【ネタバレ注意】劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』公開記念! 脚本家・大倉崇裕が描く『名探偵コナン』の世界
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大倉崇裕×『名探偵コナン』の10年
似ているようで違う小説と脚本
――どんな経緯で『名探偵コナン』シリーズに参加されたのでしょうか。

『名探偵コナン』85巻
「青山剛昌の名探偵図鑑」に福家警部補が登場
© 青山剛昌/小学館
大倉 小学館の編集者さんから突然会いたいと電話がかかってきたんです。当時は小学館とお仕事をしたことがなかったので、なにか悪いことをしたかな……と思っていたら、いきなり「『名探偵コナン』の劇場版をやってくれ」といわれて。青山先生がテレビドラマ化した『福家警部補の挨拶』(2014)をご覧になって、「この原作者は『名探偵コナン』を書けるんじゃないか」と仰ったらしいんです。いまだにどこを見てそう感じたのか、青山先生に聞けていないですけれど。
今まで一応30分の脚本は書いたことがあったものの、映画の脚本なんてどうやって書くのかもわからない人間が、いきなりそんなオファーを受けたので、最初は難しいと申し上げたんですよ。すると「まずはテレビの脚本から」と。私は原作の連載が始まったときに大学生だった世代で、もともと『名探偵コナン』が好きだったし、劇場版も見ていたんです。そこで「そこまでいっていただけるなら」と、まずTVアニメの脚本を何本かやることを前提に劇場版を引き受けました。それで最初に書いたのが「不思議な少年」(2016年放送)です。結局これ1作書いただけで、劇場版を書くことになりました(笑)。
――小説と脚本で違うと感じるところや、大変だったことは?
大倉 読み物である小説に対して、脚本は設計図的な意味あいが強いので、実はまったく違うものなんです。一番の違いは、脚本には地の文がないところ。それがラクでもあり苦しくもある。ラクなのは、細部を書かなくても誰かが考えてくれるところです。脚本に「美術館」と書けば、アニメスタッフの方が背景を考えて描いてくれるので「美術館にコナンがいる」と書けば、もうセリフに進んでいい。小説だと、規模が大きいのか小さいのか、どんな展示をしているのかなど、ある程度の描写が必要で、美術館を出すとなったら自分で調べないといけない。アクションも脚本なら「バイクが走ってくる」と書けば、どなたかがバイクをデザインして走らせてくれるんです。逆に難しいのは、簡潔な言葉で人の心情が全部わかるようにしないといけないところ。小説のように地の文があれば、例えば笑うにしても、泣き笑いなのか爆笑なのか、心情をくわしく書けるんですけれど。脚本だとそれまでの話の流れによって、その人がどんな心情で笑っているかを伝えないといけない。小説をずっと書いてきた人間としては、そこが一番難しいと感じましたね。
――劇場版5作品の脚本を手がけてきて、青山先生との関係の変化を感じることは?

大倉 青山先生の発想力のすごさや、こちらの案を受け入れてくれる器の広さはすごく感じています。2作目の『紺青の拳』くらいから「ここは青山先生に考えていただこう」と図々しくお願いしちゃったり……。恐ろしいことに、青山先生はすぐにレスポンスをくださって、それが毎回完璧なので「天才のおかげでラクができる」と思いながら、いただいたセリフを丸写しさせてもらって(笑)。青山先生と話すのはとっても刺激的で、すぐになにかが生まれていくので、一方的に信頼をよせています。青山先生がどう感じていらっしゃるかは、怖くて想像できないですけど(笑)。
そういえば、蓮井監督が初打ち合わせにいらっしゃったときに、目の前で私と青山先生がダーっと会話しながら物語ができていくのを見ていたとおっしゃっていて。5作目ということで、そんなふうに見えるようになったのかと感じました。
――過去の劇場版では平次と和葉や京極と園子、今作では千速と重悟など、大倉さんはラブコメ回を担当されているイメージがあります。
大倉 実はラブコメってすごく苦手なんですよ(笑)。ラブストーリー自体、自分の小説ではほとんど書いたことがない。私がやっているのは、シチュエーションを固めることなんです。例えば『から紅の恋歌』だと「平次と和葉に加えてもうひとり女性を出して、三角関係にする」というシチュエーションを青山先生に投げると、大岡紅葉というキャラクターが生まれる。青山先生とのやりとりのおかげで、なんとかできているんです。「ひとりでラブコメを書け」といわれたら、泣いちゃうと思います(笑)。
――今後、掘り下げて書いてみたいキャラクターは?
大倉 山岳ミステリーも書いているので、山を舞台にして長野県警を書いてみたかったんですが、去年の劇場版(名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック))でやられちゃって(笑)。でも今回、重悟って本当にいいキャラクターだなと感じたので、重悟と千速をもっと書いてみたいですね。ほかにふたりを書く人がいないとなったら、責任を持って自分が書きたいなと。
『名探偵コナン』に関われる幸せ
――とくに影響を受けているミステリー小説や映像作品を教えてください。

