Feature

Nov. 2021

10月9日放送開始! 『ルパン三世 PART6』の野望

新しい『ルパン三世』のTVシリーズが始まる。
2015年の『PART4』、2018年の『PART5』と意欲的なTVシリーズが2作続いた。そのあとをどうやって引き継ぐのか。
たどり着いた答えの一つが、ルパンの原点“ミステリー”だった。その実現のため、ある男が《シリーズ構成》として呼ばれる。ミステリー作家であり映像脚本も手掛ける大倉崇裕だ。さらに辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえ、押井守など、驚くべき面々がゲスト脚本家として参加する。
アニメ化50周年を迎える今作、どんなストーリーが飛び出すのか。
VECTORでは脚本開発に着目。
“ミステリ・ルパン”のシリーズ構成を務める大倉崇裕に焦点を当て、『ルパン三世 PART6』の野望を探る。

INDEX

ミステリー仕立ての“ルパン”への大胆な挑戦〜キーマン=シリーズ構成・大倉崇裕インタビュー〜

いよいよ10月9日から放送が開始されるファン待望の『ルパン三世 PART6』。今回の話題は何といってもアニメ化50周年記念にふさわしい、豪華ゲスト脚本陣の参加だろう。だが、そこに至る前に、まずはPART6の基本構造を抑えておきたい。というのも、今回、シリーズ構成を務めるのは、映像化作品多数の本格ミステリー小説家でありアニメ・特撮の脚本も手がける大倉崇裕だからである。近年では劇場版『名探偵コナン から紅の恋歌』(’17)、『名探偵コナン 紺青の拳』(’19)の脚本も手がけた大倉氏起用の狙いと今回の“ルパン”の見どころとは何なのか? 大倉氏と、トムス・エンタテインメントの文芸担当・米山昂氏にお話を伺った。

今回、どっしりとミステリーでワンクールやってみようと。

――今回、PART6をやるにあたって大倉さんをシリーズ構成&メインライターに起用されたきっかけは?

米山  アニメ化50周年である今回、ルパンをより掘り下げるようなテーマが欲しいとなりました。「PART5」のテーマが「現代」だったので、次は何だろうと。そこで出てきたものの一つが、ミステリーでした。アルセーヌ・ルパンは原作の更なる原典でもありますし、モンキー・パンチ先生の原作コミックの1話目にも明智小五郎が登場していたりと、ミステリー要素は大切にされています。また、PART5で大倉さんに書いていただいたミステリー仕立ての1本(第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」)がとても面白かったので、ここでもぜひ大倉さんにやっていただこうとなりました。

――ミステリーをやるというのと、大倉さんにお願いしようというのは、どちらが先だったんでしょうか?

米山  ほぼ同時です。弊社としては『名探偵コナン』の劇場版をやっていただく中で、大倉さんとルパンをじっくりやってみたいという希望も前からありました。PART5の第17話も大倉さんらしさというか、ミステリーの王道を通りながらも、アイデアが『ルパン三世』の線に合っている感じがすごくしたので、大倉さんがピッタリだということになったんです。

――大倉さんは、いつ頃、オファーがきたか覚えてらっしゃいますか?

大倉  あれ、いつ頃ですかね?

米山  2018年。PART5が終わった後ぐらいです。

大倉  もう3年前ですか。PART5の依頼を受けたときと同じように、いきなり呼び出されてですね(笑)、開口一番、次のルパンはミステリーでやりたいので、ついてはシリーズ構成をやってくれないかと言われまして。ただ、私は当時、<シリーズ構成>って何をするのかを全然知らなくて、それを伺うところから始まったんです。聞けば聞くほど不安になって、「天下の『ルパン三世』をこんな経験の浅い者に任せていいんですか?」っていうようなことは一応申し上げました。ただ私は、『ルパン三世』大好きだし、テーマはミステリーだということでもあるので、じゃあ経験が足りない分をフォローしていただけるんであれば、喜んでお引き受けします、というようなことを、ファミレスでお返事した覚えがあります。

――本業はミステリー作家でいらして、アニメの脚本も書かれていますが、<シリーズ構成>は初めてですよね?

大倉  ですから、受けたときはよくわからなかったんです! すぐ後に『名探偵コナン 紺青の拳』の打ち上げパーティがあって、永岡智佳監督に「実は今度、TVの『ルパン』のシリーズ構成やることになったんですよ」って打ち明けたら、「凄いじゃないですか!」って言われて。えっ、<シリーズ構成>ってそんなに凄いことなんだと、これはエラいことを引き受けてしまったんだなと、衝撃を受けたんです。

シャーロック・ホームズ登場の意外な理由とは?

ルパン三世 設定画

――先ほど米山さんのお話にありましたが、原作の1話ってちょっとエロティックでもある、ミステリー仕立ての内容で、確かにPART5の第17話は雰囲気の似たところがありましたね。

大倉  あの第17話は、割とガチでミステリーをやってみたら、いわゆるクローズド・サークル的(1)になったんです。それが結果的に、原作コミックに近いものに仕上がったなという感じで。狙ってやったわけではないんですけどね。そういうこともあって、『ルパン三世』って実はミステリーと親和性が高い素材なんじゃないか?というのはそのときから感じていましたね。だから、ワンクールをミステリーでやりたい!と言われたときに、「ああ、できるだろうな」と。その時点ではまだ何も決まってなかったんですが、頭が真っ白になるようなことはなかったです。

――ただ、第17話ではレギュラーキャラクターはルパンしか登場しませんでした。ところがシリーズでは、ルパン、次元、五ェ門、不二子、銭形……全キャラを動かさなくてはならない。しかも新キャラのホームズも登場させる。難しくはなかったですか?

