愛と情熱がボルトイン! 時代を超え蘇った『ボルテスV レガシー』
70年代末に放映されて以来、フィリピンで伝説的人気を作り出してきた『超電磁マシーン ボルテスV』。
そのロボットアニメが半世紀の時を超えて実写化、日本に凱旋する。
『ボルテスV レガシー』制作の裏側には、日本フィリピン共同の「愛と情熱、そして悪戦苦闘」があったという。
東映の篠崎直樹プロデューサーに話をお聞きした。
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『ボルテスV レガシー』篠崎直樹プロデューサー インタビュー
それこそ「愛をしっかり育てていく」みたいな作業だった
――『ボルテスV レガシー』は、どのような経緯で制作がスタートしたんでしょうか。
篠崎直樹プロデューサー(以下、篠崎) 今回、マーク A. レイエス V監督が来日した折に、いろいろ話をお聞きしたんですが、企画自体は2004年ぐらいから構想が始まったそうです。ただ、当時のフィリピンのCG技術では求めているクオリティが出せないとか、資金面の工面とか、いろいろな事情で不可能だったんですが、2014年ぐらいからフィリピンのテレビ局側を説得できる状況になり、なんとか進めてみようかという話になったそうです。もちろん、早い時期に東映も話をいただいていたんですが、正式に「リメイク」という形で契約を結んだのは2017年ごろです。監督が企画を思いついてから、すでに20年も経っていて、東映側の担当もリレーのバトンのように受け継がれてきた企画だったんです。
――最初に『ボルテスV レガシー』のフィリピン側制作陣のコンセプトをお聞きしたとき、どんな感想をお持ちになりましたか。
篠崎 私だけでなく、エグゼクティブプロデューサーの白倉(伸一郎氏)も言っていたんですが、一言「マジか⁉」と(笑)。しかし、当時、彼らが持ってきたパイロット版を拝見すると、アニメの『ボルテスV』をブラッシュアップする形で、現在の実写版の骨格がすでに完成していて、作品のテーマ「愛と情熱」が本当に形になっているなと思いました。
フィリピンでは『ボルテスV』がすごい知名度を持っていて、人気だと知っていたので、現地ではとても話題になるんだろうとは、一目見てすぐわかったんですよ。でも令和の世に、それを日本に逆輸入するとは思いませんでした。日本では「懐かしい」作品だったんで、宣伝するにあたって、現在の市場に受け入れられる土壌をもう一度作るのは、とても難しそうだなとも思いました。
――オリジナルの『超電磁マシーン ボルテスV』は、アニメ作品としてもクオリティが高いですよね。
篠崎 日本だと『超電磁ロボ コンバトラーV』など、同じ長浜忠夫監督作品がありますが、より人間ドラマを描いてるのは『ボルテスV』という評価があります。当時の視聴者のお子さんは、深いところまで理解できなかったかもしれませんが、今回の『レガシー』公開に合わせて、アニメ『ボルテスV』をYouTubeで期間限定の無料配信をさせてもらうと、「こんな人間ドラマの作品だったんだ!」みたいな驚きの視聴者コメントが多かったんです。そんな、大人になって改めて感じた感想を、当時のフィリピンの視聴者の家族層もリアルタイムで感じてたんだろうなと思いますね。
――制作がスタートしたとき、東映さまはどのような形で関わり、どのような舵取りを行ったのでしょうか。
篠崎 最初は、ストーリーやキャラクターのアイディアをいただいて、プロデューサーの白倉と一緒に、監修させていただくという作業でした。とはいえ、フィリピン側から送られてきた企画の時点でクリエイティビティが高いというか、はるかに我々の想像を超えているものが上がってきましたね。もはや「ありがとうございます!」みたいなレベルでしたのでスムーズに進みまして、それこそ「ボルテス愛をしっかり育てていく」みたいな作業だったと思います。
――ボルテスVのリニューアルデザイン、新しいキャラクターの美術デザインについては、どんな感想をお持ちになりましたか。
