Feature

デジタルリマスターと映像アーカイブの可能性

近年、名作映画のデジタルリマスター化が盛んだ。上映ばかりでなく、BSやCSなどの放映においても画と音がリマスターされ、美しくなった旧作を味わうことができる。
そして今回、特撮ファンを狂喜させているのが、「午前十時の映画祭 11」における『モスラ 4Kデジタルリマスター版』上映(12月10日〜)である。今号では、まずChapter1として、この4Kリマスター作業を統括した東京現像所の清水俊文氏に作業の詳細を取材するとともに、Chapter2では国立映画アーカイブ研究員の三浦和己氏も交えて、真正なリマスターとは?といった点を中心に、デジタル技術が映像アーカイブにもたらす可能性と問題についても触れていただく。

Index

Chapter1 『モスラ』4K修復大作戦 !!

今年の「午前十時の映画祭11 デジタルで蘇る永遠の名作」の目玉企画の一つが、東宝特撮映画の傑作『モスラ』(本多猪四郎監督、1961)の4Kデジタルリマスター版上映である。しかし本作、すでにオリジナルネガはボロボロ、しかもオリジナルネガとマスターポジの尺が違うなど、修復には様々な未解決の謎が待ち受けていた。さらには初公開当時(1961年7月30日公開)に全国で主要11館でしか上映されなかった4チャンネル多元磁気立体音響版上映時の再現のために、関係者は福島にまで調査に向かうことになったのだった……。『モスラ』4Kリマスター作業の内容を詳報する。

“1961年初公開当時のままの『モスラ』を届けるために”
東京現像所:清水俊文氏インタビュー

東宝特撮映画 リマスターの歴史

『モスラ』初公開当時のポスター © TOHO CO., LTD『モスラ』初公開当時のポスター © TOHO CO., LTD

――東京現像所さんでは、東宝特撮映画のリマスターをこれまでもことあるごとに進められてきました。どういう道のりをたどって今日に至っているのでしょうか。

清水 まず2014年にレジェンダリー・ピクチャーズ製作の『GODZILLA ゴジラ』(ギャレス・エドワーズ監督、2014)を盛りあげる形で1作目の『ゴジラ』(本多猪四郎監督、1954)のデジタルリマスター版がはじめて作られたんです。ちょうどゴジラ誕生60周年でもありました。2013年から作業を開始して完成したのが2014年。約半年かかったのですが、これが初の東宝特撮映画のデジタルリマスター版ということになります。ただ、この時期はまだ4Kの世界が成熟していなくて出しどころもないということで2Kでリマスターしようという話になったんです。でもせっかくスキャンをするなら、スキャニングだけでも4Kでやっておこうと。ですからこの時は、スキャニングだけ4Kで行い、そのあとの作業は2Kでやっています。
次が2016年、ちょうどBSで4Kの試験放送がはじまって、日本映画専門チャンネルも番組を提供することになったんですね。ちょうどこのタイミングで『キングコング対ゴジラ』(本多猪四郎監督、1962)のバラバラになっていた素材が全て見つかったということもあったので、じゃあ、いいチャンスだということで『キングコング対ゴジラ』をスキャニングも4K、作業も4K、放送も4Kという、はじめてのオール4K作業という形で行いました。
実はそのあとはしばらく特撮映画のデジタルリマスターはなく、黒澤明作品を中心に、『西鶴一代女』(溝口健二監督、1952/国際交流基金)、『浮雲』(成瀬巳喜男監督、1955/「午前十時の映画祭」)、『日本のいちばん長い日』(岡本喜八監督、1967/「午前十時の映画祭」)などの4Kデジタルリマスターを行ってきました。ようやく今年、日本映画専門チャンネルで4Kゴジラシリーズ8作品を放送、という形になりましたので、ここで一気に4K作業が増えたというところですね。と同時に、今回「午前十時の映画祭」で『モスラ』(本多猪四郎監督、1961)が選ばれ、さらに『日本沈没』(森谷司郎監督、1973)も日本映画専門チャンネルで放送が決まったので、それも同時に作業するということで、デジタルリマスターの需要が一気に高まった感じです。

――今年、日本映画専門チャンネルで放送した8本について、もう少し詳細を教えてください。

清水俊文氏清水俊文氏

清水 作品でいうと、先に挙げた『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』に、『モスラ対ゴジラ』(本多猪四郎監督、1964)、『三大怪獣 地球最大の決戦』(本多猪四郎監督、1964)、『怪獣大戦争』(本多猪四郎監督、1965)、『怪獣総進撃』(本多猪四郎監督、1968)、ここまでが本多猪四郎監督作品です。で、ちょっと飛んで『ゴジラ対へドラ』(坂野義光監督、1971)と『ゴジラVSビオランテ』(大森一樹監督、1989)ですね。ビオランテは平成シリーズなんですが、これを1本入れておくことによってファンが平成シリーズもやってくれたから次もあるかもしれない、という期待感を持ってほしいと思って入れました。実は以前に完成させた2本も作業をし直しているんです。『ゴジラ』は先ほども説明しました通り、前回スキャニングは4Kでしてあったんですが、その後の作業は2Kだったので、今回そのあとの作業をイチから全部やり直しました(笑)。これは仕方がない。逆にいまやってこその機材の進化もあるので、その点ではよかったかなと思っています。また『キングコング対ゴジラ』は2016年の作業時は過去のソフトの編集を元に復元したのですが、その後の調査で編集上のカット順が間違っていたことがわかったんです。今回それを復元して直しています。2019年にHD放送で再放送するときにも直したのですが、今回は4K放送なので、もう1回4Kからやり直す必要があり、色合いも調整して作業しました。