大倉  そこは確かに難題でした。今回、何を核にしようかと思ったときに、私の場合はミステリー畑の人間なので、考えがまずルパン三世よりも、その原点のアルセーヌ・ルパンに及ぶんですよ。それは第17話でもそうだったんですけど、ルパンでどんなものをやろうって考えると、「8・1・3」だろうが「奇巌城」(2)だろうが、名作がいろいろと浮かぶんです。でも、それだとやはり今ご指摘のあったように、「またルパンしか活躍できなくなる可能性が高い」と思ったんです。密室劇にしてしまうと、動きが少なくなるし、五ェ門が斬るものもなくなるし、次元が撃つものもない。壁にぶち当たったときに「あ、『ルパン対ホームズ』(3)があるじゃないの」と(笑)。実はそういうきっかけなんですよ、ホームズの登場は。ルパン三世に好敵手が現れたとしたら、そいつは次元よりも強いのか? 五ェ門よりも強いのか? 一度は試さなきゃいけない。だとすると、キャラクターの総当たりもできるし、活劇になるんじゃないか。ホームズの周りを勝手に回ることによって、全員動く。ミステリーでありながら、活劇の要素が出てくるんじゃないのかなと。そう直感的に思ったんです。

――なるほど!最初の思考の中で行き着いたホームズが、5人の活躍の場を引き込んでくれたわけなんですね。今回、アルベール・ダンドレジー、八咫烏五郎(やたがらす ごろう)というPART5のキャラクターたちも登場しますが、これらは制作サイドからの要望があったのでしょうか。

大倉  アルベールについては、ホームズの登場を印象的に見せたかったんです。ホームズってこんなにすごい奴って一目でわかるオープニングが必要で、そのときに、PART5でルパンをあそこまで追い詰めたアルベールに対して、その正体をこともなく見抜いてやっつけてしまえば、それだけでホームズがいかに恐ろしい奴かってことがわかるだろうと。アルベールには申し訳なかったんですけど(笑)。八咫烏は、シナリオ会議の際に、この展開だったら八咫烏が出せるんじゃありませんか?という指摘があって、それで加えました。結果的に八咫烏がいるおかげで銭形がとっても動かしやすくなって。八咫烏ってすごいキャラクターだったんだなって再認識させられたんです。

ゲスト脚本陣は全員即答でYes!と言ってくれた。

――さて今回のシリーズではゲスト脚本家を配する形にしています。ミステリー畑の方々を中心に、辻真先さん、押井守さんから湊かなえさんまで錚々たる方々が参加していますね?

大倉  最初の方の会議で、制作陣から、アニメの脚本家以外の方でもルパンをやってみたいということは言われた気がします。私もそれは逆に面白いなと。すぐになんとなく思いつく人もいましたし。

――人選は、大倉さんを中心にされたのですか?

大倉  トムスさんと擦り合わせて決めていきました。もちろん私から、この方はどうでしょうか?と申し上げた方もいます。普段お会いしたりとか、Facebookで繋がってたりっていう方の中で、『ルパン三世』が好きだろうっていうのはわかりますから、やはりそういう人に書いて欲しかったんです。

――好きというのは、ルパン三世を? アルセーヌ・ルパンを?

大倉  それがミステリーが好きな人にとっては割と両方とも同じなんです。まあ今回、どっちかといえば『ルパン三世』の方が大事ですけど。そういうところで行くと、樋口明雄さんや押井さんは、過去に『ルパン三世』に関わりもあった方なので、思い入れはあるだろうと。
辻さんに関しては、ミステリー作家と脚本家を両立されたいわばパイオニアで、私が大変に尊敬する大先輩なので、真っ先にお願いしたんです。でも辻さんが今まで『ルパン三世』の脚本を書いたことがなかったというのは正直意外でした。

――みなさんに依頼されたときの反応で印象的なことは?

大倉  印象的というかなんていうか、全員即答でYesだったのは驚きましたね。断られるかもと思ってダメもとで依頼した方もいるんです。でも全員即答ですよ。しかも専業の脚本家でもないのに。『ルパン三世』というコンテンツのすごさに尽きます。

――押井さんは『ルパン三世』と因縁がありますよね。

大倉  そこの事情について、私はあまり詳しくないんです。でも逆に縁があるんだったら、ダメもとで行ってみるかと。空手の稽古の後、汗だくで着替えてる押井さんにいきなり言ったんです。「ルパンの脚本書きません?」って。そうしたら、その場で「いいよ」と。こっちがビックリして、「や、やるんすか?」と(笑)。慌てて帰って、すぐにトムスさんにも連絡しましたよ。

――そうしたゲスト脚本家の方々に対して、シリーズ構成者としての大倉さんが注文や条件をつけることはあったんでしょうか?

大倉  ゲスト脚本家の方々には基本的に「自由にやってください」とお願いしました。キャラクター指定もなしで、お好きなものを書いてください、と。実はこれってPART5で私が依頼されたときと同じなんですよ。当時、企画開発の方が「好きなものを」と言ってくださったんです。だから自分がお願いするときもそれがいいだろうなと思っていて。ただ、芦辺拓さんにだけは違いました。私の中で考えていたお題があって、そのお題を一番活かせるのは誰か?と考えたときに、作風からいって芦辺さんがベストだと。なので、芦辺さんにだけ「このお題でやっていただけませんか?」ということは申し上げさせてもらいました。そのお題にそって、後の展開は100%お任せしますという感じでしたね。だけど結果的にみなさんネタは被らなかったし、キャラクターもちゃんと分散できていて、「ああ、なるべくしてなるもんだよなあ」と思いました。それと、樋口さんの回に関しては、プロットをいただいたときに、これならメインストーリーとの関りを持たせられるかも?となりまして、そこから修正をお願いしたりはありました。

「謎解き」である以上、知力の勝負を描きたい。

シャーロック・ホームズ 設定画

――大倉さんの作品はマニア魂が感じられるものがすごく多いですよね。メインストーリーは大倉さんご自身が書かれたわけですが、今回、マニアックにこだわられたところはありますか?

大倉  それはやっぱりシャーロック・ホームズです。多分、これまで『ルパン三世』を観なかったという方でも、今回はミステリーだから観てみようかってところは多いと思うんです。ですから、コアなミステリーファンとか、おそろしくホームズに詳しい方とか、そういう人たちが観てもニヤリとできるポイントみたいなところは徹底的に押さえたいなと(笑)。

――今回、シャーロック・ホームズの周辺設定に関して、あまり詳しい説明をしてないですよね?

