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読み始めたら止まらない、映画本の世界へようこそ

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書店の映画本コーナーはワンダーランド

ジュンク堂書店 池袋本店

確かに映画本の点数は増えてはいるものの、そもそも映画本は発行部数が少ない。ゆえに自宅近くの中規模書店でほしい映画本を探してもまず見つからず、どうしてもネットで購入することが多くなってしまう。
だが本好きならば、ここはやはりリアル大型書店の映画本コーナーにこそ出向きたい。一度足を踏み入れれば、そこは一日じゅう居すわりつづけてでも本を読みたくなる、誘惑いっぱいのワンダーランドなのだ。
エレベーターを9階で降りると、すぐに映画本コーナーが。両脇本棚16列全て映画本。壮観だ。
今回訪れたのは、池袋東口徒歩5分ほどのジュンク堂書店 池袋本店。池袋界隈はけっこう書店が充実しており、西武百貨店のなかの三省堂書店、東武百貨店のなかの旭屋書店、ルミネのなかのくまざわ書店などの大型書店もあるが、おそらくここが池袋最大の売り場面積、そして映画本も充実している。映画本マニアなら、ここジュンク堂書店で新刊を購入し、さらに鬼子母神方面に足を伸ばして今度は古書往来座で古本を探す、というコースをたどっている人も多いのではないだろうか?
エスカレータ近辺にある一番目立つ棚は、映画雑誌など。
ジュンク堂書店では地下1階から9階までの売り場のうち、最上階がいわゆる芸術書(美術・映画・音楽)と洋書の売り場。エレベーターで9階に上がって少し右に折れると、すぐに映画コーナーが見える。写真の左右の棚、16列が全て映画関連書で埋まっている。一度、この棚の間を通り抜けると、それだけで心が昂ぶる。すぐに手にとって読みたい本が何十冊、いや何百冊と目に入るからだ。
話題の監督の本などはジャンルを問わず、平置きして、表紙を見せるように心がけているという。
「いま映画本は、MOOKを入れるとひと月に少なくても20〜30冊、多い月には50冊近くの新刊があります。ですから毎月、この限られた棚をどうするかが悩みどころですね」と話してくれたのは、ジュンク堂書店の富塚夏実さん。映画・写真書を担当して10年になるが、担当になって最初の数年はとにかく勉強ばかりだったという。
この棚はほとんど俳優関連の本(著書、インタビュー、研究本)で埋め尽くされている。
「ひと口に映画本といっても、その内容は人文学系から技術書まで幅広く、お客様からの問い合わせもそれぞれにありますから、こちらが逆にお尋ねして教えていただくことが多かったぐらいです。ある時は、急に聞いたこともなかったような監督の本が出版されて、その監督のことを調べたり、教えていただいたり。自分がこれまでに観てきた映画がいかに特定のものに偏っていたか、と思い知らされました。徐々に知識も増えましたが(笑)。ありがたいことに当店の場合は、この映画本売り場を目指してきてくださる固定のお客様も多いので、そのぶんコミュニケーションがあるというか。ざっくばらんに質問などしていただけるのはこちらも勉強になりますし、どうしてこの本が売れるんだろう?と思うと、いまでも店頭で私からお客様にお訊きするように心がけています」
定番の監督研究本(著作含む)は、本棚3列にわたっていた。
池袋本店では、とにかく“アイテム数を増やす”ことに心を砕いているという。先に書いたようにとにかく新刊が多い。だが一方で映画本は資料集的な意味あいも持ちあわせているので、どんどん新しい本ばかりを並べていけばいいというわけではない。つねに店頭に並べておくべき名著も多い。
『サメ映画大全』サメ映画には無限の可能性がある。『ジョーズ』を超えること以外は〜のコピーがいい!
「新刊が入ってくると外さなければいけない本もあります。でも余地がある限り、たとえ1冊でも棚に残しておきたいというのが基本方針。『池袋の他の書店にはないけど、さすがジュンク堂さんにはあった』と言ってもらえたりすると嬉しいですね。だから、いつも棚はパツパツです(笑)。その一方で棚ごとの揃え方によっても本の見方の幅が変わると思うんです。この本はこのジャンルだけじゃなくて、こっちの評論の棚にも1冊あるとより売れるんじゃないかとか。あまり狭い見方にならないように気をつけています。お客様からも、この本はこっちの棚にある方がいいんじゃない?とか、ご指摘を受けます」
新書や文庫の売り場は別の階になるが、少しでも映画に関係すれば、もちろん映画本コーナーに。また小説、建築やファッション書など、SNSで紐付かれて、ときどき意外な本が、別のコーナーから持ち込まれることもあるという。だから、これだけあってもつねに棚は足りない。
映画学科の学生が多く訪れるそうで、脚本や作劇術の本には力を入れている。
ところで最近の売れ筋はどんな本なのだろうか?
