没後15年、いま見返されるべき映画監督、今 敏の世界
映画に対する愛が『千年女優』と『東京ゴッドファーザーズ』を生んだ
―― 『PERFECT BLUE』から『千年女優』(2002)まで、5年ほど時間が経っていますが、企画はどのようにして進められたのでしょうか。
丸山 僕は、お金は後でついてくるからと考えて、企画をどんどん進めちゃうんです。作っている作品の終わりが近づくと、次なにやろうかという話をして企画を動かすんですね。なので『PERFECT BLUE』が終わったら、すぐに『千年女優』の話をしていました。
――『千年女優』は、今さんのオリジナル作品ですが、あのような映画になったポイントはなんだったのでしょうか。

丸山 まず今くんに「なにが好きなの?」と聞くことからはじまります。彼の家の本棚を見ると、これうちのかな? と思うぐらい置いてある本やビデオがよく似ている。ほかの人があまり買わない本も買っている、というような共通項もあって、彼からすると好きなものは山ほどあると。あれもこれもみんな好き、みたいななかで、聞かれたからってこの時に無理に選んだのが、日本映画の『無法松の一生』(稲垣浩監督作品、1943、1958)でした。主人公の荒くれた男が子供をやたら面倒見るのは、実は子供のお母さんに想いを寄せていく話で、それが『千年女優』の作中で、助監督がヒロインを追い求めるところにつながっています。「映画女優といえば、原節子だよね」みたいな話ややり取りも全部、作品に生かされています。
――『千年女優』で『蜘蛛巣城』(黒澤明監督作品、1957)が引用されていたり、『パプリカ』(2006)で『ローマの休日』(ウィリアム・ワイラー監督作品、1953)や『ターザン』シリーズが引用されるなど、今監督は映画をとても勉強されていると思いました。
丸山 それらは全部、彼の本棚にある作品です。勉強というよりも好きなんですね。落語も好きで、とくに古今亭志ん生(五代目)が好きなんですが、それは本人から聞いたんだけど、大友くんがスタジオでいつも志ん生を聞いているんで好きになったと。今くんの語り口も、なんだかいつの間にか志ん生みたいになっていることがよくありました(笑)。
――キャスティングについては、『千年女優』で立花源也役をやられた飯塚昭三さんなどが印象に残りますが、今さんのこだわりはどのあたりにあったのでしょうか。
丸山 キャストについては、普通のお兄ちゃんとかお姉ちゃんとかじゃないほうがいいだろう」というのは、今くんはもちろん、僕と三間君もいつも思っていました。飯塚昭三さんに関しては声質の部分も含めて、今くんもすごく思いが強くて、あの時期に昭三さんがいてくれてよかったなと。とくに『千年女優』に関しては、昭三さんの一番いい時期にやってくれたこともあり、この人がいてくれてよかったなと思いましたね。
――『東京ゴッドファーザーズ』(2003)も、今さんのオリジナル作品ですが、それまでとまったく違うテイストの作品ですね。
丸山 アメリカ映画に『三人の名付け親(原題:3 Godfathers)』(ジョン・フォード監督作品、1948)という作品があります。3人の悪人が赤ん坊をひろって育てるという、その3人が赤ん坊に対するなかで、人生に対する想いみたいなものが、それぞれからでてくる。あのパターンをそのまま踏襲しています。だから『東京ゴッドファーザーズ』の3人も絶対アウトローであるべきだと。ひとりは家出少女、ひとりは浮浪者で、もうひとりはオカマ。明らかに世の中からはじき出された人間が、赤ん坊を偶然ひろったことから始まる物語。ただ、今くんがすごいのは、元ネタがどうであれ、最終的には今 敏の作品になる。そこが面白いところですよね、やっぱり。
――今さんの作品は、虚構と現実が曖昧になったり、時系列がバラバラになって構成されることが多いですが、『東京ゴッドファーザーズ』だけは違いますね。

丸山 クロニクル、要するに順番どおりに話が進んでいくのは、『東京ゴッドファーザーズ』だけなんです。時代とかいろんな要素が錯綜してくる。僕は、そういう部分が今くんのスタイルかなと思うんですが、まあ彼も僕もへそ曲がりですから、この時は逆にちゃんとしたことがやりたかったんですね(笑)。
『PERFECT BLUE』でも、単純に男が女を襲うのではなく「襲われているような気がしている女」の話にしようと。そうすれば単なるホラーではなく、精神的な意味でのホラーになってくる。わけのわからない話にしましょうといって、非常に乱暴な手法ですが、お話を作ってからシーンを入れ替えて、つながってないんだけど、最後にはつながって見えるようにした。どれが本当で、どれがウソかというのがわからないような、例えば電車の窓の向こうに男が立っていて「あいつは私を追いかけている男に違いない」と思うんだけど、実際は男は電車の窓に映った影だったというような映像ができないだろうか、と彼はいってました。それを実現したのがあの作品で、劇場で見るととても説得力がありました。
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