大倉  そうです。今、これだけシャーロック・ホームズものって世の中にいっぱいあるわけです。だから、あまりくどくどとホームズとは何か?と説明するのも野暮だし、知らない方から見たら、ハドソンさんって別に普通の下宿のおばさんでもいいわけだから、それはそれでいいだろうと。ただ、ただ、ワトソンは?といった部分や、ただ、ワトソンは?といった部分や、あの女の子は誰なのか?という部分は、そこがそもそものミステリーであったり、ルパンとの因縁に繋がっていたり……。ぜひご覧いただければと思います。

――時代設定はどうなっていますか。

大倉  ルパン三世と一緒に登場するこのホームズは何世なんだ?とか、どういうつながりなんだ?という細部設定を期待されている方もいらっしゃるかもしれないんですけど、そこはあまり触れてないんです。というのも、今回のホームズの在り方って、私の中ではいわゆるクロスオーバー的な考えなんですよ。つまり、今回の世界では、『ルパン三世』っていう番組と『シャーロック・ホームズ』っていう番組があって、たまたま二つが交わって共演したけれど、終わった後は、それぞれの番組世界がまたずっと続いていく、そういうイメージです。

――ルパン三世というキャラクターとシャーロック・ホームズというキャラクターが現代において共演しているというイメージなんですね。

大倉  まあ、そういうことなんです。逆に二次創作的に色々と考えていただく分にはいいんですけど、あくまでもここは『ルパン三世』の世界だということで、ホームズに関しては意識的に情報を限定してるんですよ。

――この『ルパン三世 PART6』で、大倉さんが核にしたものは何でしょうか?

大倉  一番はやはり「謎解き」であるっていう部分ですよね。単にお宝の争奪戦であったり、殺し屋同士の銃撃戦であったりということから生まれるサスペンスではなくて、明確にアタマを使って考えないと解けない謎があって、つまり体力ではない知力の勝負ですよと。その知力の勝負をどこまで描けるか。その究極のところに実はルパンがいるんだという。「ルパンって賢いんだよ」ってところですよね。そこがやれればちゃんとしたミステリーになると思う。ですから今回の『ルパン三世』を観た方々が、新たなミステリーファンとして育ってくれて、またミステリー小説を読んだり、ミステリーものの映画を好きになってくれればいいなと思ってるんです。

――現時点での手応えは、いかがですか?

大倉  完成品を全て見たわけではないんですが、1、2話を見せていただいたらとびきり面白く仕上がっていて嬉しいですね。今さっき話したことと少し矛盾して聞こえるかもしれないですけど、なんていうんですかね、私はミステリー脳の人間なので、一人で書いていると、どんどんルパンが密室の中で動かなくなっていくんですよ。でもやはりルパンは泥棒なので、お宝があって、そのためのアクションがあってというのも、やはり醍醐味になっている。私は知的なミステリーを目指して脚本を書いたけど、ともすれば動きがなくなっていくところを監督やみなさんのアドバイスでスケールを大きくしたりっていうやりとりがあったわけです。私がざっくり書いたところが、すごくイキのいいアクションになっていたりもして。第1話でもそれぞれのキャラクターが街中で入れちがいながら動き回るところとか、ああ、こんな風になるんだ!と。それは小説を書いているとなかなか味わうことができない刺激でしたね。だから、こういう刺激がこれから12話分味わえるんじゃないかと思うと嬉しいですし、凄くワクワクしてもらえると思います。

――大倉さんは「幕切れの一言」をすごく大事にされていると思いますが、第1話のラストのセリフはメチャクチャ痺れますね。

大倉  アハハ、あのセリフは意識的に決めのセリフとしては思ってたんですけど、ああいう形で生かしてもらうとは。

――絵的にもカッコよかったです!

大倉  それはもう、演出と監督の力ですよ。


2021年9月14日 トムス・エンタテインメント会議室にて
取材・インタビュアー:山本和宏
取材・構成:佐々木淳

大倉崇裕

大倉崇裕(おおくら たかひろ)

1968年京都府生まれ。学習院大学法学部卒業。推理小説作家。97年「三人目の幽霊」が第4回創元推理短編賞佳作となる。98年「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞。09年、14年に『福家警部補の挨拶』、17年に「警視庁いきもの係」シリーズ、21年には『死神さん』がドラマ化。著書に『三人目の幽霊』『白戸修の事件簿』(『ツール&ストール』改題)『無法地帯』『福家警部補の挨拶』『警官倶楽部』『オチケン!』『聖域』『問題物件』『死神さん』『ゾウに魅かれた容疑者 警視庁いきもの係』など多数。脚本担当作品に『名探偵コナン から紅の恋歌』『名探偵コナン 紺青の拳』『ルパン三世PART5』第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」など

ゲスト脚本家 紹介


辻真先

小説『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』 脚本『名探偵コナン』など

押井守

映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』など

芦辺拓

小説『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』『奇譚を売る店』など

樋口明雄

小説『天空の犬』『還らざる聖域』など

湊かなえ

小説『告白』『未来』など

註釈

  • 1 クローズド・サークル
    ミステリーにおいて、密室ものや孤島もの、列車もの、客船ものなど、外界と隔絶された舞台において展開する作品を指していう。
  • 2 「奇巌城」「8・1・3」
    モンキー・パンチ原作『ルパン三世』の原点といえる、神出鬼没な怪盗アルセーヌ・ルパンは、1905年にフランスの小説家モーリス・ルブランが生み出したキャラクター。1909年に書かれた暗号もの「奇巌城」、続いて1910年に書かれた「8・1・3」は「アルセーヌ・ルパン」シリーズの中でも傑作と誉れ高い。
  • 3 「ルパン対ホームズ」
    名探偵「シャーロック・ホームズ」シリーズの作者はアーサー・コナン・ドイルであるが、ルブランは「アルセーヌ・ルパン」シリーズの中にもシャーロック・ホームズを借用し、好敵手として対決させる内容の3作を書いている。最初の登場は1906年の短編「遅かりしシャーロック・ホームズ」。だが、ドイルがこの借用を快く思わなかった(この見解には諸説あるが)ことから、ルブランは残りの2作(「ルパン対ホームズ」に収録された2つの中編「金髪の美女」[1906年]「ユダヤのランプ」[1907年])では、このキャラクターをホームズのアナグラムのエルロック・ショルメと改名して登場させた。

