『機動警察パトレイバー EZY』File 2公開! プロデューサー・真木太郎と脚本・伊藤和典が語る『パトレイバー』の現在・過去・未来
Index
もっとも大事なのはキャラクター
――『EZY』の企画が動き出した時点で、伊藤さんはどんなものを作りたいと考えていたのでしょうか。

伊藤 そもそものきっかけは、押井さんの実写版です。実写版が生まれたことで、ブッちゃん(出渕裕監督)や高田明美、ゆうきさんと「僕たちの考えるパトレイバーをやりたい」という話をしたところからはじまりました。藪のなかになっていた権利関係が、株式会社HEADGEARにまとまってすっきりしたので「いまならやれるんじゃない?」という感じはあったと思う。
――『EZY』ではシリーズ構成にくわえて、全8話のうち4話分の脚本も書かれましたが、大事にされたことはなんですか?

伊藤 やっぱりキャラクターですね。『パトレイバー』を考えるうえで、キャラクターは外せない。というか、8割方はキャラクターで決まると思っているくらい。隊長を含めて7人という同じ構成でメンバーを新たに考えたわけですが、旧特車二課のメンバーって奇跡的なバランスのよさなんです。これを越えるか、近いものを作るのは、めっちゃ大変だとやり始めてから気がついて、のたうち回るくらい苦しんだ記憶があります。
――2017年の『EZY』制作発表から公開まで、約10年かかりましたが、最大の難所はどこでしたか?
伊藤 当初は60分×8本、連続性のある大河ドラマ的な物語ということにくわえて、出渕くんはコミック版に内容をよせたがっていたんです。でも、僕としては「コミック版とアニメはやっぱり違う」という抵抗感がありました。それに実際に脚本を書いてみると、60分には魔物がいると感じたんです。テレビアニメとも映画とも違う尺なので、緩急のつけ方がすごく難しい。3話まで書いたところで、これ以上は書けないと僕がギブアップしました。そこまでが最大の難所。各話30分で『アーリーデイズ』みたいなものにしようと決まってからは、ラクになりましたね。
――それが2019年ごろだとうかがいました。

伊藤 コロナの前くらいのタイミングですね。シナリオ自体は、5年以上前にあがっている。でも、書けないときは本当に苦しかった。真木さんも出渕くんも、当時僕が住んでいた熱海まで来て、相談にのってくれました。緩急のつけ方は技術的な問題なので、なにかコツをつかめば書けるようになるんですけど、コミック版の内容によせることへの心理的抵抗が消えなかったんです。自分のなかで、最後までその折り合いがつかなかった。
――伊藤さんにとって『パトレイバー』という作品を『パトレイバー』たらしめる条件は、日常性・ユーモア・倫理の3つだとおしゃっているインタビューを拝読しました。日常性とユーモアは作品を見ていてよく感じる部分ですが、倫理というのは?
伊藤 なにをもって正しいとするかですね。キャラクターたちに正しさについて質問をしたら、それぞれ違う答えが返ってくるだろうだけど、全体として考えたら、みんな同じ方向を見ていると思うんです。それが、彼らを正義の味方にしているんじゃないかな。
――『EZY』の1話は映画『隠し砦の三悪人』(1958)の「裏切り御免」というセリフ、2話は『宇宙戦艦ヤマト』の波動砲、3話は劇中映画が『大魔神』だったりと、引用の楽しさに満ちた作品だと感じました。脚本段階から意識して書かれていたのでしょうか。

伊藤 1話のセリフは引用だとあまり意識していないし、忘れていたくらい(笑)。2話の波動砲はブッちゃんだな。敵役を零式にしようといったのが彼なんです。シナリオがあがったあと、絵コンテ段階でそういうふうにしているので、小ネタのほとんどはブッちゃんな気がする。例えば1話で、クリスマスの街角に立っている女の子がいるんだけど、あれは牧瀬里穂のCM(1989年のJR東海「クリスマス・エクスプレス」)のパロディ。いわれるまで、僕は気づかなかった(笑)。
――エンドロール後の予告編が、押井監督の『ケルベロス 地獄の番犬』になっていましたが、脚本段階では違ったそうですね。
伊藤 あれは樋口(真嗣)くんの暴走(笑)。シナリオでは本編と同じく『大魔神』(1966)っぽい予告を書いていたんです。ちなみに3話に登場した、なんでもかんでも爆発する勝原プロは、石原軍団がモデルでした。でも、できあがった映像を見たら軍団じゃなく、黒澤明っぽくなっていて。『乱』(1985)で本物の城門を立てて火をつけた話とか、それっぽい匂いがしますよね。
――『File 2』の見どころを教えてください。

