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『新幹線大爆破 フランス公開版<Super Express 109>』上映イベントレポート

池袋の新文芸坐でスタートしたシネマトークイベント「樋口尚文の千夜千本LIVE」。現在の日本映画ではお目にかかれない、1970年代前後の伝説的な挑戦作(あるいは暴走作?)を発掘し、解説トークを行うという魅力的なイベントだ。第1弾として、2025年5月28日『新幹線大爆破 フランス公開版<Super Express 109>』の上映とトークショーが開催された。このトークショーの模様をお届けする。

ひもとかれる『新幹線大爆破』の興行の歴史

1975年公開の『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌)が、当時、観客動員に伸び悩んだのは周知の通り。だがフランスでは元の152分から102分に再編集されたフランス語吹き替え版『Super Express 109』が公開され、パリの劇場でロングランを記録。1976年12月には、日本で凱旋公開された。今回の『Super Express 109』は、貴重なフィルムにより上映。「褪色(たいしょく)」が事前告知されていたものの気になることなく、観客は作品に見入っていた。

上映後、観客の興奮が冷めやらぬうちにトークショーがスタート。トークショーには、映画評論家・監督の樋口尚文氏。そして2025年4月23日からNetflixで世界独占配信され、初週の「週間グローバルTOP10(非英語映画)」で、日本で1位、世界2位を獲得、その後も数週に渡ってTOP10入りした大ヒット映画『新幹線大爆破』の樋口真嗣監督が登場。樋口監督は、上映前の館内放送も担当。「上映中、館内前方の扉を開けると爆弾の起爆スイッチが入ります!」 というパロディアナウンスで、満員の場内を大爆笑させた。

トークショーでは、個人から提供された秘蔵アイテムや資料をもとに『新幹線大爆破』『Super Express 109』の興行の歴史がひもとかれた。
「観客動員がかんばしくなかった日本公開の翌年夏に、フランスのゴーモン社が配給してパリで公開したら、ものすごいヒットをしたんです。フランス版の『Super Express 109』は、人間ドラマが全然ないアクション中心の102分に再編集しているんだけど、これはこれで面白い。それをまた東映さんが、1976年のクリスマスごろに凱旋興行と銘打って再公開したんです」(樋口尚文氏、以下尚文氏)

「これ、僕は観てないんです。 そもそも凱旋を知らなかったんですね」(樋口真嗣監督、以下真嗣氏)
「凱旋を知らなかった理由もわかっていて、当時の広告を見ると『Super Express 109』は、ほとんど宣伝していないんです。東京では丸の内TOEI、新宿東映、渋谷東映の3館のみの公開です」(尚文氏)

「『Super Express 109』は、本当に面白いですね。人間ドラマの部分がごっそり切られている。そもそも、これは誰が切ったの? 佐藤純彌監督は編集してないんですよね」(真嗣氏)
「『Super Express 109』のチラシには「これはあちらで勝手に変形したものではない。佐藤純彌監督の立会いの上で輸出用に切った」と書かれています。でも、佐藤監督は晩年のインタビューで「なにもやってません」っていってますが (笑)」(尚文氏)

おふたりの軽快なトークと、50年ぶりに公開される資料の分析に、観客は感心することしきり。また、本作の魅力でもあるフランス語の吹き替えに関しては……。
「山本圭さんが演じた犯人のひとり、古賀勝のフランス人俳優による吹き替えはそっくりでしたよね」(真嗣氏)
「高倉健さんも違和感がありませんでした」(尚文氏)
「健さん役は、ちょっとひねくれた感じの声のニュアンスがすごい似てましたね。ただ、丹波哲郎さんに関しては、ぜんぜん似ていない。ああいう感じの声優は、フランスにいないんでしょうね(笑)」(真嗣氏)

映画にはない場面をイラストで描いた宣伝ポスター

フランス版のポスターなど、宣伝に使用されたメインビジュアルにも言及。新幹線が走行しながら爆発しているイラストに、ふたりのツッコミが入った。
「このころ、映画の宣伝に誇張されたイラストを使うっていうパターンがありました。これに大きな影響を与えたのが『新幹線大爆破』の前年に公開された、ハリウッド製のパニック映画『タワーリング・インフェルノ』の宣伝ビジュアルです」(尚文氏)
「『タワーリング・インフェルノ』のメインビジュアルは、炎上するビルを俯瞰で見ている構図。周囲をヘリが飛び回っています。でもね、そんな映像はありません (笑)。

