Feature

10月9日放送開始! 『ルパン三世 PART6』の野望

新しい『ルパン三世』のTVシリーズが始まる。
2015年の『PART4』、2018年の『PART5』と意欲的なTVシリーズが2作続いた。そのあとをどうやって引き継ぐのか。
たどり着いた答えの一つが、ルパンの原点“ミステリー”だった。その実現のため、ある男が《シリーズ構成》として呼ばれる。ミステリー作家であり映像脚本も手掛ける大倉崇裕だ。さらに辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえ、押井守など、驚くべき面々がゲスト脚本家として参加する。
アニメ化50周年を迎える今作、どんなストーリーが飛び出すのか。
VECTORでは脚本開発に着目。
“ミステリ・ルパン”のシリーズ構成を務める大倉崇裕に焦点を当て、『ルパン三世 PART6』の野望を探る。

Index

ミステリー仕立ての“ルパン”への大胆な挑戦〜キーマン=シリーズ構成・大倉崇裕インタビュー〜

いよいよ10月9日から放送が開始されるファン待望の『ルパン三世 PART6』。今回の話題は何といってもアニメ化50周年記念にふさわしい、豪華ゲスト脚本陣の参加だろう。だが、そこに至る前に、まずはPART6の基本構造を抑えておきたい。というのも、今回、シリーズ構成を務めるのは、映像化作品多数の本格ミステリー小説家でありアニメ・特撮の脚本も手がける大倉崇裕だからである。近年では劇場版『名探偵コナン から紅の恋歌』(’17)、『名探偵コナン 紺青の拳』(’19)の脚本も手がけた大倉氏起用の狙いと今回の“ルパン”の見どころとは何なのか? 大倉氏と、トムス・エンタテインメントの文芸担当・米山昂氏にお話を伺った。

今回、どっしりとミステリーでワンクールやってみようと。

――今回、PART6をやるにあたって大倉さんをシリーズ構成&メインライターに起用されたきっかけは?

米山  アニメ化50周年である今回、ルパンをより掘り下げるようなテーマが欲しいとなりました。「PART5」のテーマが「現代」だったので、次は何だろうと。そこで出てきたものの一つが、ミステリーでした。アルセーヌ・ルパンは原作の更なる原典でもありますし、モンキー・パンチ先生の原作コミックの1話目にも明智小五郎が登場していたりと、ミステリー要素は大切にされています。また、PART5で大倉さんに書いていただいたミステリー仕立ての1本(第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」)がとても面白かったので、ここでもぜひ大倉さんにやっていただこうとなりました。

――ミステリーをやるというのと、大倉さんにお願いしようというのは、どちらが先だったんでしょうか?

米山  ほぼ同時です。弊社としては『名探偵コナン』の劇場版をやっていただく中で、大倉さんとルパンをじっくりやってみたいという希望も前からありました。PART5の第17話も大倉さんらしさというか、ミステリーの王道を通りながらも、アイデアが『ルパン三世』の線に合っている感じがすごくしたので、大倉さんがピッタリだということになったんです。

――大倉さんは、いつ頃、オファーがきたか覚えてらっしゃいますか?

大倉  あれ、いつ頃ですかね?

米山  2018年。PART5が終わった後ぐらいです。

大倉  もう3年前ですか。PART5の依頼を受けたときと同じように、いきなり呼び出されてですね(笑)、開口一番、次のルパンはミステリーでやりたいので、ついてはシリーズ構成をやってくれないかと言われまして。ただ、私は当時、<シリーズ構成>って何をするのかを全然知らなくて、それを伺うところから始まったんです。聞けば聞くほど不安になって、「天下の『ルパン三世』をこんな経験の浅い者に任せていいんですか?」っていうようなことは一応申し上げました。ただ私は、『ルパン三世』大好きだし、テーマはミステリーだということでもあるので、じゃあ経験が足りない分をフォローしていただけるんであれば、喜んでお引き受けします、というようなことを、ファミレスでお返事した覚えがあります。

――本業はミステリー作家でいらして、アニメの脚本も書かれていますが、<シリーズ構成>は初めてですよね?

大倉  ですから、受けたときはよくわからなかったんです! すぐ後に『名探偵コナン 紺青の拳』の打ち上げパーティがあって、永岡智佳監督に「実は今度、TVの『ルパン』のシリーズ構成やることになったんですよ」って打ち明けたら、「凄いじゃないですか!」って言われて。えっ、<シリーズ構成>ってそんなに凄いことなんだと、これはエラいことを引き受けてしまったんだなと、衝撃を受けたんです。

シャーロック・ホームズ登場の意外な理由とは?