――東宝がYouTubeの「ゴジラ(東宝特撮)チャンネル」にアップしている今回のリマスターのメイキング映像「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」(21分、2022年1月6日までの限定公開/以下、メイキングと略す)を面白く拝見しました。清水さんの役職「4Kリマスター統括」とは、リマスター作業において、どのようなお仕事なのでしょうか。

清水 全体的な完成までの責任を持つというマネジメント的な役割なのかなと思います。具体的にいいますと、日本映画専門チャンネルの場合でしたら、例えば「特撮枠をやりたいんですが」という話が局側や東宝からあったときに、この作品はどうですかという提案もさせていただき、それが決まったところで予算を決める。一概に「リマスター」といっても予算と与えられた作業時間はそれぞれのプロジェクトで差があり、常に十分というわけではありません。ですから、予算が決まったら、その枠の中で最も効果的なリマスターの方向性を考え、作品ごとにコンセプトを決めています。そのコンセプトは全スタッフにいう場合もありますし、一部のスタッフだけにいう、あるいは自分の中だけで持っておく場合もあるんですが、毎回違うコンセプトを作品ごとに決めてやっているんですよ。例えば2014年の『ゴジラ』なんかは傷消しですね。ボロボロのフィルムを傷消ししてピカピカにするというのがコンセプトでしたし、2016年の『キングコング対ゴジラ』では散逸していた異なる素材をつないだので、そのつなぎ目をバレないようにしようというのがコンセプトでした。そんなふうに毎回コンセプトを決めて、そのテーマに向かって時間のある限りとことん突きつめていく。自分とは別にもうひとり、『モスラ』のメイキングにも登場した小森というコーディネーターがおりまして、細かい現場のことは彼に任せているんです。ですから何か疑問点があるときは小森から報告があって、幸いなことに(?)自分が特撮オタクでその辺の知識は頭に詰まっていますので、作業のヒントになることはこちらからサポートする、という形です。あとはクオリティチェックですね。そういったところを確認して完成まで導いていく、という仕事でしょうか。

――さて、今回「午前十時の映画祭」上映作品として『モスラ』が選ばれた経緯を教えてください?

清水 選定の最終経緯は、映画祭選定委員のみなさんが決められたことなのですが、前からぜひ『モスラ』をやってほしいと、投げかけてはいたんです。その理由としては、以前に東宝でニュープリントを焼きたいという話が出たんですが、プリンターにかけてプリントを作ろうとすると「ネガが切れちゃうので使えません」と戻されてきたくらい、もうオリジナルネガがボロボロ状態。ですからいまのうちに何とかデジタル化して救い出さなければいけない、という思いがあったんです。なんといっても東宝特撮を代表する名作の一本ですからね。 それと『モスラ』のプリントをめぐっては長年にわたる“謎”がいくつもありましてね。作業をしていく上でその謎を解き明かして、完全版といわれるものを作りたい、というのが今回のコンセプトでした(笑)。

デジタルリマスターの作業過程

左が音ネガ。右が映像のネガ。「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。© TOHO CO., LTD左が音ネガ。右が映像のネガ。「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。© TOHO CO., LTD

――その謎の解明については、のちほど詳しくご説明をお願いするとして、まずはデジタルリマスター作業の一連の流れを解説していただけますか?

清水 デジタルリマスターといわれる作品が、どのように作られているかというと、まずはその作品のフィルムの原版と言われるネガを全部出庫してもらうんですね、倉庫から運び出してきてもらう。オリジナルネガ(1)の画と音があれば完成するんですが、オリジナルネガがちゃんと全部揃っているものかどうかを検証しなければいけないので、他の素材も全部出します。並べてみて、実はコマが足りない、もしくは尺がマスターポジ(2)とオリジナルネガで全然違う、ということが出てくるので突き合わせ、確認して、ここのコマが欠けている、というところを丁寧に見つけていく。これを「原版チェック」といいます。コマが欠けていた場合、その部分を復元していくことになります。

