谷田部透湖氏が語る アニメーターへの道とこれから
「アニメ・ファンタジスタ・ジャパン 2026」開催!
多数のアニメ制作会社が拠点を構える東京都武蔵野市にて、2026年7月19日(土)・20日(日)、「アニメ・ファンタジスタ・ジャパン 2026」が開催された。ここでは、アニメーター・谷田部透湖氏のトークショーを中心に、その様子をレポートする。
「アニメ・ファンタジスタ・ジャパン」とは?

武蔵野市に本拠地を置くアニメーション制作会社の協力を得て、毎夏開催される「アニメ・ファンタジスタ・ジャパン」。今年で3回目となる新しいアニメイベントだが、会場の吉祥寺エクセルホテル東急には、地元の子どもや親子連れ、アニメファンが集まり、大いににぎわった。
アニメーター・谷田部透湖氏の軌跡をたどるクリエイタートーク

そんなイベントの大トリを務めたのが、アニメーター・谷田部透湖氏のトークショー。会場は満席となり、アニメーション史研究家の原口正宏氏を聞き手に、谷田部氏の生い立ちやアニメーターとしての経歴、制作の裏話などが、たっぷり1時間半語られた。
まず話題に上がったのは、幼少期の作品体験について。小さいころから絵を描くことが大好きで、絵本や児童書を好んで読んでいたという谷田部氏は、好きな絵本作家や児童文学作家を挙げた。また、『風の谷のナウシカ』のナウシカが大好きで、「本当に幼いころは、虫笛を再現しようとしたりしていました。メーヴェにも乗ってみたかった」と子供らしい無邪気なエピソードも飛び出した。他、「ゲゲゲの鬼太郎(第四期)」世代であり、その世界に魅了された影響も語った。
続いて、原口氏からアニメーターを意識するようになったきっかけを問われると、谷田部氏は「中高生のころに見た大友克洋監督の『AKIRA』(1988年)」と回答。同作品で作画監督をつとめたアニメーター・なかむらたかし氏の絵に惹かれたという。
武蔵野美術大学在学時には、なかむら監督の映画『寫眞館』(2013年)の制作に参加していたお話も。当時、アニメ制作会社・スタジオコロリドでアルバイトをしていた谷田部氏は、なかむら監督の原画を動画にする作業を担当。憧れのアニメーターとの邂逅を語り、「自分にとってはすごく貴重な、いい体験を学生のときにさせてもらいました。思い出です」と感慨深げに振り返った。
学生時代からアニメ制作現場で働きつつ、大学では自主制作でアニメを作っていた谷田部氏。スクリーンには、在学中に制作した12本以上の作品が一覧で映し出され、1年生のころから仲間を集めてアニメーション制作に励んでいたことが紹介された。
美大に通っている以上、当然アニメ以外の課題制作もあった。そんななか、驚異的なスピードで作品を作り続けていたことについて、谷田部氏は「ひとつの作品の制作が終わったら、『次はなにを作ろう?』って。アイデアが思いついた順に作っている感じでした」と当然のように語った。
「ずっと絵を描いていても苦じゃなかった。それはいまも同じかなと思います」
アニメーターから演出家へ
続くテーマは、カラー入社後について。スクリーンには、アニメ制作のワークフロー図が表示され、アニメーションの制作について簡易的な解説がなされた。また、谷田部氏が原画をつなぎ合わせてアニメーションにする「動画」から、入社1年未満という速さで「原画」にステップアップしたこともわかった。
アニメ業界に入って約2年後には、TVアニメ『三者三葉』(2016年/動画工房)で、はじめて絵コンテ・演出を担当し、演出家としてのキャリアもスタート。梅原翔太プロデューサーの誘いで参加したと語られた。原口氏から「入社時から、やがては演出家になりたいと伝えていた?」と聞かれると、谷田部氏は「いってはなかったんですけど」と前置きしたうえで、「社内で新人の面倒を見てくださった鶴巻和哉さんが『演出やりたいんだね』と当時いってくれて。見抜かれていたんです。そこで、自分のやりたいことを再確認しました」と大先輩の慧眼と作品作りへの意欲を示した。
また、『台風のノルダ』(2015年/スタジオコロリド)、『三者三葉』(2016年/動画工房)、『海獣の子供』(2019年/STUDIO 4℃)など、他社アニメの制作に関わるようになった経緯をたずねられた際には、「カラーは大きいのを1個作ったら間が空いて、“放牧”される期間があるんです」と笑いを誘う一幕も。学生時代の作品やアルバイト時代のつながりでオファーがあったことを明かし、TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6作(2018年/東映アニメーション)の仕事も、谷田部氏の鬼太郎好きを知っていたスタッフの推薦によるものと説明された。
