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10月9日放送開始! 『ルパン三世 PART6』の野望

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「マニア性」と「身体性」から生まれる
ユニークなキャラと映像的表現が魅力の大倉作品

VECTOR Magazine編集部
山本和宏

大倉作品の魅力の源泉

『ルパン三世 PART6』のシリーズ構成・メインライターを務める大倉崇裕は、これまでどのような作品を生んできたのだろうか。ここでは、大倉のこれまでの仕事を概観してみたい。

大倉は、エンタテインメント性に富んだ作品を得意とするミステリー作家だ。
その作品の特徴的な魅力は、「《キャラ立ち》したユニークな主人公(設定)」、「視覚性の高いアクション描写」、「痛快な逆転劇」、そして「脈々と流れるマニア魂」にある。
そしてこの魅力の源泉は、大倉自身の「マニア性」と高い「身体性」にあるように思う。

大倉自身、相当な「マニア」だ。
『刑事コロンボ』や『特捜最前線』を愛し、怪獣に血道をあげ、フィギュアとプラモを蒐集し、落語会に足を運ぶ。
また「身体性」も高い。
空手道今野塾の有段者で、学生時代は山岳系サークルで山行を重ねた。
武道も山も、内面的身体的両面で自分を律する力を強く求められる。
この二つの特性が、大倉作品の魅力の源泉であり、映像作品との高い親和性につながっているのではないだろうか。

大倉の仕事は幅広い。ミステリーに限っても、緊張感張りつめる山岳ミステリ―から、王道の本格推理もの、また一方では、え?そんな設定あり?なオタク心炸裂の作品まで実に多様だ。ミステリー以外に「怪獣小説」も著している。
そして、映像との関わりも深い。自作の映像化だけでなく、映像作品のノベライズも手掛け、アニメや特撮作品の脚本も執筆する。

では、代表的な作品を通して、その魅力を確認していこう。

ミステリー小説

大倉のミステリー作家としての活動は1990年代後半に始まる。1997年に『三人目の幽霊』で第四回創元推理短編賞佳作、1998年に『ツール&ストール』で第20回小説推理新人賞を受賞(円谷夏樹 名義)。2004年に『七度狐』で本格ミステリ・ベスト10第4位、2007年には『福家警部補の挨拶』で本格ミステリ・ベスト10第8位に輝いている。
大倉作品は、本職の警察官が謎解き役を務めるもののほか、不動産販売会社のクレーム処理係、友人を山で亡くした元クライマー、お人好しの大学生、警察マニア、フィギュアオタクのヤクザなどさまざまな属性を持つものが探偵役となる作品も多い。 その中で、映像映えするキャラが主役の作品が、これまでに映像化されてきた。
  • 「福家警部補」シリーズ
    『福家警部補の挨拶』に始まる「福家警部補」シリーズは、『刑事コロンボ』へのリスペクトに溢れた作品。
    最初に犯行場面が描かれる《倒叙ミステリー》であること、主人公のファーストネームが明かされないことなど『刑事コロンボ』との共通点は多い。一つ一つのエピソードにも『刑事コロンボ』に範をとったものがある。物語の主人公は警視庁捜査一課の女性警察官・福家(ふくいえ)警部補。凄腕の捜査官なのだが、警察バッジがないと学生に見間違えられてしまうほど頼りなげに見える。その福家が、犯人の行動のわずかな綻びを突いて真実に迫っていく。
    この作品は2度TVドラマ化された。永作博美が福家を演じたNHK版は、2009年1月2日放送の単発ドラマ。壇れいが福家を演じたフジテレビ版は2014年1月から全11話が放送された。稲垣吾郎が上司役でレギュラー出演したほか、犯人役に反町隆史、富田靖子、北村有起哉、古谷一行、八千草薫という錚々たる面々が並ぶ。
    余談だが、漫画家の青山剛昌が檀れい版の『福家警部補の挨拶』を気に入り、『名探偵コナン』原作コミック第85巻カバー見返しの「名探偵図鑑」で福家警部補を紹介。さらに劇場版『名探偵コナン』の脚本家として大倉を推挙したのだという。
  • 「警視庁いきもの係」シリーズ
    犯罪被害で亡くなった人が飼っていたペットたちはどうなるのか。一時的にそのペットを管理する職務を負っているのが、警視庁総務部総務課の動植物管理係だ。まずこの設定が秀逸だ。もちろん実際の警視庁にはそんな部署はない。主人公は、ここに所属する動植物飼育のエキスパート薄圭子(うすき けいこ)巡査。本来の職務は遺されたペットの管理なのだが、そのペットを取り巻く状況の異変を感知し、そこから事件の真相を突き止めてしまう。
    「どんな道でも究めた者は真実を見抜く」というマニアックであることの全面肯定を感じる作品だ。
    TVドラマは2017年、フジテレビで全10話が放送された。橋本環奈が、人間よりも動物のほうが大事、制服がコスプレだと思われてしまうキュートな薄圭子を好演。渡部篤郎が演じた、負傷により異動してきた元捜査一課の須藤友三(すどう ともぞう)警部補との凸凹コンビぶりが楽しい作品となった。
  • 「白戸修」シリーズ
    就職活動で苦戦するお人好しの大学生・白戸修(しらと おさむ)が、たびたびJR中央線中野駅前で事件に巻き込まれてしまう軽犯罪ミステリー。主人公のお人好しぶりと、ボヤきつつも事件解決に力を発揮する姿が微笑ましい。
    2012年1月よりTBSの深夜ドラマとして全10話が放送。白戸修役は千葉雄大。高校時代の友人・黒崎仁志役の本郷奏多もレギュラー出演。ドラマ版では、中野駅が改修工事中だったため、事件に巻き込まれる場所が阿佐ヶ谷駅に変更されている。
  • 『死神さん』
    無罪判決が出た事件、すなわち警察が敗北した事件。その再捜査を専門に行う者がいるという。当時のミスを洗うことになるため、警察内部で《死神》と呼ばれ恐れられていた。その《死神》=儀藤堅忍(ぎどう けんにん)警部補が、事件当時の捜査関係者一人を相棒に、真実をあぶりだしていく――。
    ドラマはHuluの目玉作品として、この9月から独占配信中。《死神》儀藤堅忍を田中圭が演じ、原作には登場しない警視庁広報課の南川メイを前田敦子が演じる。堤幸彦が監督を務め全6話が配信される予定だ。
大倉作品の主人公たちは、見た目の印象や、実際に新人だったりすることで、それぞれの物語の中で「とるに足らない妙なヤツ」と思われていることが多い。だが彼らは、それぞれ得意なことを活かし、ジワリジワリと真実に近づき、ついには鮮やかに解決する。彼らを侮っていた犯人は驚愕とともに崩れ落ち、事件と関わった弱き者たちは希望の光を感じる。そんな「逆転の痛快」がグッと胸に迫るのも大倉ミステリーの魅力だ。