日本の『新幹線大爆破』宣伝ビジュアルもイラストでしたが、『Super Express 109』のポスターも、フランス用に描かれたまた別のイラストが使われています。これもかなり大げさです。ツッコミどころも満載。イラストの新幹線の進行方向が逆(笑)」(真嗣氏)
この『Super Express 109』宣伝ビジュアルの貴重な原画や資料の数々は、新文芸坐のロビーに展示され、来場した観客を楽しませていた。

最後に、おふたりがフランス公開版に対して、どういう評価をされているかが質問された。
「う~ん、私はやっぱり長い原作版が好きです(笑)」(尚文氏)
「ただ、子供のころって逆な気がします。サスペンスだけで、犯人側のドラマはいらねんじゃね? って。大人になったら、犯人のドラマが大事だなと思うけれど。でも『Super Express 109』は、DVDなどでは見てはいたけど、小さな画面では話がちゃんと刷り込まれない。やっぱり映画館で観ないとダメな作品だと思います」(真嗣氏)

司会を務めた新文芸坐マネジャーの花俟良王氏によると、上映された『Super Express 109』のフィルムは、この後どうなるのかが見えず、2度と上映できなくなってしまう可能性もあるという。その意味でも、今回の上映とトークショーは貴重な機会だった。
秘蔵資料の公開とロジカルな検証、そして爆笑ネタ連発で会場は大いに盛り上がり、盛況のままイベントは幕を閉じた。

「樋口尚文の千夜千本LIVE」では、これからも魅力的なイベントを企画中。はやくも第2弾として、2025年6月27日に、五木寛之原作の伝説のスタイリッシュ・カーアクション映画『ヘアピン・サーカス』を上映予定。トークゲストには、主演を務めたレーシングドライバーの見崎清志氏が登場する。レジェンドドライバーからどんなエピソードが語られるのか、期待が高まる。オンライン予約は新文芸坐公式サイトにて。

 

TEXT:幕田けいた

 

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●イントロダクション

新幹線が爆破される!緻密な計算のもと、着々と計画を実行する犯人と捜査当局との対決、極限状態におかれた様々な人間模様がドラマチックに展開する戦慄の巨大パニック映画。

東映が総力を結集して挑んだ1975年公開の本作品は、爆破犯人役で新境地に挑んだ高倉健をはじめ、千葉真一、多岐川裕美、宇津井健ら豪華キャストが集結。海外でも劇場公開されフランスで大ヒットし、アメリカ映画にも多大な影響を与えた、まさに日本映画史に名を残す傑作が、4Kネガスキャン2Kリマスターの高画質Blu-rayでよみがえる!

 

●ストーリー

9時48分、約1500人の乗客を乗せた新幹線ひかり109号博多行は、定刻どおり東京駅19番ホームを発車した。列車が相模原付近に差し掛かった頃、国鉄本社公安本部に、この109号に爆弾を仕掛けたという電話が入った。特殊発火装置を施した爆弾は、スピードが80km以下に減速すると自動的に爆発するという。止まることのできないひかり号は、東京から博多までの1100km超をノン・ストップで疾走する。緻密な計画のもと500万ドルを要求し着々と計画を実行する犯人・沖田と、捜査当局との息もつかせぬ駆け引き、そして運転司令室の頭脳操作……。逃げ場のない極限状態の中、犯行グループ、警察、国鉄職員、乗客、それぞれの人間模様がドラマチックに展開し、全国民が注目する中、列車は驀進する!

 

●キャスト

高倉健、千葉真一、山本圭、織田あきら、竜雷太、田中邦衛、郷鍈治、川地民夫、宇津宮雅代、藤田弓子、藤浩子、松平純子、多岐川裕美、志穂美悦子、志村喬、山内明、渡辺文雄、永井智雄、鈴木瑞穂、丹波哲郎、宇津井健

 

●スタッフ

原案:加藤阿礼
企画:天尾完次、坂上 順
脚本:小野竜之助、佐藤純彌
撮影:飯村雅彦、山沢義一、清水政郎
音楽:青山八郎
監督:佐藤純彌

 

1975年7月公開
©東映

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