――メイキングでは、『モスラ』は39コマ欠けていたということでした。

清水 比較的少なかったですね。『キングコング対ゴジラ』のときは1カ所で12コマ欠けていて、もうそこは画がないので、デジタル上で12コマ作らなければならなかったんです。そして自然なつなぎになるように溶けこませる。
次にどのフィルムをベースにしてリマスターをするかという選定をします。そして選定したフィルムをスキャニングにかけます。ただし、今回の『モスラ』では例外的にオリジナルネガとマスターポジの2本を全編スキャンしました。その理由はあとでご説明します。
スキャニングに関しては、いま東京現像所にはスキャナーが4種類あります。スキャナーは機種ごとに得手不得手がありまして、ものすごく高画質だけどゆっくりしかとれないスキャナーとか、傷んだフィルムが得意なスキャナーとか、揺れ止めに強いスキャナーとか、いろいろなんです。ですから、どのスキャナーで行うかというのを選定して、スキャニングをします。『モスラ』の場合は「スキャニティ(SCANITY)」というスキャナーでスキャンしています。次に音のスキャンをします。「ソンダー・レゾナンス(SONDOR RESONANCES)」という機械でスキャニングしたんですが、これはいま日本に2台ぐらいしかないスキャナーで、ネガから音がとれる。普通はネガから音は取れないものなので、ネガから音が取れるのは特殊なスキャナーなんです。一番オリジナルな素材であるネガから音が取れれば音質がいいかと思われるんですが、実は音ネガはプリントに焼いて再生したときに適正な音になるように作られているんです。だから、音ネガからは音の情報量を多く取ることはできても適正な音ではないのです。このソンダーというのは音ネガから直接、プリントからのような音に補正できるスキャナーというのが特徴的なところです。

  • SCANITYSCANITY
  • SONDER RESONANCESSONDER RESONANCES

――本来聞かせる音の一工程前の素材から音を取る。その一工程加えた部分と同じ変換を機械上でやっている、ということですか。

清水 まさにそうです。通常は焼いたポジプリントから音を取るのが適正な音なのですが、ポジは1回コピーを重ねているのでネガより情報量は落ちます。それがポジより音の情報量を保ちつつ、ちゃんと変換できて、適正な音質にできるというのがソンダーなんです。さらにこのスキャナーはブツブツノイズ、傷などがついているところを、スキャニングしてから消してくれる、という機能があるんです。今回、全部ソンダーでこの作業をしました。ところが……せっかく作業したのに最終的には使わなかったんですよ(笑)。というのは、フィルムに残っている音ネガというのはモノラルなんですが、『モスラ』は公開当時<4チャンネル多元磁気立体音響(3)>というステレオ音響を本格採用した最初の作品で、そのステレオ音源(シネテープ)が使える目処が立ったんです。シネテープそのものはもう傷んで使えない状態だったのですが、実は1990年代から2000年代の初頭にかけて東宝スタジオで、そのころシネテープがすでに劣化して使えなくなりそうだったので、事前にデジタル化するというアーカイブ事業が行われていたんです。今回、そのとき取られた音から作業している、という形になります。

――シネテープをデジタル化したデータが存在した、と。

清水 はい。これでスキャニングの画と音が完成すると、素材ができあがりますので、レストアのスタッフに画を渡して傷消しをしてもらうんですが、スキャニングされたばかりのデータって画としては非常にコントラストのない画なんです。コントラストをつけるとハイライトの情報や暗部の情報が無くなってしまいますので、少しやわらかい画でスキャニングされてるんですよ。それを一回変換して、レストアしやすいデータにして渡してあげる、というプレグレーディングと呼ばれる作業を行います。それを行ってからレストア作業に入る。レストアはメイキングを観てもお判りいただけると思うんですが、傷をひたすら消す。傷だけではなく揺れも止める。ただ、この揺れも完全に止めるといかにもデジタル的に見えるので、わずかに「揺れ」を残しています。これが匙加減なんです。フィルムっぽさを残すために少しだけ「揺れ」を残す。さらに画のゆがみも直します。
レストアが完成すると。もう一回グレーディングルームに戻ってきて、本格的な色調整をする、という形になります。このとき拠りどころにするのが、タイミングデータといって、最初にフィルムを焼いたときにこのカットはこういう色合いにしようとワンカットごとに補正をかけた記録データです。それを充てて、さらにフィルムの劣化具合から補正をかけて完成させる、という形ですね。(図1)

「モスラ」デジタルリマスターの流れ
  • 原版チェック 以下6点は「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。©️TOHO CO.,LTD原版チェック 以下6点は「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。©️TOHO CO.,LTD
  • 映像スキャニング作業中の三木氏映像スキャニング作業中の三木氏
  • 音声スキャニング作業中の山地氏音声スキャニング作業中の山地氏
  • レストア作業中の加藤氏レストア作業中の加藤氏
  • 整音作業中の森本氏整音作業中の森本氏
  • グレーディング作業中の山下氏グレーディング作業中の山下氏

――近年、このタイミングデータの重要性があちらこちらで語られています。デジタル素材で初公開当時のフィルムでの色合いを正確に再現することは難しい。タイミングデータが大きな手がかりである、と。

清水 タイミングデータはリマスターに必須です。できればさらにリマスター監修者として、制作に携わった監督やキャメラマン立合いのもとに作業できればベストです。そうすれば、当時もうちょっとこのカットは明るかった、暗かったというようなことをアドバイスしてもらえますからね。ただ、『モスラ』はそういった方々の監修が不可能だったため、タイミングデータを拠りどころに我々の過去の経験をもとに作業していきました。もともとグレーダーは、デジタルリマスターを担当する前はTVの放送用マスターを何百本も作っています。そのときにプリントを焼いてテレシネをしていますので、だいたいその当時の色はこういう色だったというのはからだに染みついてるんです。それに自分が東宝特撮のトーンなど、ややオタク的な知識の部分でアドバイスもしまして、最終的に本編の色を整えていきます。

『モスラ』のフィルムをめぐる“謎”の数々

――では、いよいよ今回の『モスラ 4Kデジタルリマスター版』について、詳細にお話を伺えればと思います。先ほど、今回は例外的にオリジナルネガとマスターポジの両方をスキャニングしたとのことでしたが、これはどういう経緯だったのですか?