『ルパン三世 PART6』作品紹介

INTRODUCTION


原作:モンキー・パンチ ©TMS・NTV
その男の名はルパン三世。怪盗アルセーヌ・ルパンを祖父に持つ大泥棒。
宝石、美術品、隠された財宝、不老不死の秘密、はては可憐な少女の心まで、彼に盗めぬものは何ひとつない。
相棒は凄腕ガンマンの次元大介。
そして、居合抜きの達人・石川五ェ門。
類まれな美貌と頭脳を持つ魔性の女・峰不二子。
執念で地の果てまでルパンを追い続ける銭形警部。
そんな個性豊かな面々とルパンが繰り広げる、ハードボイルドで、スリリングで、コミカルで、エキセントリックな物語ーー。
モンキー・パンチが生み出したコミック『ルパン三世』は、それぞれの時代の空気を取り込みながらアニメーションで展開され、世界中のファンを虜にしてきた。
そして2021年。アニメ化50周年を迎える今、ルパンがまた、動き出す!
新作アニメーション『ルパン三世 PART6』は、ルパンを紐解く2つのキーワードでストーリーを展開。
1クール目は、〈ミステリー〉!王道かつ斬新な、謎多き物語が幕を開ける。
そのシリーズ構成を務めるのは、映像化作品多数の推理小説家でありアニメ・特撮の脚本も手がける、大倉崇裕。
そして各話脚本にはゲストとして、辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえ、押井守が参加。小説界・アニメ界を賑わす、
豪華な顔ぶれが名を連ねる。
エメラルドグリーンの背広に身を包んだルパンが繰り広げる、新世界のための〈原点回帰〉ーー
クール&ミステリアスな冒険を見逃すな!!

ストーリー


原作:モンキー・パンチ ©TMS・NTV
舞台はロンドン。
ルパンのターゲットは、英国政府を影で操る謎の組織・レイブンが隠したお宝――その手掛かりとなる一枚の絵。
立ちはだかるスコットランド・ヤードやMI6。ルパンの動きを察知して現れた銭形警部。そして、ルパンの前に現れた探偵――その名はシャーロック・ホームズ!シリーズ構成・大倉崇裕のメインストーリーと、豪華脚本陣のオムニバスエピソードが絡み合う、謎多き〈ミステリ・ルパン〉が今、幕を開ける!

STAFF

原作:モンキー・パンチ
監督:菅沼栄治
シリーズ構成:大倉崇裕
キャラクターデザイン:丸藤広貴
美術監督:松宮由美、備前光一郎、小倉宏昌、西澤 航、李 凡善、竹田悠介
色彩設計:宮脇裕美
撮影監督:佐々木明美
編集:吉武将人
音響監督:清水洋史
音響効果:倉橋裕宗
音楽:大野雄二
メインテーマ:「THEME FROM LUPIN III 2021」
作曲:大野雄二、編曲:大野雄二、演奏:Yuji Ohno & Lupintic Six with Friends
制作:トムス・エンタテインメント
製作:ルパン三世PART6製作委員会

CAST

  • ルパン三世:栗田貫一ルパン三世:栗田貫一
  • 次元大介:大塚明夫次元大介:大塚明夫
  • 石川五ェ門:浪川大輔石川五ェ門:浪川大輔
  • 峰 不二子:沢城みゆき峰 不二子:沢城みゆき
  • 銭形警部:山寺宏一銭形警部:山寺宏一
  • 八咫烏:島﨑信長八咫烏:島﨑信長
  • アルベール・ダンドレジー:津田健次郎アルベール・ダンドレジー:津田健次郎
  •  
  • シャーロック・ホームズ:小原雅人シャーロック・ホームズ:小原雅人
  • リリー:諸星すみれリリー:諸星すみれ
原作:モンキー・パンチ ©TMS・NTV
『ルパン三世 PART6』
2021年10月より日本テレビ系全国放送開始!
日本テレビでは10/9(土)24時55分より放送開始
※各局の放送日時は公式HPでご確認ください
配信:Hulu他配信サイトで配信予定
 ※配信先情報は、公式HPで順次公開

【公式サイト】lupin-pt6.com
【公式Twitter】@lupin_anime ハッシュタグ:#ルパン6

ルパン三世 激動の半世紀

©モンキー・パンチ/TMS・NTV

すべてはここからはじまった! 原作コミックの誕生

故モンキー・パンチ氏による原作コミックシリーズ『ルパン三世』が誕生したのは1967年。安保闘争から成田闘争へと続く学生運動華やかなりし時代であり、マンガ界では貸本漫画から続く「劇画」が市民権を得て、少年漫画へと影響を広げている真最中であった。
そんななか、「WEEKLY漫画アクション」(双葉社)で『ルパン三世』の連載が開始される。隆盛を極めた劇画の世界観に欧米のアートスタイルを取りこんだ、斬新なピカレスク・ロマンであった。1969年までの、わずか2年という連載期間ながら、作品は絶大な人気を得ることになった。
(その後、TVアニメ(PART1)放送に合わせ1971年から『ルパン三世 新冒険』が、TVアニメ(PART2)放送に合わせ1977年から『新ルパン三世』が連載された)

粋でクールなTVシリーズ(PART1)が誕生

そして1971年、日本テレビ系列で『ルパン三世(PART1)』の放送が開始される。ルパン三世役に山田康雄、次元大介役に小林清志、石川五ェ門役に大塚周夫、峰不二子役に二階堂有希子、銭形警部役に納谷悟朗という配役でのスタートであった。
「ハードでクールな大人向けアニメ」が志向され、緑色のジャケットをまとったルパン三世の粋なアクション、大隅正秋(現・おおすみ正秋)によるクールな演出、山下毅雄のジャジーな劇伴音楽などが相まって、それまでにないアニメ作品が誕生したのである。
しかしその斬新さゆえか、視聴率はシリーズ序盤から低迷し、「子供向け」への路線変更を余儀なくされた。そうした状況のなか演出を引き継いだのが、高畑勲と宮崎駿だった。結果として同シリーズは、大隅のハードボイルドと高畑・宮崎のコミカルタッチが共存する、非常に稀有な作品となった。
当初こそ振るわなかった視聴率だが、繰り返し再放送されるにつれ、シリーズの人気は徐々に高まっていった。そしてしばらくのブランクをはさみ、赤ジャケットで知られるPART2の放送と進んでいくのであった。

