Feature

水木プロダクションの挑戦

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が大ヒットした。
原作者の水木しげるはすでに他界している。
「水木しげるという人物とその作品を後世に伝える」。
その命題を掲げる水木プロダクションは、水木しげる氏の長女・原口尚子氏と、その夫であり代表取締役の原口智裕氏夫妻がけん引している。
水木プロダクションの現在とこれからをたずねた。

Index

※2024年8月9日記事の一部に補足修正を行いました

 

水木プロダクション 原口智裕・原口尚子インタビュー


(左から)水木しげる長女・原口尚子、代表取締役・原口智裕

水木しげる生誕100周年記念プロジェクト

――「水木しげる生誕100周年記念プロジェクト」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

尚子  水木が生まれたのが1922年なので、2019年ごろから「2022年の生誕100周年になにかできないか」と考えていました。水木プロダクションでは、それまで周年事業はやったことがなかったのですが、生誕100周年は1回しかないことなので、そこで盛り上がりを作れれば、と。次はまた100年後しかないので(笑)。

智裕  最初に着手したのが、100周年のロゴマークの制作でした。そのロゴマークをわれわれの名刺に印刷し、たとえば商談の折に「100周年なのでなにかできないですかね?」と各所に働きかけていったんです。

尚子  出版にしろイベントにしろ、「100周年」という冠があると、みなさん企画を通しやすいみたいなんですよ。

智裕  われわれだけではなにもできないので、東映アニメさんや出版社さんなど、パートナーとして一緒にやっていただける方々を探していこう、お声がけしていこう、というのがスタートでした。それから、生誕100周年の事業期間が1年だけじゃもったいないから、前後1年足して合計3年間にしようということになりました。今回限りの大きなプロジェクトですよね。

尚子  結果的に「100周年記念プロジェクト」では、アニメ化や展覧会など複数の企画を同時進行させることになりましたけれど、最初の時点では「こうしたい」といった具体的な目標というかゴールは想定していなかったんです。それぞれの企画が個別に動き出した結果であり、私たちもこんなにボリュームが出てくるとは思っていませんでした。

 

――2021年3月7日に開催された「水木しげる生誕祭」(コロナ禍のためオンライン実施)では、「100周年記念4大プロジェクト」が発表され、新アニメ『悪魔くん』や劇場アニメ『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、「百鬼夜行展」なども決まっていたかと思います。この時点では100周年事業の目標は定まっていたのでしょうか。

尚子  100周年事業をいろいろな形で取り組むことで、水木のマンガをまだ読んだことのない人たちに読んでほしい、という思いを強くしました。やっぱり水木しげるという作家を忘れないでいてほしい、これからもずっと読み続けられる作家であってほしい、との気持ちがあります。

智裕  100周年だけでなく、それを推進するのが水木プロの命題ですからね。

プロジェクト各事業の成果

――100周年記念プロジェクトの成果についてお聞きします。100周年記念展覧会の「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~」についてはいかがでしょうか。


©水木プロダクション

尚子  こちらの展覧会は、水木が描いた妖怪画だけをテーマとして深く紹介する、アカデミックなものにしたいという思いがありました。そもそも妖怪は、水木が生み出したものではありません。江戸時代の鳥山石燕の『画図百鬼夜行』などに描かれた絵や、民俗学者の柳田國男が日本各地から収集してきた妖怪に関する逸話や伝承を、水木が絵にしたんですよね。たとえば石燕の絵をただ模写するのではなくて、そこに驚いている人や風景を描き入れたりして、現代の人にも伝わりやすいように描いたんです。

智裕  「水木さんはこんなにたくさんの妖怪を生み出してすごい」なんていわれることもあるんですけど、そうではないんです。水木のスタンスは、元からあるものを自分で探してきてつかみ取ることなんですよね。妖怪というのは文化ですから、日本に脈々と受け継がれてきた文化をきちんと紹介したい。水木自身がそう望んでいたので、元の絵を尊重しているんです。元がないものは創作していますが、あるものは極力そのまま紹介しているんです。

尚子  元絵を尊重することで、当時の人たちが感じたものを、そのまま現代の人たちにも紹介できるんですよね。そういった水木のスタンスを、きちんと説明させていただく機会になった展覧会でした。「いままではただ怖いと思っていた妖怪画に、こんなにも民俗学的な学びがあるとは知らなかった」との感想も多く、みなさん水木の妖怪画に深い理解を示してくださいました。水木の業績を正しく理解してもらえたという点では、大きな成果だったと思っています。

 

――舞台『ゲゲゲの鬼太郎』(2022年7〜8月上演)はいかがでしょうか。2024年5月1日からは、Amazon Prime Videoで配信がスタートしました。


©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
©舞台「ゲゲゲの鬼太郎」製作委員会

尚子  もともとは、松本零士先生の『銀河鉄道999』の舞台化(2019年4〜5月上演)が好評だったので、それで「鬼太郎でどうか」とご提案を受けました。本当にいい舞台になったと思うし、役者さんたちが一生懸命演じてくださったんですよ。母(水木しげる妻)も一緒に観に行かせていただき、泣いて喜んでいました。浅野ゆう子さんの演じた砂かけばばあが美しいと話題にもなりましたし、荒牧慶彦さんの演じる鬼太郎も格好よかったですね。ただ、コロナ禍でいちばんピリピリしていた時期だったので、それが悔やまれます。

智裕  普段だったら、役者さんたちは一緒にご飯を食べたり、コミュニケーションをとりながら舞台を作り上げていくそうですが、それぞれの楽屋から出ることもできなかったようです。接触が制限されていた時期なので、役者さんたちに直接ごあいさつできなかったのも残念です。

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