伊藤 4話は安心して見られる『パトレイバー』らしい話です。5話は「雪のロンド」(NEW OVA第14話)っぽい匂いもする。6話はブッちゃんが、「二人の軽井沢」(NEW OVA 第12話)をちょっとだけ意識したといっていました。
旧特車二課はこの世界のどこかにいる
――「寿司屋の後藤」で旧特車二課の決着までたどりつき、『EZY』では新たな世代の活躍を描いているわけですが、改めて伊藤さんにとって『パトレイバー』はどんな存在か教えてください。
伊藤 『パトレイバー』と「平成ガメラ」3部作(1995年公開の『ガメラ 大怪獣空中決戦』・1996年公開の『ガメラ2 レギオン襲来』・1999年公開の『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』)が、僕のコアです。『パトレイバー』がなかったら、脚本家としての自分があるかどうかあやしいくらい、僕の根っこに関わる作品になっている。ただ、『パトレイバー』までは、押井さんとセットで語られることが多くて、どちらかといえば押井さんがメインで、僕は添え物みたいだと感じることもあった。自分のなかでは、「平成ガメラ」3部作で、ようやく伊藤和典を認知してもらえたという印象があるんです。
――この本で、キャラクターへの愛情をすごく感じました。旧特車二課のメンバーは、伊藤さんにとってどんな存在ですか。

伊藤 『EZY』のみんなはまだわからないけれど、旧特車二課のメンバーは、物語としては終わっていても、いまもこの世界のどこかに絶対に生きているという気がするんです。彼らがいるのは幕の向こう側なのかもしれないけど。だから長年の知己ではありますよね。後藤は実年齢も僕と近いし。まあ、熱海に行っても、後藤に会えたりはしないでしょうけど(笑)。生み出したキャラクターはみんな、幸せになってほしいと思っています。
伊藤 和典(いとう かずのり)
1954年12月24日生まれ、山形県出身。1982年、TVシリーズ『うる星やつら』で脚本家デビュー。1988年スタートのOVA『機動警察パトレイバー』ではシリーズ構成を担当し、脚本を手がけた劇場作品『機動警察パトレイバー2 the Movie』で毎日映画コンクールの「アニメーション映画賞」「アニメグランプリ脚本賞」を受賞。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』では、ビルボードU.S.A.の第1位を獲得。著書に、小説『機動警察パトレイバー風速40メートル』『伊藤和典機動警察パトレイバー脚本集』などがある。このほかに代表作として、『魔法の天使クリィミーマミ』「平成ガメラ3部作」『.hack』『絶対少年』『MM9』など。
『機動警察パトレイバー』 寿司屋の後藤
著者:伊藤和典
発売日:2026年6月25日
定価・価格:紙版・1980円(税込) 電子版・1900円(税込)
出版社:株式会社文藝春秋
書誌情報(文藝春秋)
購入サイト(Amazon)
VECTOR youtubeでも動画版インタビューを公開中!
■「『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤」著者/
最新作『機動警察パトレイバー EZY』シリーズ構成・脚本 伊藤和典氏 インタビュー
©HEADGEAR / 機動警察パトレイバーEZY製作委員会
『機動警察パトレイバー EZY』File 2 公開!
プロデューサー・真木太郎と脚本・伊藤和典が語る『パトレイバー』の現在・過去・未来
■インタビュー:真木太郎、伊藤和典
■取材・画像協力:ジェンコ、松竹、バンダイナムコフィルムワークス、文藝春秋
■取材:ヤマモトカズヒロ
■構成・TEXT:中島文華、ヤマモトカズヒロ
■写真撮影:尹哲郎、柳 太
■映像撮影:尾崎健史、石川孝樹
■映像編集:創太
■記事編集:ウォーターマーク(尾崎健史・諸星和明・池田倫夫)
■プロデュース:ライトスタッフ(山本和宏・岩澤尚子・緒方透子)
