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水木プロダクションの挑戦

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水木プロダクションのこれから

――「水木しげる生誕100周年記念プロジェクト」のあと、これからの水木プロダクションをどのようにしていこうと考えていらっしゃいますか。

智裕 水木作品を広めて、多くの人に読んでもらうというのは、われわれ水木プロの命題です。それは、これからも進めていく命題ですので、その意味では100周年がゴールではないんですよね。今回の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も、Netflix版『悪魔くん』も、われわれが映像作品に携わるのは、水木作品に触れるきっかけづくりとしての側面が強いです。いい映像作品をたくさんの人に観ていただき、そのうえで水木しげるというマンガ家の描いた作品を読んでもらう。そこが目標です。ですから、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も『悪魔くん』も、日本だけじゃなくて海外の人たちにも視聴してもらいたい。世界の人たちにも、水木しげるとその作品を知ってもらいたいです。いま日本の妖怪文化は世界でも注目されていますから。

尚子 2022年に、フランスのアングレーム市立美術館で水木しげる原画展をやっていただいて、そこで水木作品を知ってもらう機会を設けられました。いろいろな国から展覧会のお誘いをいただくんですけど、大事な原画ですから、おいそれと出すわけにはいかないんです。吟味する必要はあるんですけど、今後もそのように海外で展開することはあると思います。作品を展示したり、水木しげるという人物や作品を紹介していきたいですね。

智裕 国内に向けては、もっと展覧会をおこなっていきたいです。まだ巡回していないエリアにも行きたいですね。「百鬼夜行展」では、妖怪についてのスタンスを知ってもらいたいし、「水木しげる 魂の漫画展」では、水木のマンガに対するスタンスを知ってもらいたいです。作品の映像化については、『河童の三平』もアニメ化できたらうれしいです。『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』と同様、『河童の三平』も水木しげるらしさが多分に反映されており、われわれとしても大事な作品です。

尚子 水木の短編作品も映像化できるといいですね。すごく風刺が利いていて、哲学的な面白い短編がたくさんあります。水木が好きな人は読んでくれるけど、あまり水木を深く知らない方にはまだ届いていないので、そういったものを広く読んでいただけるようになるとうれしいです。

水木プロダクションを引き受ける

尚子 私は小学校で教師をやっていたんですけど、水木からは「水木プロに入れ」といわれていました。結婚して子供が生まれたタイミングで退職し、そこから水木プロの仕事をするようになったんです。

智裕 僕はサラリーマンだったんですけど、きっかけとしては尚子と結婚したから、というのがありますね。それまで水木プロのゼネラルマネージャーとして会社の業務をとりまとめていたのは水木の弟なんですけど、高齢になったこともあって後継を探していたようです。

尚子 このとき水木は「尚子の夫はいつ水木プロに入るんだ」と(笑)。

智裕 僕のいないところで、家族にはそう話していたみたいなんですよね(笑)。最初は「経理を頼む」という話だったので、誰でもできるような仕組みだけ作ったら元の会社に戻ろうと思っていたんですよ。誰がやっても回るようにすることが組織では大事ですから。ところが実際入ってみると、経理以外にもやることがある。そもそも水木プロはすごく特殊な会社で、会社というより個人事業主に近い感じでやっていたんです。でも、従業員だっているわけですから、まずはそこを正すことからはじめました。会社らしい会社にすること、ですね。最初は経理として入り、その後は商品化の窓口をやって……と、だんだん自分のやることが増えていくわけですよ。そうすると抜けられなくなるんですよね。

尚子 はじめは私が社長で、補佐する役割を担ってもらっていたんですけど、仕事を進めていくうえで対立することも出てくるんですよ。「それじゃよくない」「こうしたほうがいい」みたいな。そこで私が「じゃあ代わってよ」みたいなことをいったことがあるんです。水木しげるの娘としての顔と、社長としての顔を一緒にやるのは結構大変なんですよ。

智裕 じゃあ、代表取締役という役目は僕が担うけど、「父親の作品を残していくというのは娘の務めだから積極的に関わってもらわないとダメだ」という話をして、役職を入れ替えることになり、僕が代表取締役になったんです。

尚子 先日も言い争いをしたばかりで(笑)。「原画の扱いが雑だ」って注意されたんですよ。身内の立場からすると「お父ちゃんの原稿だから」って意識で雑に扱っちゃうんですけど、「もうそれではダメだ」と。

智裕 娘の立場であれば、本来それは許されるんです。でも、組織にいる立場としては許されないし、僕はそれを「ダメだ」という立場なんです。「娘だからいいよ」っていっていたら示しがつかないし、そういう風に扱っていいんだと思われたら作品の価値自体が下がってしまいますから。

尚子 役職を交代してからは娘の立場でいられるので、それは助かっていますね。

智裕 ただ、僕は水木しげると血の繋がりがあるわけではありません。傍目には、どこの馬の骨とも知れない人間が偉そうに社長をやっているように見えるかもしれないじゃないですか。だから、誰の目にも明らかな形で、水木プロの企業理念を定める必要があると感じていました。水木プロの存在意義はなんなのかを考えたときに、ただ印税収入を得て家族が潤うだけでは意味がないんですね。やはり水木しげるのために仕事をすることが大事なんです。

尚子 水木は、自分の作品が世に出ることをすごく喜んでいました。そのためにやるのが水木プロなんです。

智裕 水木しげるという人物とその作品を、広く世界に広めて伝えていくこと。そうした大目標を決めれば、そのためになにをやっていくか……、となるんですよね。そのためには、タッチポイントを増やすことが大事だと考えています。作品に触れる機会を増やし、好きになってくれる人やファンをさらに増やす。そのための「水木しげるロード」や「水木しげる記念館」であり、「100周年事業」であったわけです。いちばん重要な企業理念から外れないように、ブレないようにやっていかなくちゃいけない。いまはそういう使命感があります。

 

――最後に水木しげるファンに向けてコメントをお願いします。

智裕 水木作品のことを好きになっていただいて本当にありがとうございます。これからも水木作品を愛していただければ、と思います。

尚子 最近水木作品に触れるようになった方には、私が言うのもなんですけど、楽しめるところがたくさんありますからね、水木作品って。本当に深くて山脈みたいに連なっているようなものなので、掘っていけば掘っていくほど面白いですよ。どのきっかけから入った方も、いろいろと読んで楽しんでいただけたらな、と思います。末永く水木作品をよろしくお願いいたします。

2024.7.3 水木プロダクション応接室 にて

 

取材:加山竜司・ヤマモトカズヒロ
構成:加山竜司

写真:諸星和明/映像:加藤祐仁
プロデュース:緒方透子

水木プロダクションの原口夫妻のインタビューは映像でもご覧いただけます。

 

■水木プロダクション 原口夫妻インタビュー 前編

 

■水木プロダクション 原口夫妻インタビュー 後編

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