篠崎 もともとの2Dセルアニメ作品を、立体の3DCGに移行するというのは、作り手の皆さんが自分のクリエイティビティを出せるこだわりのポイントです。ですから監督に話を聞くと、とにかくデザインは何度もやり直しをしたらしいです。ヘルメットや衣装など、何回もデザインの試作をしたとおっしゃってましたね。
オリジナルをよく知っているファンの方でも「フィリピン版ボルテスV」の造形を見て「違うだろう」という人は、あまりいないんじゃないでしょうか。ファンに受け入れられるものを最初から見せられるのは、相当の思い入れと作り込みがないとできないんじゃないかなと思いますね。昨今、実写化映像作品に対して、さまざまな意見が飛び交いますが、「フィリピン版ボルテスV」のデザインは、すごいことだと思うんです。
――ボルテスVは、素直にカッコいいと思いました(笑)。
篠崎 思っちゃいますよね。平面だったボルテスVが、リアリティのある3Dになって、こうだったらカッコいいなと思った通りのデザインになっている。20年、ずっとボルテスVを想っていた人たちが、CGを作っているのが伝わってくると思います。あれを全部、フィリピンの方が作ってるっていうのがすごいことです。そうした技術やセンスは、当初は日本の方が進んでいたんですが、今回、ライオット社というCGの会社が参加したことによって、このクオリティを成し得ました。
実写化のタイミングは、新しいボルテスVを見たいという思いが、ずっとくすぶっていたスタッフたちが、たまたま結集したから生まれたんだと思うんです。そこに技術などが追いついて、制作環境が整ったのが大きかったんじゃないかなと。
フィリピンで『ボルテスV』がウケたのは家族の話だからでしょう
――撮影やCG制作は、大きなトラブルもなく進行したんでしょうか。
篠崎 実は「フィリピン版ボルテスV」は、本来2020年にフィリピンで放送予定の作品だったんです。ですから2020年1月に、5分半のトレーラーが公開(現在は非公開)されていたんですけれど、ご承知の通りコロナのパンデミックが始まってしまって、法律上、フィリピン国内での撮影が一切できなくなってしまったんです。ようやく2022年ぐらいから撮影が再開できる体制に戻ったんですが、その間、CGスタッフの皆さんが、自宅のパソコンで、ひたすらCGのクオリティを上げ続ける作業をしてたらしいです (笑)。
――なるほど。「怪我の功名」みたいな部分もあったんですね。撮影は全部フィリピンで行われたんでしょうか。
篠崎 そうです。現地の撮影現場を見させていただく計画もあったんですが、やはりコロナで行けなくってしまい、撮影状況の報告などは全部、ネット上のやりとりになっていましたね。
――90話という大長編ですが、これはアニメ40話のエピソードを拡大した内容なんでしょうか。
篠崎 そうです。ただ当初は80話で、オリジナルのアニメのストーリーに、いろいろなエピソードを加えられて構成されました。たとえばプリンス・ザルドス(アニメのプリンス・ハイネル)とザンドラ(アニメのリー・カザリーン)の関係性がしっかり描かれていて、「お!」と思うものがあったり……。
ところがフィリピンでの放映中に、さらに10話増えるという事態になったんです。この時、フィリピン側の制作スケジュールがギリギリで、すでに放映は開始しているのに、中盤や後半の話数が完成してないという状態で進行していたんです。ところが序盤のエピソードの視聴率的な初速がよかったらしく、テレビ局の上層部から急に「もう10話増やせ」といわれたと。それでフィリピンのスタッフが苦労しながら、いろいろな手法を駆使して10話分を増やしたんですね。
――「フィリピン版ボルテスV」は、オリジナルのアニメから、どんな点が変わり、どんな点が変わらなかったのでしょうか。