ルパン三世 設定画

――先ほど米山さんのお話にありましたが、原作の1話ってちょっとエロティックでもある、ミステリー仕立ての内容で、確かにPART5の第17話は雰囲気の似たところがありましたね。

大倉  あの第17話は、割とガチでミステリーをやってみたら、いわゆるクローズド・サークル的(1)になったんです。それが結果的に、原作コミックに近いものに仕上がったなという感じで。狙ってやったわけではないんですけどね。そういうこともあって、『ルパン三世』って実はミステリーと親和性が高い素材なんじゃないか?というのはそのときから感じていましたね。だから、ワンクールをミステリーでやりたい!と言われたときに、「ああ、できるだろうな」と。その時点ではまだ何も決まってなかったんですが、頭が真っ白になるようなことはなかったです。

――ただ、第17話ではレギュラーキャラクターはルパンしか登場しませんでした。ところがシリーズでは、ルパン、次元、五ェ門、不二子、銭形……全キャラを動かさなくてはならない。しかも新キャラのホームズも登場させる。難しくはなかったですか?

大倉  そこは確かに難題でした。今回、何を核にしようかと思ったときに、私の場合はミステリー畑の人間なので、考えがまずルパン三世よりも、その原点のアルセーヌ・ルパンに及ぶんですよ。それは第17話でもそうだったんですけど、ルパンでどんなものをやろうって考えると、「8・1・3」だろうが「奇巌城」(2)だろうが、名作がいろいろと浮かぶんです。でも、それだとやはり今ご指摘のあったように、「またルパンしか活躍できなくなる可能性が高い」と思ったんです。密室劇にしてしまうと、動きが少なくなるし、五ェ門が斬るものもなくなるし、次元が撃つものもない。壁にぶち当たったときに「あ、『ルパン対ホームズ』(3)があるじゃないの」と(笑)。実はそういうきっかけなんですよ、ホームズの登場は。ルパン三世に好敵手が現れたとしたら、そいつは次元よりも強いのか? 五ェ門よりも強いのか? 一度は試さなきゃいけない。だとすると、キャラクターの総当たりもできるし、活劇になるんじゃないか。ホームズの周りを勝手に回ることによって、全員動く。ミステリーでありながら、活劇の要素が出てくるんじゃないのかなと。そう直感的に思ったんです。

――なるほど!最初の思考の中で行き着いたホームズが、5人の活躍の場を引き込んでくれたわけなんですね。今回、アルベール・ダンドレジー、八咫烏五郎(やたがらす ごろう)というPART5のキャラクターたちも登場しますが、これらは制作サイドからの要望があったのでしょうか。

大倉  アルベールについては、ホームズの登場を印象的に見せたかったんです。ホームズってこんなにすごい奴って一目でわかるオープニングが必要で、そのときに、PART5でルパンをあそこまで追い詰めたアルベールに対して、その正体をこともなく見抜いてやっつけてしまえば、それだけでホームズがいかに恐ろしい奴かってことがわかるだろうと。アルベールには申し訳なかったんですけど(笑)。八咫烏は、シナリオ会議の際に、この展開だったら八咫烏が出せるんじゃありませんか?という指摘があって、それで加えました。結果的に八咫烏がいるおかげで銭形がとっても動かしやすくなって。八咫烏ってすごいキャラクターだったんだなって再認識させられたんです。

ゲスト脚本陣は全員即答でYes!と言ってくれた。

――さて今回のシリーズではゲスト脚本家を配する形にしています。ミステリー畑の方々を中心に、辻真先さん、押井守さんから湊かなえさんまで錚々たる方々が参加していますね?

大倉  最初の方の会議で、制作陣から、アニメの脚本家以外の方でもルパンをやってみたいということは言われた気がします。私もそれは逆に面白いなと。すぐになんとなく思いつく人もいましたし。

――人選は、大倉さんを中心にされたのですか?

大倉  トムスさんと擦り合わせて決めていきました。もちろん私から、この方はどうでしょうか?と申し上げた方もいます。普段お会いしたりとか、Facebookで繋がってたりっていう方の中で、『ルパン三世』が好きだろうっていうのはわかりますから、やはりそういう人に書いて欲しかったんです。

――好きというのは、ルパン三世を? アルセーヌ・ルパンを?

大倉  それがミステリーが好きな人にとっては割と両方とも同じなんです。まあ今回、どっちかといえば『ルパン三世』の方が大事ですけど。そういうところで行くと、樋口明雄さんや押井さんは、過去に『ルパン三世』に関わりもあった方なので、思い入れはあるだろうと。
辻さんに関しては、ミステリー作家と脚本家を両立されたいわばパイオニアで、私が大変に尊敬する大先輩なので、真っ先にお願いしたんです。でも辻さんが今まで『ルパン三世』の脚本を書いたことがなかったというのは正直意外でした。

――みなさんに依頼されたときの反応で印象的なことは?