コミカル路線を極めたTVシリーズPART2へ

1977年に開始された『ルパン三世(PART2)』は、「子供でも楽しめるファミリー向けのコメディアニメ」がコンセプトとされた。ルパン一味の悪漢ぶりは薄らぎ、よりエンタテインメント色が強くなったのだ。音楽は山下毅雄から大野雄二へと交替し、よりジャジーで軽快なテイストへ。レギュラー陣の声優は、五ェ門が大塚から井上真樹夫へ、不二子が二階堂から増山江威子へと変更された以外はPART1を踏襲し、以後長きにわたりこの体制がシリーズを支えることとなる。
こうしたひとつひとつの路線確立が相乗効果を生み、PART2は当初より高視聴率を獲得する。世は『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版公開で爆発したアニメブームの最中でもあった。本作はアニメファンの枠にとらわれない幅広い層に支持され国民的アニメとなり、およそ3年間で155話が放送されるという息の長いシリーズとなった。

劇場用アニメへ進出

高まる人気を受け、1978年には劇場版『ルパン三世(ルパンVS複製人間)』が公開される。吉川惣司監督によるこの作品はTVシリーズPART1当初のハードでクールなテイスト、世界中を舞台にしたエンタテインメント性に満ちた展開で好評を博した。
翌1979年には宮崎駿が監督として初めて劇場用作品に挑んだ『カリオストロの城』が公開される。可憐なヒロイン・クラリスの魅力、随所にちりばめられた奇想天外なアクションなどアニメーションらしい面白さに満ちたこの作品は、公開から40年以上経つ現在においても「名作映画」として不動の評価を得ている。

「原作重視」のTVシリーズPARTⅢが登場

PART2の放送終了から3年半を経た1984年、原作のクールなテイストを活かした「大人向けアニメ」として『ルパン三世 PARTⅢ』が放送される。ルパン三世はそれまでにないピンクのジャケットをまとい、デザインも原作コミックのテイストを活かしたものとなった。『PARTⅢ』放送中の1985年には劇場用3作目『バビロンの黄金伝説』が公開された。
1970年代後半からの家庭用ビデオデッキの急速な普及、レンタルビデオ文化の急伸を受け、1983年にはOVA=劇場公開でもTV放送でもない、ビデオパッケージでリリースされるアニメーション作品が誕生。
「ルパン三世」においても1987年に初のOVA作品『風魔一族の陰謀』が発表された。

TVスペシャルという、あらたな「主軸」が誕生!

そして1989年には、TVシリーズや劇場用アニメとはまた別の、あらたな展開が始まる。日本テレビ系列で放送する単発作品、いわゆる「TVスペシャル」である。記念すべき第1作は、『バイバイ・リバティー・危機一発!』(土曜スペシャル枠で放送)。『あしたのジョー』などで不動の地位を得ていた演出家・出崎統を監督に迎えた意欲作であった。1990年の第2作『ヘミングウェイ・ペーパーの謎』以降は「金曜ロードショー」枠へと移り、以後毎年1本のペースで放送される定番作品となった。出﨑は第2作以降もTVスペシャルの監督を務め、監修の1本を含め計5本に参加、TVスペシャルの定番化に貢献した。

名優の逝去という激震を受けて…

90年代は、TVスペシャルがルパン三世シリーズの主戦場となるが、1994年に激震が襲う。同年3月、ルパン三世役として長く愛されてきた個性派俳優・山田康雄が闘病生活のすえに逝去したのだ。同年のTVスペシャル第6作『燃えよ斬鉄剣』が、山田の最後の主演作品となった。
そしてこのとき、10年ぶりとなる劇場用第4作『くたばれ!ノストラダムス』が制作進行中であったが、山田の代役として急きょ白羽の矢が立ったのが、本人とも親交があったものまねタレントの栗田貫一であった。1995年4月に同作が公開、続く同年8月に放送されたTVスペシャル第7作『ハリマオの財宝を追え!!』で、栗田は正式に山田の後任となった。
翌1996年には、劇場用第5作『DEAD OR ALIVE』が公開されている。原作者のモンキー・パンチが監督をつとめ、キャラクターも原作コミックのテイストを最大限に生かした風貌という「原点回帰」の意欲作であった。アニメを取り巻く環境は、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』からはじまる、ブーム再燃の時代に突入していた。

新世紀の「あらたなルパン三世像」を求めて

やがて時代はミレニアム(2000年)を超え、2001年のTVスペシャル第13作『アルカトラズコネクション』からはデジタル作画作品となった。 2009年には、TVスペシャル『ルパン三世VS名探偵コナン』が放送され、大きな話題を呼んだ。さまざまな可能性を秘めたクロスオーバー作品として注目され、のちに続編にあたる『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』(2013)が劇場公開された。
2010年のTVスペシャル第21作『the Last Job』で銭形役の納谷、不二子役の増山、五ェ門役の井上が作品から卒業し、翌2011年の第22作『血の刻印~永遠のmermaid~』から、それぞれ山寺宏一、沢城みゆき、浪川大輔へと交替した。
そして2012年、初のスピンオフ作品となるTVシリーズ『LUPIN the Third 〜峰不二子という女〜』が放送される。監督・山本紗代、シリーズ構成・岡田麿里という女性クリエイターが作品の中核を担い、峰不二子を中心にルパン一味と銭形警部の若き日の姿を描いた意欲作である。
さらに2014年にはスピンオフ作品『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』が発表される。劇場用作品『REDLINE』(2010)で話題を呼んだ小池健が監督、舞台出身の高橋悠也が脚本を務め、徹底してハードで危険な、アダルトなテイストを確立。目の肥えたルパンファンからも絶賛をもって迎えられた。以後、この「LUPIN THE ⅢRD」シリーズは2017年に『血煙の石川五ェ門』、2019年には『峰不二子の嘘』の3作品が発表されており、さらなる展開が期待されている。

満を持してのTVシリーズ再開!

