船体が作られていて、しかも水漏れしない。おそらくそれは東宝の撮影所の大道具さんが作っていると思いますが、あまりにもその継ぎ方が見事で。全部塗装してしまうとその見事な木の加工が見えなくなってしまうので、半分だけ塗装せずに、下地が見えるように残しました。その修復の様子は映像として残してあり、特撮アーカイブセンターで観ることもできます。
船を使った場面の撮影は、当時は、ミニチュアの船を実際にプールに浮かべて引っ張って動かすというやり方しかなかったんです。だから、木の加工で沈まない船を作るとかそういう技術力が本当にすごい。おそらく制作時間もそんなにかけられないはず。しかもあの数並んでいる。『日本海大海戦』では、精度の高い船を、ものすごい数をものすごいスピードで作っていたわけです。これはやっぱり当時の技術を伺い知る、貴重な資料ですね。

 

◆「ミニチュアセット」
お客さんにジオラマの中で写真撮ってもらいたいということで、フォトスポットとしてその街のセットを作りました。
背景は島倉二千六さんにお願いしました。現地に来ていただき、青空の白い雲やロングの山なども描いてもらいました。手前のミニチュアセットは私がプランを出して、今、東映のスーパー戦隊シリーズで特撮デザイナーをやっている松浦芳くんと一緒に飾り込みをやりました。
この展示のためにオリジナルで作ったのは畑とか土地の部分で、建物自体はほとんど造形師の原口智生さんが修復して保存していた昔の作品のものです。一番古いものはおそらく『ウルトラマンA』の街灯。そのほかには平成ウルトラシリーズのミニチュアとか。一番手前に大きめの民家を置きましたが、多分ガメラの民家だと思います。意外とお宝レベルのミニチュアが使われています。
実は最初から原口さん保存のミニチュアをアテにしていたので、保管リストを見ながら展示プランを練りました。
マットアートみたいなこともちょっと体験できるようにしました。普通にアオッて撮影すると、背景の上の天井が映り込んでしまう。そこで、ひとつの撮影ポイントに無反射ガラスという反射しないガラスを設置しました。そのガラスの上部には背景につながる絵が描いてあります。そのガラス越しに、背景の絵とガラスの絵をぴったり合わせて撮影すると、全面がきれいな空の背景になるのです。こんな風に、特撮の技術を身近に感じてもらえたらと思います。

須賀川特撮アーカイブセンター

【所在地】〒962-0302 福島県須賀川市柱田字中地前22番地

【開館時間】9時から17時まで

【休館日】火曜日(国民の祝日のときは翌平日)/年末年始(12月29日〜1月3日)
     ※資料整理などで臨時休館となることがあります

【入館料】無料

 

※詳しくは須賀川特撮アーカイブセンター 公式ホームページにてご確認ください。

ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)について

特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(英名/Anime Tokusatsu Archive Centre、略称/ATAC)は、アニメと特撮の文化を後世に遺し、継承していくことを目的に、2017年6月に設立した特定非営利活動法人(NPO法人)です。(2023年1月17日に「認定NPO法人」になりました)
アニメや特撮に関する様々な資料を保全し、これらを活用した普及啓発を行い、アニメと特撮の文化を継承するアーカイブ活動を推進しています。(アニメ特撮アーカイブ機構 公式ホームページ TOPより)

 

※詳しくはアニメ特撮アーカイブ機構の公式ホームページをご確認ください

 

【三池監督コメント】

アニメ特撮アーカイブ機構=ATACという組織は、「特撮博物館」(2012年に東京都現代美術館で最初に実施された大規模展示イベント)がそもそものスタートです。その時に、文化庁の「サブカルチャーのコンテンツ」の中に「特撮」という文字がなかった。アニメ、コミック、ゲームはあるけど、特撮は何でないの?というところから始まりました。「特撮博物館」以降、僕らの中では「特撮」を未来に残したいという願望がありました。それが結実したのが、2017年に出来たアニメ特撮アーカイブ機構ですね。僕らを育ててくれたアニメーションおよび特撮を「文化」として残すための活動母体です。中間生成物もこれまでは、作品が終わったら無用のものとして捨てられてましたが、台本、絵コンテ、図面、デザイン画、ロケハン写真、それからミニチュア、ミニチュアを作る道具、撮影の機材、編集の機材、そういうものを全部ひっくるめて、大事なものとして残そうという活動を始めました。東京都認定のNPO法人になっていますので、個人所有ではなく公共財産として、日本のアニメーションと特撮を残そうという組織です。
これまで、文化庁の予算をいただいて、「日本特撮に関する調査」という調査報告書を3年間やったり、「戦艦三笠」のミニチュアの修復をしたり、「須賀川特撮アーカイブセンター」の設立にもつなげてきました。
また飯塚定雄さん(光学合成技師。『ウルトラマン』のスペシウム光線などの光学作画でも著名)や開米栄三さん(怪獣造形家)などにもお話をうかがい、オーラルヒストリーのアーカイブもやっています。
今後ATACでやっていきたいのは、収蔵庫の拡充と収集物の分析調査です。
いまは、とにかく「捨てないでください」ということで中間生成物を集めていますが、ただ集めただけだと塩漬けになってしまい価値あるものにはなりません。利活用できる状況に持っていきたいのですが、それには収集物の分析調査が必要です。これが誰でもできる作業ではなく、ある程度は作品の知識や現場的な知識も必要なため、なかなか分析調査が追いついてないのが現状です。ちゃんと分類整理して、解説もついて閲覧できるところまでいく、というのが今の課題ですね。
置き場所も拡充しないとならない。須賀川の特撮アーカイブセンターも実はもういっぱいなのです。
収蔵するだけでもお金かかりますし、維持して調査となるとやはりお金がかかる。ATACは非営利組織なので財源は厳しく、賛同者の寄付とか企業から資金をいただき、苦しい状況の中で何とか運営しています。寄付していただいた方には本当にお礼を申し上げます。

《コメント取材》

2024.9.10 調布市文化会館たづくり スタジオ にて

コメント取材:ヤマモトカズヒロ・幕田けい太

TEXT:ヤマモトカズヒロ

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