大倉  印象的というかなんていうか、全員即答でYesだったのは驚きましたね。断られるかもと思ってダメもとで依頼した方もいるんです。でも全員即答ですよ。しかも専業の脚本家でもないのに。『ルパン三世』というコンテンツのすごさに尽きます。

――押井さんは『ルパン三世』と因縁がありますよね。

大倉  そこの事情について、私はあまり詳しくないんです。でも逆に縁があるんだったら、ダメもとで行ってみるかと。空手の稽古の後、汗だくで着替えてる押井さんにいきなり言ったんです。「ルパンの脚本書きません?」って。そうしたら、その場で「いいよ」と。こっちがビックリして、「や、やるんすか?」と(笑)。慌てて帰って、すぐにトムスさんにも連絡しましたよ。

――そうしたゲスト脚本家の方々に対して、シリーズ構成者としての大倉さんが注文や条件をつけることはあったんでしょうか?

大倉  ゲスト脚本家の方々には基本的に「自由にやってください」とお願いしました。キャラクター指定もなしで、お好きなものを書いてください、と。実はこれってPART5で私が依頼されたときと同じなんですよ。当時、企画開発の方が「好きなものを」と言ってくださったんです。だから自分がお願いするときもそれがいいだろうなと思っていて。ただ、芦辺拓さんにだけは違いました。私の中で考えていたお題があって、そのお題を一番活かせるのは誰か?と考えたときに、作風からいって芦辺さんがベストだと。なので、芦辺さんにだけ「このお題でやっていただけませんか?」ということは申し上げさせてもらいました。そのお題にそって、後の展開は100%お任せしますという感じでしたね。だけど結果的にみなさんネタは被らなかったし、キャラクターもちゃんと分散できていて、「ああ、なるべくしてなるもんだよなあ」と思いました。それと、樋口さんの回に関しては、プロットをいただいたときに、これならメインストーリーとの関りを持たせられるかも?となりまして、そこから修正をお願いしたりはありました。

「謎解き」である以上、知力の勝負を描きたい。

シャーロック・ホームズ 設定画

――大倉さんの作品はマニア魂が感じられるものがすごく多いですよね。メインストーリーは大倉さんご自身が書かれたわけですが、今回、マニアックにこだわられたところはありますか?

大倉  それはやっぱりシャーロック・ホームズです。多分、これまで『ルパン三世』を観なかったという方でも、今回はミステリーだから観てみようかってところは多いと思うんです。ですから、コアなミステリーファンとか、おそろしくホームズに詳しい方とか、そういう人たちが観てもニヤリとできるポイントみたいなところは徹底的に押さえたいなと(笑)。

――今回、シャーロック・ホームズの周辺設定に関して、あまり詳しい説明をしてないですよね?

大倉  そうです。今、これだけシャーロック・ホームズものって世の中にいっぱいあるわけです。だから、あまりくどくどとホームズとは何か?と説明するのも野暮だし、知らない方から見たら、ハドソンさんって別に普通の下宿のおばさんでもいいわけだから、それはそれでいいだろうと。ただ、ただ、ワトソンは?といった部分や、ただ、ワトソンは?といった部分や、あの女の子は誰なのか?という部分は、そこがそもそものミステリーであったり、ルパンとの因縁に繋がっていたり……。ぜひご覧いただければと思います。

――時代設定はどうなっていますか。

大倉  ルパン三世と一緒に登場するこのホームズは何世なんだ?とか、どういうつながりなんだ?という細部設定を期待されている方もいらっしゃるかもしれないんですけど、そこはあまり触れてないんです。というのも、今回のホームズの在り方って、私の中ではいわゆるクロスオーバー的な考えなんですよ。つまり、今回の世界では、『ルパン三世』っていう番組と『シャーロック・ホームズ』っていう番組があって、たまたま二つが交わって共演したけれど、終わった後は、それぞれの番組世界がまたずっと続いていく、そういうイメージです。

――ルパン三世というキャラクターとシャーロック・ホームズというキャラクターが現代において共演しているというイメージなんですね。

大倉  まあ、そういうことなんです。逆に二次創作的に色々と考えていただく分にはいいんですけど、あくまでもここは『ルパン三世』の世界だということで、ホームズに関しては意識的に情報を限定してるんですよ。

――この『ルパン三世 PART6』で、大倉さんが核にしたものは何でしょうか?