このほかにも、映像化はされていないが、落語専門雑誌の新米編集者・間宮緑(まみや みどり)が落語をめぐる事件の謎を解く「落語」シリーズ(『三人目の幽霊』『七度狐』『やさしい死神』)や、大手不動産販売会社でクレーム処理係に配属された新人・若宮恵美子(わかみや えみこ)が不動産物件にまつわる事件を解決する「問題物件」シリーズ(『問題物件』『天使の棲む部屋 問題物件』)などの異業種謎解きヒロインものも魅力的だ。

さらに、題材からして「マニア魂」全開の作品群も紹介しておきたい。
『無法地帯』は、フィギュアコレクターの武闘派ヤクザ・大場久太郎(おおば きゅうたろう)と同じくフィギュアコレクターで探偵の宇田川一(うだがわ はじめ)、さらに違法行為も辞さない悪質なコレクター・多々見正一(ただみ しょういち)が三つ巴となって、幻のプラモデルの謎を追うというオタク度満点の一作。

『スーツアクター探偵の事件簿』は、撮影中の水没事故で着ぐるみに入れなくなった怪獣スーツアクター・椛島雄一郎(かばしま ゆういちろう)と椛島との出会いからスーツアクターになった巨漢の太田太一(おおた たいち)が事件を解決していく。なお作中で、怪獣好きの椛島が、巨大ヒーロー『ブルーマン』シリーズや『大怪獣メドン』シリーズについて熱く語る。もちろん架空の映像作品なのだが、別の大倉作品、前述の『無法地帯』や「福家」シリーズにも登場する。大倉ワールドの中では厳然と存在する映像作品なのだ。

もう一作『警官倶楽部』も紹介したい。何らかの理由で本物の警察官にならなかった、あるいはなれなかった、生粋の「警察マニア」たちが、尾行・盗聴・鑑識などプロ顔負けの技術を持ち寄り、友人を救うために事件に挑むミステリーだ。

これらの作品群で描かれているのは「マニア魂」の肯定だ。
他人に理解されなくても、何かがとても好きである、集めたくなる、エネルギーを注いでしまう。
それは、時として強大なパワーを生む。
そんな「マニア魂」そのものの力を知る大倉ならではの作品群だろう。