清水 すでに触れたように、『モスラ』のフィルムをめぐっては、ある意味伝説化している“謎”がたくさんあったんです。じゃあ両方を徹底的に比較して、それらをこのチャンスにきちんと解明しようということで、それぞれをスキャニングしてモニター上で比較していきました。
この“謎”はメイキングでもいくつか取り上げたのですが、メイキングでは割愛してしまったものを先に説明しますと、まず一つ目は、『モスラ』はオープニングのタイトルが変にカットつなぎで編集されたようになってるんです。ちょっと異色なのでファンの間でも話題になっており、昔観たときはちゃんとオーバーラップでキレイに繋がっていたと証言する方もいらっしゃいました。こうなると正しいのはどれだというのを検証していかなければならない。二つ目は、モスラの羽化シーンで、実は音楽が違うバージョンがありまして。繭から羽化したところで二回目に発売されたレーザーディスクのステレオ版だけ別の音楽が入ってるんです。最初に出たモノラル版では違う音楽だったんですが、ステレオ版になって音楽が変わっていて、それはなぜなのか。しかも後発のDVDになると、ステレオ版でもモノラル版と同じ音楽に戻っていたんです。あのときのレーザーディスクのステレオ版の音楽は何だったんだ、という謎がありまして。それを解き明かさなければいけない。

――オリジナルの上映を目指すためには、2つとも解決しなければならない問題ですね。

清水 オープニングに関しては、結局カットつなぎが正しいものだったということになりました。他にもいろいろな素材を捜索したんですが、オーバーラップで繋がっているバージョンは全く見つからなかったんです。『モスラ』は最初に編集したときに2時間ぐらいの長尺になって、当時の二本立の上映には長すぎるということで縮めたらしいんです。そのときにおそらくオープニングタイトルも編集されたのではないかと推察されるんですが、今回「マスターポジ」として残っているものはちゃんとカットつなぎになっていたんです。このマスターボジは1960年製で、ロール変わりの黒丸もない、つまりは量産前にコピーされているものなので、世の中に出回っているのはおそらくカットつなぎで間違いないであろうと。ただし、ひょっとするとロングバージョンみたいな編集途中のバージョンが1本だけ出回ってしまったという可能性もゼロではないんですけどね(笑)。通常観ることができる『モスラ』に関しては、カットつなぎが正しいものである、と結論づけました。
もうひとつのレーザーディスク版だけ音楽が違う件も、その版の元素材が一切見つからなかった。ではなぜそうなったのか? 解き明かしていくと、磁気4チャンネルのステレオ版ではモスラが羽化するところで効果音のボリュームがすごく大きくなって、古関裕而さんの音楽がかき消されてほとんど聞こえなくなるんです。モノラル版はダビングが違うのでちゃんと聞こえているんですが、ステレオ版になると音楽はほとんど聞こえない。ですからおそらくレーザーディスクを作るときに、これはマズイということで別の音楽をそこに足したんじゃないかと。今回残っている音源を、磁気4チャンネル版も含めて全部調べてみたんですが、レーザー版と同一のものは存在しなかったので……。

オリジナルネガとマスターポジで音声は同じなのに映像が異なっていた。「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。© TOHO CO., LTDオリジナルネガとマスターポジで音声は同じなのに映像が異なっていた。「『モスラ』4K復活プロジェクト 〜デジタルリマスター作業完全密着〜」より。© TOHO CO., LTD

――一方、メイキングの方では、「オリジナルネガとマスターポジの編集の違い」と「音ネガがなぜか2本出てきた」ということを取り上げていました。

清水 前者は、長年にわたって『モスラ』最大の謎だったんです。本編の中に音声と映像がかみ合わない部分があって明らかに編集違いと思われるのですが、オリジナルネガ自体がそうなっていたので長らく原因が解明されず、レーザーディスク時代のソフトもそのままで発売されてきました。それが今回、ごく初期に作成されたマスターポジが発見され、オリジナルネガと1コマごと並べて確認したところ、マスターポジでは音声はそのままなのに、シーン順が異なっていて、ちゃんと音と絵が合致していたんです。オリジナルネガは本当にボロボロだったので、おそらく何かの事情で鋏を入れられ、そのあと間違って繋ぎ直されてしまったのではないかと思いますね。両方スキャンして比べてみると、ボロボロのオリジナルネガに対して、あまり使われていないマスターポジは傷も全然少なくて、画も安定している。プリント状態は格段にいいわけです。ただどんなにボロボロでもオリジナルネガに残された情報量の方が明らかに多い。やはりオリジナルネガが残っているのなら、当然そこからスキャンしなきゃダメだよね、ということになったのですが、それがイバラの道の始まりでしたね。

――そもそもオリジナルのネガが、そんなに痛んでいた原因としては?