「定番のいわゆる評論本や監督本というのは、最近大ヒットはないんですが、やはり山田宏一さんや蓮實重彥さんの本などはコンスタントに出ますし、直近では『ユリイカ』2021年10月号の円谷英二特集(青土社)や『ジョージ・A・ロメロの世界 映画史を変えたゾンビという発明』(2021, Pヴァイン)も動いていますね。全体的な傾向としては、ちょっとお高めなビジュアル本が意外と売れています。去年の『メイキング・オブ・TENET テネット クリストファー・ノーランの制作現場』(2020,玄光社)は本当にすごかったです。コロナ禍で映画の公開も延びて本が先行したり、近くに上映していた大きな劇場もありますし、いろんな要素があったとは思うんですが、パパパッと動いて、当店だけで120冊ぐらい売れたんです。同じような世界発売の翻訳本として『ウェス・アンダーソンの風景 世界で見つけたノスタルジックでかわいい場所』(2020, DU BOOKS)もよく出ました。これは映画の本というには微妙で、アンダーソンの映画にインスピレーションを受けた写真家が彼の映画に出てきそうな風景を集めた写真集なんですが、すごく美しいんです。最近はとにかく1本の映画からこんな側面があったんだというほど、いろいろな切り口の本が出ているんですよ。企画力がすごいというか、本当に驚きます」
『Vision』を置いている棚。
また、SNSの影響も大きいという。 「『サメ映画大全』(2021, 左右社)は新刊案内が来た時点でかなりいくんだろうとは思っていましたが、SNSで拡散して予想を大きく超えました(笑)。やはり『映画秘宝』などの雑誌の影響も大きいんでしょう。それと、一昨年の発売ですが、今年になってSNSで評判になっているのが『VISION ヴィジョン ーストーリーを伝える:色、光、構図』(2019, ボーンデジタル)という、ディズニー・アニメのプロダクション・デザイナー、ハンス・バッハーがまとめた<色と光と構図>に関する本。4,000円を超えますが、大変良く動いています。一方で、『昭和の映画絵看板』(2021,トゥーヴァージンズ)や『場末のシネマパラダイス 本宮映画劇場』(2021, 筑摩書房)といった懐かしい映画館の写真が多く掲載された本も問い合わせが多く、よく出ていますね」
シナリオの本は2列14段を使っても置き切れないほどあるそう。
ここ池袋本店は、近くに映像系の学科をもつ大学や専門学校が多いこともあり、映画制作に関する本がよく売れるのも特徴だという。 「当店では『映像技術』とか『シナリオ論』というコーナーもあるんです。シナリオ関係に取り組んだのはかなり早くて、当初から1列7段は設けていたんですが、非常によく売れますし、シナリオを目的にいらっしゃる方も多いので、いまは2列14段という広いスペースになりました。学生以外にも、読み物としてシナリオを読みたいという方はいまとても多いと思います」
こちらは手前が技術書、奥が評論が並ぶ。
確かにシナリオや技術系の本にも力を入れていることが手書きのポップなどの工夫でよくわかる。丁寧な手書きのポップでついその本に手を伸ばしてしまうというのはリアル書店ならではの誘惑だろう。
「『日本映画作品大事典』(2021,三省堂)が出たときは、あのボリュームですし、まずは中身を見ていただきたいと思って、ポップをつけて平台に陳列し、自由に読んでいただけるようにしました。若い人にこそ読んでいただきたい本ですし」
出版社や著者と綿密な打ち合わせをしてのイベントも定期的に行っているが、いまはオンラインとなってしまうのが残念だという。
「昨日は宇多丸さん、水道橋博士さんにご協力いただき、『森田芳光全映画』(2021, リトルモア)のイベントを開催して多くのお客様にZOOMで参加いただいたのですが、コロナ禍でまだ店内でのイベントができないんですよ。ただ普段の書店にもどんどんお客様が戻ってきていますので、頑張っていきたいと思います」という富塚さんに今後の抱負をお聞きすると、「映画本に特化したような特別な棚を作りたいなという思いはあるんですが」とのこと。コロナ禍がさらに収束に近づき、店内でのイベントも復活したころ、富塚さんの思いがかなっていることを期待したい。

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Writer

佐々木淳

佐々木淳 (ささきあつし)

映画書籍・パンフ編集。編書に「kihachi フォービートのアルチザン 岡本喜八全作品集」「宇宙貨物線レムナント6 SF映画のつくりかた」「THE RECORD OF G-1.0」、共編書に「映画広告図案士 檜垣紀六 洋画デザインの軌跡」など。映画パンフの編集歴は300冊を超え、VECTORでも映画にまつわる様々な役職の方々の記事を主に担当。

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