篠崎 変わってない点はたくさんあります。逆にわれわれも細かいストーリーや設定を変えないんだ、と驚かされました。当たり前ですけど、作っている国が変わってるわけじゃないですか。当然、文化も違いますから、細かい部分を変えないと受け入れられないことがある中で、これだけアニメ40話を忠実にフォローしてるのはすごいと思うんですよ。キャラクターは変わってないし、ちゃんとコアのストーリーを押さえてドラマを増やしている。オリジナル版のよいところを貫き通してるのは、本当に「愛」だなと思います。
変更になったのは、元が70年代のアニメなので、劇中、剛親子のシチュエーションで「うるさい!」なんて、叩いたりするシーンがあるんですよ。そういう昭和なシーンは、現在のコンプライアンスの観点から除かれています。それとアニメだと基地であるビッグファルコンのオペレーターのスタッフが、ほぼ全員男性なんですが、実写版では半数以上が女性になっています。そういう、現代になじませるように変えざるを得ない演出もありました。
――映画版『レガシー』は日本映画史上、初めて大規模公開されるフィリピン映画だと思います。欧米の洋画と違う点はございますか。
篠崎 フィリピン人は家族ドラマが好きで、ジャンルとしても確立しています。現地でアニメの『ボルテスV』がなぜウケたかというと、バトルの要素などいろいろあるんでしょうが、やはり家族の話だからでしょう。家族のストーリーを中心に物語を描くというのは、フィリピンの映画、テレビでは定番なんですよね。その嗜好と日本の昭和のドラマ感が、絶妙に混ざり合ってるのが「フィリピン版ボルテスV」だと思います。その点は欧米の洋画と違う点でしょうか。劇中、主人公たちの母親が悲劇に見舞われますが、フィリピンは特に母系社会なので、よりショッキングに見られたんじゃないでしょうかね。アニメでは、わりとあっさりしたシーンなんですが、実写化するにあたっては、時間をかけて、じっくり描きたかったという意図が最初からあったようです。より丁寧に家族模様を描いている点も、実写版になって変わったポイントですね。
――フィリピンは歴史的に、国際情勢の影響を強く受けてきた国ですから、そこで「一番強いのは家族の絆だ!」と語る『ボルテスV』が人気になるのもわかる気がします。
篠崎 TV局のGMA(フィリピンで『ボルテスV』地上波放送を行った放送局)のTVプログラム編成も家族ドラマが多いんですよ。しかも100話ぐらいのコンテンツがいっぱいあるんです。2016年の人気ファンタジードラマ『エンカンタディア(Encantadia)』も家族がポイントになっていて、全部で500話くらいありますね。このシリーズは、マーク A. レイエス V監督も撮っています。
――メイキング的な裏話があれば教えてください。
篠崎 監督がおっしゃっていたのは、リトル・ジョン(日本のアニメでは日吉)役の子役さんがいらっしゃるんですけど、彼が成長期だったので、パンデミックによって撮影が長期間になっちゃったことで衣装を3回変えざるを得なかったと(笑)。最初のキャスト発表のときの体格と、本編での体格を比べると、確かに全然違うんです。最初はすごく細い子だったのが、放映では、まん丸のかわいいお子さんに成長してる。当然、シーンは、タイミングやセットの都合で順撮り(ストーリー順に沿った撮影)ができるわけじゃないので、監督はすごく考えたと思うんですけど、「後半の話数の方が幼くなってね?」みたいにならないようにするのが大変だったと思います。制作側としては、聞いているだけで胃が痛くなるような話です(笑)。
――キャスティングに関しては、フィリピン側が選考、決定したんですか。
篠崎 そこは現地の事情に則った方がいいとの判断です。おまかせでしたが、キャラクターのイメージ通りで、本当にすごいなというのが感想です。多分、スタッフ全員が、キャスティングディレクターができるんじゃないかっていうくらい、強い思い入れを持っているんですよ。
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