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映画『パピヨン』特別先行上映イベントレポート

スティーヴ・マックィーン&ダスティン・ホフマン主演、映画『パピヨン』が現在全国劇場にて公開中。 公開に先駆けて行われた、ライムスター宇多丸登壇・特別先行上映の様子をお伝えする。

「自由への闘い」へ身を投じるパピヨンは哲学的

パピヨン
©1973 Cinemotion N.V.

2025年1月12日(日)、伝説的なバディ冒険物語『パピヨン』の特別先行上映が、都内中央区築地の東劇で開催された。
アクションスターとして世界的な人気を誇ったスティーヴ・マックイーンと、繊細な人間像を演じ注目を浴びていたダスティン・ホフマンが主演した超大作『パピヨン』は、1973年の世界興行ランキングで6位を獲得、日本でも1974年の洋画興行ランキング3位を獲得した大ヒット作品だ。
当日は、本編上映後に映画評論家としても活躍するラッパー、ライムスター宇多丸氏が登壇してトークイベントが開催された。
宇多丸氏は、1973年公開のオリジナル版は、2017年のリメイク版と比べて説明が少なく、全体が数多くの暗喩で構成されていると分析する。
「フランクリン・J・シャフナー監督作品は、幻想シーンが多い。パピヨンが見る夢の中で、裁判官に『お前の罪は人生を無駄にしたことだ』っていわれるところは、すごくグサッとくる」
これまでのチンピラ生活で人生を棒に振ってきたパピヨンが、収監後自由を得るために脱獄することに人生の価値を見いだした姿は、現代社会の生活にも通じるという。管理されている監獄の悪魔島は絶対に脱獄できないが、管理者のいうことを聞いていれば、こぢんまりと幸せそうには暮らせるのだ。


©1973 Cinemotion N.V.

「これは我々の普通の暮らしと同じ。同じようなシステムが、表の世界でも層を重ねているんです。結局、監獄の外も監獄じゃんってことですよね」
それでも“自由への闘い”へ身を投じていくパピヨンは、哲学的ですらあると宇多丸氏。
「管理者のいうことを聞いていれば、それなりに快適に暮らせるけど、“それは本当に自由なんですか” “そもそも自由ってなんですか”という問いかけが本作にはある。僕らはドガと同じで、逃げることなんて考えられません。この“パピヨン”という実在した人の話は、寓話としても価値がより増している気がしました」
いまでは語られる機会が少なくなった監督にも言及する。
「シャフナー監督は作家性がありますね。現在では名前を忘れられつつありますが、『猿の惑星』(1968)や『パットン大戦車軍団』(1970)の監督といういいかたになるのかもしれない人ですけれど、今回『パピヨン』を観ていいなって思いました。いい機会をいただけました」
『パピヨン』と同様のカウンターカルチャー的な作品として、引退したスパイが拉致された島で、意味不明な不条理と戦いながら脱出しようとするパトリック・マクグーハン主演のテレビ番組『プリズナーNo.6』を上げる宇多丸氏の視点は面白い。その縦横無尽に作品を分析する解説に、来場者も興味深そうにうなずいていた。

映画とは、そういうものなんだから仕方がない

パピヨン
©1973 Cinemotion N.V.

映画館の大きなスクリーンで『パピヨン』を観るのは、はじめてだという宇多丸氏。また来場者も『パピヨン』をはじめて観る観客が大くを占めていた。宇多丸氏は、そんな『パピヨン』の観方にも着目する。クラシック映画は、映画館での上映以外の鑑賞方法を想定していないアートフォームだ。『パピヨン』も、映画館で2時間半、集中して観る作品であり、見た人にだけ感じられる感慨があるように作られているという。
「『人生を無駄にしたのが罪だ』っていうシーンも、何度も観ているのに、映画館で見直したらポロッと泣いちゃった。全然、違う。これが本来の形なんだなって。決してノスタルジーの話ではなく、映画とは、そういうものなんだから仕方がない、ということ。今日の会場である東劇さんみたいに、ちゃんと昔の上映設備が残っていた上で、リマスターされたものをきれいに観るっていうのは、ベストな環境だと思います」
スクリーンで見られる機会が、次にいつ来るかといったら、もう自分が生きている時代ではありませんということになるかも、と観客を笑わせながらも、最後は「『パピヨン』は“哲学的アクション映画”といっていいくらいの作品。それを劇場で集中して見ることで、僕自身もあらためて再発見した感じがありました」との感想でしめ、会場は大きな拍手で満たされた。

 

TEXT:幕田けいた

 

パピヨン
©1973 Cinemotion N.V.

『パピヨン』

公開中

【キャスト】
パピヨン:スティーヴ・マックィーン
ルイ・ドガ:ダスティン・ホフマン
マチュレット:ロバート・デマン
クルジオ:ウッドロー・パーフリー
トゥーサン:アンソニー・ザーブ

【スタッフ】
製作 :ロベール・ドルフマン、フランクリン・J・シャフナー
監督 :フランクリン・J・シャフナー
脚本 :ダルトン・トランボ、ロレンゾ・センプル・ジュニア
原作 :アンリ・シャリエール
撮影 :フレッド・コーネカンプ
美術 :アンソニー・マスターズ
音楽 :ジェリー・ゴールドスミス

製作年:1973年
製作国:フランス・アメリカ
上映時間:151分
配給・宣伝:東京テアトル

【ストーリー】
胸に蝶の刺青を持つ金庫破りパピヨンは、無実の罪で、南米フランス領ギアナの監獄に送られる。移送中の船の中で、パピヨンは天才偽造職人ルイ・ドガと知り合った。ドガは金を狙ったほかの囚人たちに襲われるが、パピヨンが救う。そこから絆を深めていく2人。
囚人たちは、劣悪な環境と苛酷な労働で、バタバタと命を落としていく。当初、脱獄意思の無かったドガも、生命の危機を前に気持ちが揺らぐ。
パピヨンは、ついに脱獄を決意する。だが――。

公式サイト:https://www.theatres-classics.com/
公式X:https://x.com/theatreclassics

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