清水 『モスラ』は人気作だったので、常日頃から焼かれて焼かれて、ということを繰り返し酷使されて、もう限界にきていた。フィルムが痛む原因としては使われてボロボロになるというのと、“ビネガーシンドローム”(4)といってフィルム自身が持っている酢酸成分が浮き出してきてフィルム自らを溶かすという問題があるのですが、『モスラ』はしょっちゅう使われていたので酢酸成分は飛んでいってあまりビネガーシンドロームは発症していなかった。ただ、もう傷だらけの状態でした。

――それだけネガが傷だらけだったなら、今回の4Kリマスターのデータで新しいマスタープリントを作っておきたいところですが。

清水 今回はデジタルデータで保管するところまでですね。デジタルにはマイグレーション(5)の問題がつきまとうので、リマスターしたデータをフィルムに戻すという作業までやれれば作品の保存として完璧なんですが、そうするとさらにデジタルリマスター1本分くらいの予算がかかりますので、そこはちょっと我慢して。ただ、デジタルデータが無事である以上は今後そこからフィルムに焼くことはできます。デジタルデータも、今回のリマスターしたデータと、リマスターをする前のスキャニングしたままの生データも両方保存していて、何かあったときには元のデータまで戻れるようにしています。

初公開当時の上映を再現するために

小泉博、香川京子、フランキー堺の肌色も公開当時の色合いに戻った。© TOHO CO., LTD小泉博、香川京子、フランキー堺の肌色も公開当時の色合いに戻った。© TOHO CO., LTD

――音ネガが2つあったというのは何故なのですか。

清水 1本は通常のモノラルの音ネガ、もう1本はパースペクタ・ステレオという当時の擬似ステレオ音響仕様のものだったんです。両方ともソンダーでスキャニングしたのですが、先ほど説明したように、今回、最終的には磁気4チャンネルのシネテープのデータの方を使っています。
 なぜ音ネガが2種類あったのか。当時の映画館の音響について多少説明しますと、当時、映画がスコープサイズになって横長に広がり、音も拡がりを持たせようということでモノラルからステレオ音響化が計られていったんです。東宝はモノラル音源でステレオのような効果が得られる「擬似ステレオ」=パースペクタ・ステレオ方式(6)を導入したんです。

――どういったシステムだったんでしょうか?

清水 簡単に言えば、1チャンネルのモノラル音声を、ある装置をつけることによって3チャンネルに振り分けて音を出すというシステムです。前方のセンターと右左、この3チャンネルの全部から音を出すか、右からだけ出すか、左からだけ出すかというのを、音の中に埋め込まれた信号でコントロールできるんですよ。だからモノラル音声でもステレオのような効果を出すことができる。しかもデコーダーを通すとすぐに再生できる。
これに対して4チャンネル多元磁気立体音響というのは、この当時、劇場にはじめて導入された複数チャンネルの音響システムです。日香合作の『香港の夜』(千葉泰樹監督、1961年7月8日封切)で試験導入されて、『モスラ』(同7月30日封切)が本格的導入の第1作だったんです。4チャンネルというだけあって、真ん中と左と右、前に3チャンネル。さらに後ろにも1チャンネル。但し、このシステムでの上映はパースペクタと違ってそれなりの設備が必要になるので、今回調べてみましたら……日本劇場、千代田劇場、渋谷東宝、新宿東宝、新宿コマ東宝、築地東宝、あと神田東洋キネマ。この7館が東京で、あと中部で名古屋宝塚、関西で梅田劇場、なんば東宝、東宝敷島劇場、この11館に限られていたんです。まさに特別な劇場のみで、いまのドルビー・アトモスの出はじめみたいな感じだったと思います。そして同時にパースペクタ版も、モノラル版も公開されたという。贅沢ですよね。
今回の『午前十時の映画祭』での上映では、この磁気4チャンネルの音を5.1チャンネルのスピーカーのシステムにハメこんで、後ろの2チャンネル分を同じ音を出して公開当時を再現します。

このメインタイトルの前に「序曲」が流れる。© TOHO CO., LTDこのメインタイトルの前に「序曲」が流れる。© TOHO CO., LTD

――それにしても、磁気4チャンネルが導入された第1作というのは、当時『モスラ』がいかに期待された作品であったかが窺い知れます。

清水 そして今回、この磁気4チャンネルのシネテープ音源の中に大発見がありました。本編の上映前に流す「序曲」(7)が入っていたんです。この「序曲」、これまでにも『モスラ』のサウンドトラック完全盤のCDには収録されていたんですが、「序曲」として作曲はされたけど、実際の上映に使用されたのかされなかったのか、わからないままだったんですよ。その序曲がシネテープの中に存在している、ということがデータをもらってわかりまして、これはなんとか序曲つきで上映したいなと思ったんですが、東宝に判断してもらわなければいけない。言葉で説明するよりも、じゃあまず1回試写会でつけて観てもらおうと。ドキドキしながら試写会に臨んだんです。そうしたらことのほか好評で、そこから東宝が序曲をつけていいかどうかという検討をはじめてくれたんです。 つまりは当時、本当に序曲が流されたのか?という証拠集めをしなければならない。完成品の音に序曲は存在しているけれど、ネガに一緒にくっついていたわけではないので、ほんとにつけて上映したかどうか確証が得られなかったんです。まず調べたのはキューシート(8)。音楽のキューシートを見ると、「タイトル曲の前に使用」という指定があったので、これは本当に序曲の音楽なんだということがわかりました。さらに本多監督が使用したシナリオのコピーをお持ちの方が福島にいらしたので、そのシナリオを見に行きました。するとタイトル曲の前にM1A、M1Bというのが序曲のナンバーなんですが、それがちゃんと監督のメモにあったんです。その辺のレポートを東宝に提出しました。そして東宝の方がいろいろ追跡調査していただいた結果、序曲は磁気4チャンネル版のみにつけて上映していたという判断が得られて、今回の序曲つきの上映が決まったんです。やったー!って感じですね(笑)。