大倉 ミステリー作家なら普通は小説をあげるのが筋なんでしょうけど、ミステリー小説を読む前にドラマ『刑事コロンボ』と『特捜最前線』を見たので、そのふたつにとても影響を受けています。『刑事コロンボ』は、最初に犯人がわかっている倒叙というスタイルや、コロンボのキャラクター、拳銃を撃ったり血が飛び散ったりすることがほとんどないスマートな作風が印象的で。子どもがテレビを見ることを喜ばないタイプの親だったんですが、『刑事コロンボ』は見せてくれた。それぐらい信頼感のあるドラマでした。
『特捜最前線』は、『太陽にほえろ!』に比べればマイナーですが、脚本で魅せるすごい刑事ドラマです。なかでもメインライターの長坂秀佳さんが書くエピソードは、推理やトリック、アクションなどが混然一体となっていて、めちゃくちゃおもしろい。中学生ではじめて見てハマり、それ以来ずっと見続けていました。私は脚本の勉強をしたことがないんですが、長坂秀佳さん脚本のエピソードを何度も見て体に染みこんだものを、『名探偵コナン』の脚本に応用していると思います。
――『名探偵コナン』ファンにおすすめの著作を教えてください。
大倉 私の作品で一番読まれている『福家警部補』シリーズですかね。はじめて脚本を担当したアニメオリジナルエピソードの「不思議な少年」でやったような倒叙ものです。『刑事コロンボ』を現代的なかたちのミステリーにできないかと思って始めたシリーズで、あくまでも一部のミステリーマニア向けに書いたんですが、予想以上に受け入れてもらえて。「大倉といえばこれ」とあげてくだる方が多いです。
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――大倉さんにとって『名探偵コナン』はどんな作品でしょうか。
大倉 作家になる前から読んでいましたが、20年以上ミステリーを書いてきた今、あらためて奇跡的なコンテンツだと思っています。ミステリー作品って、長く続けるのが難しいんです。だから、これほど広がりを持ったミステリーのキャラクター世界は、ほかに存在しないと思います。あらゆるトリックがすでに書かれた、鉱脈が掘り尽くされた、とされるミステリーというジャンルで、30年やっているのに世界が広がり続けていて、まだいろんなことができる余地が残っているなんて、本当にありえないこと。そんな作品に自分が関われているうれしさや、誇らしさを感じます。長年作家をやってきましたが、『名探偵コナン』に参加したこの10年は、ミステリーに関わる人間として本当に幸せな時間です。自分にできることがあれば、今後も『名探偵コナン』に関わりたいと思っています。
©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
大倉 崇裕(おおくら たかひろ)
1968年京都府生まれ。学習院大学法学部卒業。推理小説作家。1997年『三人目の幽霊』が第4回創元推理短編賞佳作となる。1998年『ツール&ストール』で第20回小説推理新人賞を受賞。2009年、2014年に『福家警部補の挨拶』、2012年に『白戸修の事件簿』、2017年に「警視庁いきもの係」シリーズ、2021年、2022年に『死神さん』、2025年に『問題物件』がドラマ化。そのほかの著書に『無法地帯』『警官倶楽部』『オチケン!』『聖域』『樹海警察』『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』『犬は知っている』など多数。また、劇場版『名探偵コナン』シリーズの脚本や、TVアニメ『ルパン三世 PART6』のシリーズ構成を担当するなど、幅広く活躍している。
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■劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』脚本・大倉崇裕氏 インタビュー 前編
■劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』脚本・大倉崇裕氏 インタビュー 後編
2026年5月15日、毛利蘭役・山崎和佳奈さんご逝去の報が所属事務所から発表されました。
ご冥福をお祈りするとともに、謹んで哀悼の意を表します。
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