そして2015年。30年ぶりとなる新たなTVシリーズ『ルパン三世(PART4)』の放送がついに始まる。
総監督に友永和秀、監督に矢野雄一郎、作画監督に横堀久雄というテレコム・アニメーションフィルムが誇る歴戦のアニメマンが中核を担い、「LUPIN THE ⅢRD」シリーズで実績のある高橋悠也がシリーズ構成を務めた。これまでの「ルパン三世」は基本的に1話完結方式であったが、初めてシリーズを通して描かれる大きなストーリーを導入。大きな物語に直結する本線ストーリーと独立したエピソードが併存するシーズ構成となった。サンマリノ共和国とイタリアを主な舞台とし、第1話でルパンと結婚するシリーズヒロインのレベッカ、ルパンを追うMI6のエージェント・二クスなど魅力的なレギュラーキャラクターも登場。30年ぶりの復活に恥じない印象的なシリーズとなった。
2018年にもTVシリーズ『ルパン三世 PART5』が放送される。『PART4』同様、テレコム・アニメーションフィルムが制作を担当、監督の矢野雄一郎、作画監督の横堀久雄がアニメーション制作の要所を締め、シリーズ構成・脚本には大河内一楼が起用された。「現代のルパン三世」をテーマに、最新のデジタル機器やネット環境が盛り込まれ、現代的なリアリティのあるシリーズとなった。また、「これまでのすべてのルパン三世を全肯定する」作品づくりが行われた。シリーズも、4~5話からなる中編4本と独立エピソード7本で構成。しかも中編4本は、物語としてつながっていて大きなストーリーが描き出されるという意欲的な設計がなされた。フランスを主な舞台に、シリーズヒロインのアミ、ルパンと過去の因縁を持つフランス警察のアルベール・ダンドレジー、銭形の忠実な部下・八咫烏五郎(やたがらす ごろう)などこちらも魅力的なレギュラーキャラクターが配された。また、「これまでを全肯定した」作品世界のため、ネズミ一族など原作由来のキャラクターやレベッカなど過去のアニメ作品に登場したキャラクター達が顔を見せている。
『PART4』『PART5』ともに、「ルパン三世」を現代的に再構築した堂々たるシリーズとなった。

ルパン三世シリーズの明日はどっちだ!?

時代ごとに新たな展開を導入し、新たな息吹を取りこみつつ広がってきたアニメ版「ルパン三世」。その大きな流れをずっと温かく見守ってきた原作者モンキー・パンチは、2019年4月11日に永眠する。
だが、「ルパン三世」は生き続ける。
同年12月には3DCGアニメーションで制作された初の劇場版『ルパン三世 THE FIRST』が公開され、さらなる可能性も開かれた。
そして2021年10月。新たなTVシリーズ『ルパン三世 PART6』がついに放送開始となる。
1クール目は“ミステリー”をテーマに描かれる。ミステリー作家の大倉崇裕がシリーズ構成を担当。辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえ、押井守など、小説界・アニメ界を賑わす超豪華なゲスト脚本家の参加も大きな話題となっている。また、次元大介役が、PART1からずっと担当してきた小林清志から大塚明夫にバトンタッチされることも発表され、大きな反響を呼んだ。(初回放送分「EPISODE0―時代―」は小林が担当)。ミステリーというテーマ性の追求に新たなレギュラーキャストの参加もあり、本作はシリーズのなかでも大きな節目の作品となることは間違いない。50年分の歴史の重みを軽快に乗り越えていく、ルパンたちの姿におおいに期待したい。

TEXT:上川畑 博

「マニア性」と「身体性」から生まれる
ユニークなキャラと映像的表現が魅力の大倉作品

VECTOR Magazine編集部
山本和宏

大倉作品の魅力の源泉

『ルパン三世 PART6』のシリーズ構成・メインライターを務める大倉崇裕は、これまでどのような作品を生んできたのだろうか。ここでは、大倉のこれまでの仕事を概観してみたい。

大倉は、エンタテインメント性に富んだ作品を得意とするミステリー作家だ。
その作品の特徴的な魅力は、「《キャラ立ち》したユニークな主人公(設定)」、「視覚性の高いアクション描写」、「痛快な逆転劇」、そして「脈々と流れるマニア魂」にある。
そしてこの魅力の源泉は、大倉自身の「マニア性」と高い「身体性」にあるように思う。

大倉自身、相当な「マニア」だ。
『刑事コロンボ』や『特捜最前線』を愛し、怪獣に血道をあげ、フィギュアとプラモを蒐集し、落語会に足を運ぶ。
また「身体性」も高い。
空手道今野塾の有段者で、学生時代は山岳系サークルで山行を重ねた。
武道も山も、内面的身体的両面で自分を律する力を強く求められる。
この二つの特性が、大倉作品の魅力の源泉であり、映像作品との高い親和性につながっているのではないだろうか。

大倉の仕事は幅広い。ミステリーに限っても、緊張感張りつめる山岳ミステリ―から、王道の本格推理もの、また一方では、え?そんな設定あり?なオタク心炸裂の作品まで実に多様だ。ミステリー以外に「怪獣小説」も著している。
そして、映像との関わりも深い。自作の映像化だけでなく、映像作品のノベライズも手掛け、アニメや特撮作品の脚本も執筆する。