――そこまで追跡しないといけないわけですね。

清水 最初は序曲の存在やキューシートがわかった時点で「上映できるか!?」と盛り上がったんですが、やはこれは追跡調査していただいた方には感謝しかありません。

――かつては大作映画によく序曲とか、長い映画だとインターミッションの間にも間奏曲がつきましたが、いまはその体験のないお客さんも多いかもしれません。それだけ特別感のある上映になりますね。

清水 そうなんです。そこも東宝とどうしようかと協議しまして、「本作品は頭に約1分間序曲がついています、と。音楽だけ流れますのでよろしくお願いします」みたいな説明文を頭に入れてから序曲が始まるような仕組みにしました。ちなみに『モスラ』の上映時間はこれまでの101分から1分増えて102分となりました。

リマスター作業の進化と今後について

――ところでリマスターにあたって、制作当時のアラやミスのようなものはどうされているのですか?

清水 当時の制作スタッフの要望とか特別な事情があれば別ですが、当社のコンセプトとしてフィルムにあるものはそのままで残しておこうということで作業しています。デジタルリマスターというと、よく「映像や音をキレイにする」という意味合いに捉えられがちなのですが、いったん完成した映画はすでに作品なので、やるべきは修正ではなくて復元であってオリジナルはいじらないのが基本です。特撮の合成のアラも、現場でのハプニングも、作品内にあるのであれば、それも映画の記録としてきちんと残しておきたい。例えば、スタッフの足が映り込んでいたとかそういうのはトリビアなんですよ。のちのち映画の本編以外の楽しむネタとして、トリビアとしても、そういうのは残しておいた方がいいんじゃないかなと思います。あの『七人の侍』(黒澤明監督、1954)でも、実はカチンコが映りこんでいるカットが2カットあるんです。シュッと抜く瞬間のカチンコ。それも「ありがとうございます!」という感じでそのまま残していますし、『モスラ』でも、有名な逸話だと思いますが、インファント島住人たちが踊るシーンで、真ん中にいる役者さんのカツラが落ちるカットがあります。そういうのは直そうと思えばいくらでも直せちゃうんですが、いったん世に出た作品ですし、当時それを映画館で観て記憶していらっしゃる方もいる。直しちゃうと世の中からその歴史が消えるんですよ。リマスターはアーカイブという意味も含んでいる、ということも考えて直さない、という形にしています。

――直せば歴史の改変になるということですね。

清水 そうなんです。いまの子どもたちが観るんだからピアノ線があったら興ざめだよ、という意見もあるかもしれませんが、例えばモスラやキングギドラはおびただしい数のピアノ線で吊っているのに、そのうちの何本かしか見えてないんですよ。そうすると、そのピアノ線が見えること自体が悪いんじゃなくて、あの当時、すごい本数のピアノ線を使っているのにたった数本しか見えないということの方がすごいなと思うんです。それがあの当時の技術で、なるべくピアノ線を見せないようにしていた工夫の表われだと思うんで、そういう技術の記録という意味合いも含めて、残しておきたいなと思うんですね。
それでも制作側から直してくれ、というやむを得ない要望があった場合には直しますが、その直す前のデジタルデータを修正後のものと一緒に必ず保管するようにしています。

――リマスター作業にかかる機材というのは、年々進化してきているのでしょうか?

清水 どんどん進化していますね。2014年に『ゴジラ』をやっていたときは、アリスキャン(ARRI SCAN)という機種しかスキャナーはなかったのですが、いまは作業特性に合わせて4種類ありますし、レストア用ソフトの方も進化して処理速度が速くなり、これによってはるかに本数がこなせるようになりました。また技術的にも、たとえば我々は「あおり」といってるんですが、フィルムが劣化することによってワンカット内で明るさがゆれたりするところがあって。そのレストアは『ゴジラ』のときは1コマずつの調整だったんです。いまはソフトで基準を決めると、そこに合わせて自動でやってくれます。本当にいいソフトが出たなあと思います。

  • レストア前の映像。© TOHO CO., LTDレストア前の映像。© TOHO CO., LTD
  • レストア後の映像。© TOHO CO., LTDレストア後の映像。© TOHO CO., LTD

――今後リマスター技術は、どのようになって行くだろうと思いますか?