大倉  一番はやはり「謎解き」であるっていう部分ですよね。単にお宝の争奪戦であったり、殺し屋同士の銃撃戦であったりということから生まれるサスペンスではなくて、明確にアタマを使って考えないと解けない謎があって、つまり体力ではない知力の勝負ですよと。その知力の勝負をどこまで描けるか。その究極のところに実はルパンがいるんだという。「ルパンって賢いんだよ」ってところですよね。そこがやれればちゃんとしたミステリーになると思う。ですから今回の『ルパン三世』を観た方々が、新たなミステリーファンとして育ってくれて、またミステリー小説を読んだり、ミステリーものの映画を好きになってくれればいいなと思ってるんです。

――現時点での手応えは、いかがですか?

大倉  完成品を全て見たわけではないんですが、1、2話を見せていただいたらとびきり面白く仕上がっていて嬉しいですね。今さっき話したことと少し矛盾して聞こえるかもしれないですけど、なんていうんですかね、私はミステリー脳の人間なので、一人で書いていると、どんどんルパンが密室の中で動かなくなっていくんですよ。でもやはりルパンは泥棒なので、お宝があって、そのためのアクションがあってというのも、やはり醍醐味になっている。私は知的なミステリーを目指して脚本を書いたけど、ともすれば動きがなくなっていくところを監督やみなさんのアドバイスでスケールを大きくしたりっていうやりとりがあったわけです。私がざっくり書いたところが、すごくイキのいいアクションになっていたりもして。第1話でもそれぞれのキャラクターが街中で入れちがいながら動き回るところとか、ああ、こんな風になるんだ!と。それは小説を書いているとなかなか味わうことができない刺激でしたね。だから、こういう刺激がこれから12話分味わえるんじゃないかと思うと嬉しいですし、凄くワクワクしてもらえると思います。

――大倉さんは「幕切れの一言」をすごく大事にされていると思いますが、第1話のラストのセリフはメチャクチャ痺れますね。

大倉  アハハ、あのセリフは意識的に決めのセリフとしては思ってたんですけど、ああいう形で生かしてもらうとは。

――絵的にもカッコよかったです!

大倉  それはもう、演出と監督の力ですよ。


2021年9月14日 トムス・エンタテインメント会議室にて
取材・インタビュアー:山本和宏
取材・構成:佐々木淳

大倉崇裕

大倉崇裕(おおくら たかひろ)

1968年京都府生まれ。学習院大学法学部卒業。推理小説作家。97年「三人目の幽霊」が第4回創元推理短編賞佳作となる。98年「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞。09年、14年に『福家警部補の挨拶』、17年に「警視庁いきもの係」シリーズ、21年には『死神さん』がドラマ化。著書に『三人目の幽霊』『白戸修の事件簿』(『ツール&ストール』改題)『無法地帯』『福家警部補の挨拶』『警官倶楽部』『オチケン!』『聖域』『問題物件』『死神さん』『ゾウに魅かれた容疑者 警視庁いきもの係』など多数。脚本担当作品に『名探偵コナン から紅の恋歌』『名探偵コナン 紺青の拳』『ルパン三世PART5』第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」など

ゲスト脚本家 紹介


辻真先

小説『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』 脚本『名探偵コナン』など

押井守

映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』など

芦辺拓

小説『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』『奇譚を売る店』など

樋口明雄

小説『天空の犬』『還らざる聖域』など

湊かなえ

小説『告白』『未来』など

註釈

  • 1 クローズド・サークル
    ミステリーにおいて、密室ものや孤島もの、列車もの、客船ものなど、外界と隔絶された舞台において展開する作品を指していう。
  • 2 「奇巌城」「8・1・3」
    モンキー・パンチ原作『ルパン三世』の原点といえる、神出鬼没な怪盗アルセーヌ・ルパンは、1905年にフランスの小説家モーリス・ルブランが生み出したキャラクター。1909年に書かれた暗号もの「奇巌城」、続いて1910年に書かれた「8・1・3」は「アルセーヌ・ルパン」シリーズの中でも傑作と誉れ高い。
  • 3 「ルパン対ホームズ」
    名探偵「シャーロック・ホームズ」シリーズの作者はアーサー・コナン・ドイルであるが、ルブランは「アルセーヌ・ルパン」シリーズの中にもシャーロック・ホームズを借用し、好敵手として対決させる内容の3作を書いている。最初の登場は1906年の短編「遅かりしシャーロック・ホームズ」。だが、ドイルがこの借用を快く思わなかった(この見解には諸説あるが)ことから、ルブランは残りの2作(「ルパン対ホームズ」に収録された2つの中編「金髪の美女」[1906年]「ユダヤのランプ」[1907年])では、このキャラクターをホームズのアナグラムのエルロック・ショルメと改名して登場させた。

1 2 3 4

pagetop