気づいたら副監督になっていた
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)の制作がはじまると、 “放牧”から呼び戻された谷田部氏。当初は原画として参加していたが、演出家としての経験を買われ、鶴巻監督のパート演出を手伝うことに。
「どんどん後から仕事が追加されて、わんこそば状態でやることが増えていった結果、最終的にクレジットが副監督になっていました(笑)」(谷田部氏)
衝撃の事実に、会場からは驚きの声が上がっていた。
一方で、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年)では、TVアニメ版で共演した古賀豪監督の推薦を受けて、キャラクターデザイン・総作画監督に抜擢。「自分がキャラクターデザインをするタイプの人間だと思っていなかったのでオファーにびっくりしたんですが、鬼太郎ならやりたいと思ってお受けしました」と当時の心境を話す。制作では、シナリオ会議やアフレコ立ち合い、宣伝など、デザイン・作画作業以外の幅広い分野で谷田部氏のアイデアや働きが重宝されたことがうかがえた。特に宣伝は当初大掛かりなものが難しく、歯がゆさを感じることもあったという。そこで「せっかく大好きな鬼太郎の映画を作っているんだから、SNSなどから少しでも作品を知ってもらえれば」と広報チームに協力し、PRイラストの制作を行うなど、網羅的に作品と向き合った。
シナリオも、最初は「バディもの」「村ホラー」「鬼太郎誕生につながる」の3点ほどしか決まっていなかったところ、シナリオ会議に合流した谷田部氏によって水木・ゲゲ郎のキャラクター性の提案がなされ、その後ストーリーやキャラクターが生まれ、固まっていったという。ほかにも、貴重な資料と共に当時の裏話が多数披露された。
最後に「こんな人間も居るんだな、という一例と思って頂ければ」と、未来のアニメーターやファンに向けて谷田部氏は語る。
「自分の経歴って、既定の積み木を重ねているというより、いろんな形の積み木がごちゃっと組み合わさって積まれている印象を受けると思うんです。こういうパターンもあるんだなと思って頂ければ。アニメって、制作は大変なんですけど、作品が完成するのはすごく楽しいしうれしい。絵を描いたり作品を作ったりするのが好きな方や、自分の技術を懸けて憧れの人や作品の仕事をしたい意欲がある方は、業界に飛び込んでみると楽しいかもしれません。
ファンの方も、専門的な内容にもかかわらず聞きに来てくださって、本当にありがとうございます。少しでも魅力的な作品を作れたらと思いますので、引き続きよろしければ見守ってください」
ワークショップやコマ撮り体験も充実!
会場ではトークショーのほか、作画体験ワークショップ、入場無料の原画展示、コマ撮り体験、アニメ上映会、就職相談ブースなども設けられていた。
ワークショップでは、1日4回「デジタル作画講座」と「アナログ線画講座」の2種類を開催。現役で活躍するアニメーターが講師となり、イラスト制作に慣れたアマチュアからアニメ好きの親子まで、幅広い層が参加していた。
また入口付近の入場無料エリアには、タブレットで簡単にストップモーション・アニメーションを撮影できる体験ブース「コマ撮り&アニメの遊び場」も。紙粘土や流木などの素材を自由に動かして撮影することで、簡単にアニメーションのしくみを学べるブースになっていて、子どもたちが熱心に作品づくりに取り組む姿が見られた。
谷田部 透湖(やたべ とうこ)
栃木県出身。武蔵野美術大学映像学科卒業。アニメーター。
在学中からアニメをはじめとした作品制作・発表を行い、卒業後は株式会社カラーへ入社。原画、絵コンテ、演出、キャラクターデザインなど、幅広い分野で活躍している。代表作は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年/副監督)、『EVANGELION:3.0(-46h)』(2023年/監督)、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年/キャラクターデザイン・総作画監督)、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(2025年/絵コンテ・演出)など。「東京アニメアワード2025」でアニメーター賞を受賞。
また現在は、月刊ニュータイプにて、アニメ業界で働く人々にスポットをあてた日常漫画「あけてもくれても」も連載中。「エヴァンゲリオン完全新作シリーズ」の監督を務めることも発表されており、ますます活躍の場を広げている!