清水 AIによるレストアが、今後、どんどん発展していくんだろうと思いますね。いまAIがレストアしてくれるソフトをいろいろな企業が開発したり、実験したりしていまして、我々も協力してテストしたり、ということもやっています。そういうことが進んでいくと、我々が手を下すまでもなく、これは傷だとか、これは汚れだとか、判断してくれて消していってくれると思うんです。そういうソフトがこれからどんどん精度を高めて出てくるんじゃないかなと思いますね。
特にいまレストアをしていて手間がかかるのがスプライスという作業なんです。これはカットとカットのつなぎ目に接着剤を使っている。その接着剤がはみ出て、前のカットのお尻の下の部分と、次のカットの頭の部分にかなりデカく、ぐにゃぐにゃという傷みたいなものが入っている。それをワンカットずつ消し込んでいくんですね。これをまだ手作業でやらなくちゃいけない。『モスラ』はカット数が多いので、それだけでも大変でした。これを自動的に検知して消してくれるソフトが出たら、非常にラクだなと思いますね。そのへんではまだまだ進化の余地はあるでしょうし、たぶんいつかは出てくるだろうなと思います。

――こういう分野にもAI技術が欠かせなくなってきているんですね。

清水 ただこれだけははっきりしているのは、最後は人の目でコマごとチェックしないとダメです。レストアソフトは1コマだけ存在するものを「傷」として検知するので、雨なんか全部消しちゃう。雨は1コマにずっと留まっていないじゃないですか。動いているから全部消しちゃうんです。ゴジラの皮膚なんかも、ザラッザラの皮膚が傷だと検知されてオートでやるとツルツルのゴジラができあがってしまう(笑)。だからレストア作業って傷を消すだけでなく、ソフトが消しちゃったものを慎重に戻すのも仕事のうちなんです。ソフトは傷を検知すると、傷のところが色が変わって表示されるので、これは傷じゃないよとキャンセル、キャンセル、キャンセルしていって傷だけを消す。さらにソフトが検知できない傷もたくさんあるので、それは手作業で消していく、という形ですね。それとグレーディングなどは、最終的にやはり人の経験値がものをいうところが大きいと思います。AI技術を活かしつつ、手間が減った部分を人でしかできない作業に費やすということだと思います。

――最後に清水さんから、今回の『モスラ 4Kデジタルリマスター版』、ぜひここを観てほしいという点をアピールしていただきたいのですが。

清水 今回作業をして驚いたのは色の豊かさですね。他の東宝特撮作品と比べても色彩豊かに設計された作品だと思うので、いままではレーザーディスク、DVD、Blu-rayも全部買って、ソフト化の歴史も常に見ながら、このソフトの画質がいいとか悪いとか、いろいろと文句をいっていた立場だったんです(笑)。
色調整をしてみたら、こんなに色の情報が残っていたのか!と。特に東京タワーで原子熱線砲がモスラの繭を焼くところの鮮やかな青空はすごくキレイな色合いが出ています。当時の「総天然色」というのはまさにこれか!と、観ながら感動してしまいました。東宝特撮というと、どうしても『ゴジラ』シリーズに重点がおかれてしまうのですが、他のSF特撮映画でも素晴らしい作品がたくさんあるので、ぜひ多くの方にこの『モスラ 4Kデジタルリマスター版』を観に来ていただいて、他の東宝特撮シリーズのリマスター化にもつなげていきたいと思うんですよ。個人的にも『モスラ』はずっとリマスターしたかった作品ですので、いまは実現して感無量です。

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――具体的にリマスターしたい作品はありますか?

清水 本多猪四郎監督作品が好きなので、残るゴジラシリーズや東宝SF特撮シリーズの本多監督作品は早くやりたいですね。自分が決められる立場ではないのですが、したいしたいと言っていると言霊になってやれるかもしれないので、言っておきます(笑)。 あとは「午前十時の映画祭」でたくさんリマスターさせてもらっていますので、やはり黒澤明監督作品でしょうか。特に『生きものの記録』(黒澤明監督、1955)は、長年オリジナルネガがないと言われてきたのですが、最近発見したんです。これがナイトレート・フィルム(9)といって可燃性フィルムなんですよ。可燃性フィルムはいまは危険物扱いなので、全部不燃性のフィルムにコピーされて、オリジナルネガは処分されているんです。だから『ゴジラ』も『七人の侍』もオリジナルネガはもう残っていないんですが、『生きものの記録』だけは奇跡的に残されていた。ですからオリジナルネガできちんとしたリマスター版を作りたいんです。すごい画が出てくると思いますよ!

取材/山本和宏、佐々木淳
構成/佐々木淳

清水俊文

清水俊文(しみずとしふみ)

日大芸術学部放送学科卒。1993年、東宝に入社。96年、東宝映画に出向。製作部で『モスラ』(米田興弘監督、1996)、『モスラ2 海底の大決戦』(三好邦夫監督、1997)、『モスラ3 キングギドラ来襲』(米田興弘監督、1998)を担当。99年の『ゴジラ2000 ミレニアム』(大河原孝夫監督)からは本編助監督に。その後、一貫してゴジラシリーズに関わり、『ゴジラ×メカゴジラ』(手塚昌明監督、2002)、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(手塚昌明監督、2003)では特撮班助監督を、『マリと子犬の物語』(猪股隆一監督、2007)では特撮監督を務めた。現職は東京現像所・営業部部長として営業統括業務とともに、新作映画やテレビ番組のポストプロダクション・マネジメント、デジタルリマスター統括を担当。また東宝の「ゴジラ戦略会議(ゴジコン)」のメンバーとしても活躍している。

『モスラ 4Kデジタルリマスター版』12月10日(金)より公開!