では、代表的な作品を通して、その魅力を確認していこう。

ミステリー小説

大倉のミステリー作家としての活動は1990年代後半に始まる。1997年に『三人目の幽霊』で第四回創元推理短編賞佳作、1998年に『ツール&ストール』で第20回小説推理新人賞を受賞(円谷夏樹 名義)。2004年に『七度狐』で本格ミステリ・ベスト10第4位、2007年には『福家警部補の挨拶』で本格ミステリ・ベスト10第8位に輝いている。
大倉作品は、本職の警察官が謎解き役を務めるもののほか、不動産販売会社のクレーム処理係、友人を山で亡くした元クライマー、お人好しの大学生、警察マニア、フィギュアオタクのヤクザなどさまざまな属性を持つものが探偵役となる作品も多い。 その中で、映像映えするキャラが主役の作品が、これまでに映像化されてきた。
  • 「福家警部補」シリーズ
    『福家警部補の挨拶』に始まる「福家警部補」シリーズは、『刑事コロンボ』へのリスペクトに溢れた作品。
    最初に犯行場面が描かれる《倒叙ミステリー》であること、主人公のファーストネームが明かされないことなど『刑事コロンボ』との共通点は多い。一つ一つのエピソードにも『刑事コロンボ』に範をとったものがある。物語の主人公は警視庁捜査一課の女性警察官・福家(ふくいえ)警部補。凄腕の捜査官なのだが、警察バッジがないと学生に見間違えられてしまうほど頼りなげに見える。その福家が、犯人の行動のわずかな綻びを突いて真実に迫っていく。
    この作品は2度TVドラマ化された。永作博美が福家を演じたNHK版は、2009年1月2日放送の単発ドラマ。壇れいが福家を演じたフジテレビ版は2014年1月から全11話が放送された。稲垣吾郎が上司役でレギュラー出演したほか、犯人役に反町隆史、富田靖子、北村有起哉、古谷一行、八千草薫という錚々たる面々が並ぶ。
    余談だが、漫画家の青山剛昌が檀れい版の『福家警部補の挨拶』を気に入り、『名探偵コナン』原作コミック第85巻カバー見返しの「名探偵図鑑」で福家警部補を紹介。さらに劇場版『名探偵コナン』の脚本家として大倉を推挙したのだという。
  • 「警視庁いきもの係」シリーズ
    犯罪被害で亡くなった人が飼っていたペットたちはどうなるのか。一時的にそのペットを管理する職務を負っているのが、警視庁総務部総務課の動植物管理係だ。まずこの設定が秀逸だ。もちろん実際の警視庁にはそんな部署はない。主人公は、ここに所属する動植物飼育のエキスパート薄圭子(うすき けいこ)巡査。本来の職務は遺されたペットの管理なのだが、そのペットを取り巻く状況の異変を感知し、そこから事件の真相を突き止めてしまう。
    「どんな道でも究めた者は真実を見抜く」というマニアックであることの全面肯定を感じる作品だ。
    TVドラマは2017年、フジテレビで全10話が放送された。橋本環奈が、人間よりも動物のほうが大事、制服がコスプレだと思われてしまうキュートな薄圭子を好演。渡部篤郎が演じた、負傷により異動してきた元捜査一課の須藤友三(すどう ともぞう)警部補との凸凹コンビぶりが楽しい作品となった。
  • 「白戸修」シリーズ
    就職活動で苦戦するお人好しの大学生・白戸修(しらと おさむ)が、たびたびJR中央線中野駅前で事件に巻き込まれてしまう軽犯罪ミステリー。主人公のお人好しぶりと、ボヤきつつも事件解決に力を発揮する姿が微笑ましい。
    2012年1月よりTBSの深夜ドラマとして全10話が放送。白戸修役は千葉雄大。高校時代の友人・黒崎仁志役の本郷奏多もレギュラー出演。ドラマ版では、中野駅が改修工事中だったため、事件に巻き込まれる場所が阿佐ヶ谷駅に変更されている。
  • 『死神さん』
    無罪判決が出た事件、すなわち警察が敗北した事件。その再捜査を専門に行う者がいるという。当時のミスを洗うことになるため、警察内部で《死神》と呼ばれ恐れられていた。その《死神》=儀藤堅忍(ぎどう けんにん)警部補が、事件当時の捜査関係者一人を相棒に、真実をあぶりだしていく――。
    ドラマはHuluの目玉作品として、この9月から独占配信中。《死神》儀藤堅忍を田中圭が演じ、原作には登場しない警視庁広報課の南川メイを前田敦子が演じる。堤幸彦が監督を務め全6話が配信される予定だ。
大倉作品の主人公たちは、見た目の印象や、実際に新人だったりすることで、それぞれの物語の中で「とるに足らない妙なヤツ」と思われていることが多い。だが彼らは、それぞれ得意なことを活かし、ジワリジワリと真実に近づき、ついには鮮やかに解決する。彼らを侮っていた犯人は驚愕とともに崩れ落ち、事件と関わった弱き者たちは希望の光を感じる。そんな「逆転の痛快」がグッと胸に迫るのも大倉ミステリーの魅力だ。


このほかにも、映像化はされていないが、落語専門雑誌の新米編集者・間宮緑(まみや みどり)が落語をめぐる事件の謎を解く「落語」シリーズ(『三人目の幽霊』『七度狐』『やさしい死神』)や、大手不動産販売会社でクレーム処理係に配属された新人・若宮恵美子(わかみや えみこ)が不動産物件にまつわる事件を解決する「問題物件」シリーズ(『問題物件』『天使の棲む部屋 問題物件』)などの異業種謎解きヒロインものも魅力的だ。

さらに、題材からして「マニア魂」全開の作品群も紹介しておきたい。
『無法地帯』は、フィギュアコレクターの武闘派ヤクザ・大場久太郎(おおば きゅうたろう)と同じくフィギュアコレクターで探偵の宇田川一(うだがわ はじめ)、さらに違法行為も辞さない悪質なコレクター・多々見正一(ただみ しょういち)が三つ巴となって、幻のプラモデルの謎を追うというオタク度満点の一作。

『スーツアクター探偵の事件簿』は、撮影中の水没事故で着ぐるみに入れなくなった怪獣スーツアクター・椛島雄一郎(かばしま ゆういちろう)と椛島との出会いからスーツアクターになった巨漢の太田太一(おおた たいち)が事件を解決していく。なお作中で、怪獣好きの椛島が、巨大ヒーロー『ブルーマン』シリーズや『大怪獣メドン』シリーズについて熱く語る。もちろん架空の映像作品なのだが、別の大倉作品、前述の『無法地帯』や「福家」シリーズにも登場する。大倉ワールドの中では厳然と存在する映像作品なのだ。

もう一作『警官倶楽部』も紹介したい。何らかの理由で本物の警察官にならなかった、あるいはなれなかった、生粋の「警察マニア」たちが、尾行・盗聴・鑑識などプロ顔負けの技術を持ち寄り、友人を救うために事件に挑むミステリーだ。

これらの作品群で描かれているのは「マニア魂」の肯定だ。
他人に理解されなくても、何かがとても好きである、集めたくなる、エネルギーを注いでしまう。
それは、時として強大なパワーを生む。
そんな「マニア魂」そのものの力を知る大倉ならではの作品群だろう。