東宝が誇る特撮映画の傑作『モスラ』(61)が最新技術の4K修復により美しく蘇る! 12月10日(金)より「午前十時の映画祭11」の開催劇場にて公開いたします。
【『モスラ 4Kデジタルリマスター版』上映スケジュール】
12月10日(金)~12月23日(木):グループB劇場
12月24日(金)~1月6日(木):グループA劇場
詳しくは「午前十時の映画祭11」公式サイトでご確認ください。

 

無料配信イベント「『モスラ』4K、観て!話そう!」12月11日(土)開催!

公開を記念し、無料配信イベント「『モスラ』4K、観て!話そう!」を緊急開催!!
12月11日(土)19時より「午前十時の映画祭」公式YouTubeチャンネルにて配信開始します。
大の特撮マニアを自認する・フリーアナウンサー笠井信輔氏と、やはり特撮マニアであり今回の取材にご協力いただいた『モスラ』4K修復作業統括の清水俊文氏(東京現像所)が出演。『モスラ』と『モスラ』4K修復についてとことん語り倒す、『モスラ』ファンのみならず、全特撮ファン、全映画ファン必見の配信イベントです。
【「『モスラ』4K、観て!話そう!」実施概要】
・ゲスト:笠井信輔(フリーアナウンサー)、清水俊文(『モスラ』4K修復統括)
・配信日時:12月11日(土)19時00分~20時15分(予定)※アーカイブ予定あり
・配信場所:「午前十時の映画祭」公式YouTubeチャンネルにて

註釈

  • 1 オリジナルネガ:生フィルムをカメラに装着し、露光(撮影)したオリジナルのフィルム。および、それを編集してつなげたフィルム。
  • 2 マスターポジ:オリジナルネガから焼かれたアーカイブ用のフィルム。オリジナルネガを守るため、通常はマスターポジからさらにデュープネガを作り、デュープネガから上映用プリントを作る。
  • 3 4チャンネル多元磁気立体音響:高音質の磁気録音を用い、独立した4チャンネルを持つステレオ音響システム。20世紀フォックスがシネマスコープを開発した当初、音響にはこのシステムを標準としたことから、その後、映画の音響方式として幅広く用いられることになった。ただしこの音響を実現するためには磁気音声の再生ヘッドをつけた映写機を導入しなければならないなど、映画館側に莫大な費用がかかった。東宝はパースペクタ・ステレオ方式導入の3年後、さらに進化した「パーフェクト・ステレオフォニック・サウンド」と銘打って、この方式を導入した。なお本文中にある『香港の夜』の前年の『太平洋の嵐』(松林宗惠監督、1960)においても一部シーンにだけ試験的に用いられ、その音源は同作のDVDにも収録されている。
  • 4 ビネガーシンドローム:ナイトレート・フィルムに変わって50年代に登場した不燃性フィルムはベース面に「アセテート(酢酸)セルロース」を使用している。だが日本のような高温多湿な環境下では酢酸ガスを発生してフィルムが溶解する「ビネガーシンドローム」を起こしやすかった。90年代になると、新たな不燃性フィルムとしてポリエステルフィルムが開発された。
  • 5 マイグレーション:IT用語でデータを新たな環境に移行すること。デジタルメディアは世代交代が激しいため、データの長期保存のためには次世代メディアへの変換を繰り返していく必要がある。結果的にフィルムで保存するよりもコスト高で、かつ不安定だと言われている。
  • 6 パースペクタ・ステレオ方式:1950年代前半にアメリカで開発された擬似ステレオ方式。光学式サウンドトラックのモノラル音声をインテグレータという装置を通し3チャンネルに音量の強弱をつけて振りわけることでステレオ音響のような効果を演出した。正式名称はパースペクタ・ステレオフォニック・サウンド(Perspecta Stereophonic Sound)。日本映画では東宝が1950年代後半から4チャンネル多元磁気立体音響に先駆けて導入し、多くの大作で使われた。
  • 7 序曲:1950年代後半から1960年代のワイドスクリーンの大作映画には、作品の風格を高めるため、オペラのスタイルを真似て、本編の上映前に「序曲」、(長尺の作品はインターミッションの間に「間奏曲」)、終映後に「終曲」がついた映画が数多く見受けられた。ちなみに序曲がついた代表的な作品には『ベン・ハー』(1959)、『ウエスト・サイド物語』(1961)、『アラビアのロレンス』(1963)、『2001年宇宙の旅』(1968)などがある。
  • 8 キューシート:ここでいうキューシートとは、映画における音楽の曲の配置や演奏時間などを整理した資料を指す。
  • 9 ナイトレート・フィルム:フィルムのベース面に「ニトロ(硝酸)セルロース」という可燃性素材が使用されているフィルム。1950年代まではフィルムの主流であったが、フィルムの劣化とともに発火点が下がり、自然発火を原因とする火災が増えたため、現在では危険物第5類「自己反応性物質」に指定された。

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