映像作品脚本

大倉は、映像作品の脚本にも進出する。ここでも「マニア性」が発揮されるとともに、本業のミステリー作家としての冴えを見せる。
最初は大好きな《怪獣》もの、特撮ドラマ『ウルトラマンマックス』。そしてミステリー作家としての腕を買われ、劇場版『名探偵コナン』に招聘され、さらには『ルパン三世PART5』にゲスト参加することになる。
「ウルトラマン」「コナン」「ルパン」は、言わずと知れた超強大なコンテンツだ。大倉はどのように挑んだのか。
  • 『ウルトラマンマックス』
    ・第7話「星の破壊者」(2005年8月13日放送)※梶研吾との共同脚本
    ・第32話「エリー破壊指令」(2006年2月4日放送)
    大倉の映像脚本デビュー作。2話分を担当している。監督・脚本家・漫画原作者の梶研吾の誘いを受け参加。敵の設定や防衛チームDASHメンバーの人物像の掘り下げに怪獣愛と作家魂が光る。2作ともに登場する敵・「宇宙工作員」の設定が秀逸。「宇宙工作員」は、文明を築いた果てに最後には星を破壊してしまう知的生命体、を滅ぼすことを目的とする。我々地球人類だけでなく、文明を築くものは、終局的には星を破壊してしまうのだという発想に唸る。ちなみに、大倉がのちにノベライズする『GODZILLA怪獣惑星』での「怪獣」の存在理由と解釈が近いのは興味深い。
  • 『名探偵コナン』
    ・TV第829話「不思議な少年」(2016年8月13日放送)
    ・劇場版(第21作)『から紅の恋歌』(2017年4月15日公開)
    ・TV第855話「消えた黒帯の謎」(2017年4月15日放送)
    ・劇場版(第23作)『紺青の拳』(2019年4月12日公開)
    ・TV第936話「フードコートの陰謀」(2019年4月13日放送)
    ・TV第965―968話「大怪獣ゴメラVS仮面ヤイバー」(2020年1月4、11、18、25日放送)
    『名探偵コナン』は、ミステリー作家であり、アクション描写にすぐれた大倉にとても適した題材だ。しかし超強大なコンテンツである。大倉の「基本と向き合う」アプローチを選ぶ。最初に執筆したのはTV第829話「不思議な少年」。老人が出会ったのは10年前と同じ姿をした「不思議な少年」だった、というエピソード。小学生の姿のコナンとはすなわち10年前の工藤新一の姿、という作品設定の基本に向き合い、その特性を十二分に生かした物語に仕上げた。
    大ヒットとなった2本の劇場版特に『紺青の拳』は、ミステリーとしての本線をしっかり押さえながら、スケールの大きい大アクション巨編として仕上がっており、「映画を見た!」という満足感を与える。興収も93億円を叩き出し、現在のところ劇場版『名探偵コナン』史上歴代最高興収となっている。
    TV「大怪獣ゴメラVS仮面ヤイバー」は、大倉の怪獣マニア魂がギュッと詰まった連作ミステリーだ。
  • 『ルパン三世 PART5』
    ・第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」(2018年8月1日放送)
    ルパン三世初参加作品。ここでも大倉は「基本に向き合う」。ルパン三世のさらなる原典、モーリス・ルブランによるアルセーヌ・ルパンの小説シリーズだ。ジム・バーネットとは、ルパン小説に登場する探偵。その正体はアルセーヌ・ルパンその人である。密室でルパン三世が探偵役を務めるミステリーの本作で、ルブランの小説から引用したジム・バーネット三世を名乗らせる。ミステリーの専門家、というよりミステリーマニアらしい仕掛けに、出典を知るファンは思わずニヤリとしたことだろう。

映像作品のノベライズ

大倉はさらに、映像作品のノベライズも手掛けている。
ここでも大倉の「マニア性」と「身体性」が発揮されている。
最初のノベライズは、大倉が愛してやまない『刑事コロンボ』。「マニア魂」を強く感じる1作となった。
そして『初恋』と『GODZILLA 怪獣惑星』。
この両作では、大倉の文章の「身体性」という特徴が、はっきりと表れている。
  • 『刑事コロンボ 殺しの序曲』
    まだデビュー当時の筆名・円谷夏樹名義で2000年に二見文庫から発売された。もとになる映像作品は『刑事コロンボ』第6シーズンの一篇「殺しの序曲」(1977米国放送)。このエピソードは、もともとの映像作品(日本語吹替版)も《幕切れの一言》に向けての言葉の流れづくりが絶妙な作品。大倉は、その《幕切れの一言》をよりコロンボらしく変更を加えた。深くコロンボを愛する大倉ならではのノベライズとなった。
  • 『初恋』
    最新ノベライズ作品で、映画は2020年に劇場公開された窪田正孝主演、三池崇史監督によるバイオレンスアクションラブストーリーだ。『初恋』は、タイトルとは裏腹にバイオレンスに満ちた作品だ。
    大倉は、実は格闘描写の名手でもある。いくつもの作品で格闘混戦が描かれるが、その描写は精緻で、格闘慣れしていない読者にもはっきりと動きと狙いが伝わってくる。前述のように、これは大倉が合気道と空手を体得しているゆえの業だ。相手と素手で戦うことの心理的な駆け引きと肉体的な動作が端的に言語化され、読む者に伝わってくる。
  • 『GODZILLA 怪獣惑星』
    2018年から劇場公開された3DCGアニメ版『GODZILLA』シリーズのノベライズ。
    『初恋』同様、戦闘描写の端的さとスピード感に圧倒される。映像未見の状態で読んだのだが、頭の中にはっきりと映像が浮かんでくる。非常に激しいカット割りがなされた状態で。この、はっきりと映像として「読ませる」こと=「視覚性の高いアクション描写」こそが大倉作品が映像と親和性の高い一つのポイントのように思える。

文章と映像の交錯点の中で

映像作品の原作となる小説。映像作品の土台となる脚本。映像作品を活字エンタテインメントに変換するノベライズ。大倉は、文章で映像と向き合ってきた。
その文章のベースにあるのは「マニア性」と「身体性」だ。
「マニア性」からは、ユニークなキャラクターと独創性の高いストーリーを、「身体性」からは、映像的な表現を生み出してきた。
「身体性」について、もう少しだけ考察したい。
大倉の文章では、動と静、つまり、激しいアクションとその中での冷静な思考、その両方が端的な言葉でリズミカルに紡がれる。これは大倉が体得している「武道家の呼吸」から生まれるものではないだろうか。その呼吸のリズムが、読む者に映像を感じさせる。大倉の小説が映像化に適しているのも、映像のノベライズに指名されるのも、この「武道家の呼吸」が文章に宿っているからではないのか。 そして、強大な相手に向かうとき、まず「基本に立ち返る」姿勢も、武道に由来しているのかもしれない。

大倉が手掛けてきた作品を足早に眺めてきた。その魅力とポテンシャルを感じていただけただろうか。

この大倉がシリーズをまとめ上げる『ルパン三世 PART6』。大いに期待したい。
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