映像作品脚本

大倉は、映像作品の脚本にも進出する。ここでも「マニア性」が発揮されるとともに、本業のミステリー作家としての冴えを見せる。
最初は大好きな《怪獣》もの、特撮ドラマ『ウルトラマンマックス』。そしてミステリー作家としての腕を買われ、劇場版『名探偵コナン』に招聘され、さらには『ルパン三世PART5』にゲスト参加することになる。
「ウルトラマン」「コナン」「ルパン」は、言わずと知れた超強大なコンテンツだ。大倉はどのように挑んだのか。
  • 『ウルトラマンマックス』
    ・第7話「星の破壊者」(2005年8月13日放送)※梶研吾との共同脚本
    ・第32話「エリー破壊指令」(2006年2月4日放送)
    大倉の映像脚本デビュー作。2話分を担当している。監督・脚本家・漫画原作者の梶研吾の誘いを受け参加。敵の設定や防衛チームDASHメンバーの人物像の掘り下げに怪獣愛と作家魂が光る。2作ともに登場する敵・「宇宙工作員」の設定が秀逸。「宇宙工作員」は、文明を築いた果てに最後には星を破壊してしまう知的生命体、を滅ぼすことを目的とする。我々地球人類だけでなく、文明を築くものは、終局的には星を破壊してしまうのだという発想に唸る。ちなみに、大倉がのちにノベライズする『GODZILLA怪獣惑星』での「怪獣」の存在理由と解釈が近いのは興味深い。
  • 『名探偵コナン』
    ・TV第829話「不思議な少年」(2016年8月13日放送)
    ・劇場版(第21作)『から紅の恋歌』(2017年4月15日公開)
    ・TV第855話「消えた黒帯の謎」(2017年4月15日放送)
    ・劇場版(第23作)『紺青の拳』(2019年4月12日公開)
    ・TV第936話「フードコートの陰謀」(2019年4月13日放送)
    ・TV第965―968話「大怪獣ゴメラVS仮面ヤイバー」(2020年1月4、11、18、25日放送)
    『名探偵コナン』は、ミステリー作家であり、アクション描写にすぐれた大倉にとても適した題材だ。しかし超強大なコンテンツである。大倉の「基本と向き合う」アプローチを選ぶ。最初に執筆したのはTV第829話「不思議な少年」。老人が出会ったのは10年前と同じ姿をした「不思議な少年」だった、というエピソード。小学生の姿のコナンとはすなわち10年前の工藤新一の姿、という作品設定の基本に向き合い、その特性を十二分に生かした物語に仕上げた。
    大ヒットとなった2本の劇場版特に『紺青の拳』は、ミステリーとしての本線をしっかり押さえながら、スケールの大きい大アクション巨編として仕上がっており、「映画を見た!」という満足感を与える。興収も93億円を叩き出し、現在のところ劇場版『名探偵コナン』史上歴代最高興収となっている。
    TV「大怪獣ゴメラVS仮面ヤイバー」は、大倉の怪獣マニア魂がギュッと詰まった連作ミステリーだ。
  • 『ルパン三世 PART5』
    ・第17話「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」(2018年8月1日放送)
    ルパン三世初参加作品。ここでも大倉は「基本に向き合う」。ルパン三世のさらなる原典、モーリス・ルブランによるアルセーヌ・ルパンの小説シリーズだ。ジム・バーネットとは、ルパン小説に登場する探偵。その正体はアルセーヌ・ルパンその人である。密室でルパン三世が探偵役を務めるミステリーの本作で、ルブランの小説から引用したジム・バーネット三世を名乗らせる。ミステリーの専門家、というよりミステリーマニアらしい仕掛けに、出典を知るファンは思わずニヤリとしたことだろう。

映像作品のノベライズ

大倉はさらに、映像作品のノベライズも手掛けている。
ここでも大倉の「マニア性」と「身体性」が発揮されている。
最初のノベライズは、大倉が愛してやまない『刑事コロンボ』。「マニア魂」を強く感じる1作となった。
そして『初恋』と『GODZILLA 怪獣惑星』。
この両作では、大倉の文章の「身体性」という特徴が、はっきりと表れている。
  • 『刑事コロンボ 殺しの序曲』
    まだデビュー当時の筆名・円谷夏樹名義で2000年に二見文庫から発売された。もとになる映像作品は『刑事コロンボ』第6シーズンの一篇「殺しの序曲」(1977米国放送)。このエピソードは、もともとの映像作品(日本語吹替版)も《幕切れの一言》に向けての言葉の流れづくりが絶妙な作品。大倉は、その《幕切れの一言》をよりコロンボらしく変更を加えた。深くコロンボを愛する大倉ならではのノベライズとなった。
  • 『初恋』
    最新ノベライズ作品で、映画は2020年に劇場公開された窪田正孝主演、三池崇史監督によるバイオレンスアクションラブストーリーだ。『初恋』は、タイトルとは裏腹にバイオレンスに満ちた作品だ。
    大倉は、実は格闘描写の名手でもある。いくつもの作品で格闘混戦が描かれるが、その描写は精緻で、格闘慣れしていない読者にもはっきりと動きと狙いが伝わってくる。前述のように、これは大倉が合気道と空手を体得しているゆえの業だ。相手と素手で戦うことの心理的な駆け引きと肉体的な動作が端的に言語化され、読む者に伝わってくる。
  • 『GODZILLA 怪獣惑星』
    2018年から劇場公開された3DCGアニメ版『GODZILLA』シリーズのノベライズ。
    『初恋』同様、戦闘描写の端的さとスピード感に圧倒される。映像未見の状態で読んだのだが、頭の中にはっきりと映像が浮かんでくる。非常に激しいカット割りがなされた状態で。この、はっきりと映像として「読ませる」こと=「視覚性の高いアクション描写」こそが大倉作品が映像と親和性の高い一つのポイントのように思える。

文章と映像の交錯点の中で

映像作品の原作となる小説。映像作品の土台となる脚本。映像作品を活字エンタテインメントに変換するノベライズ。大倉は、文章で映像と向き合ってきた。
その文章のベースにあるのは「マニア性」と「身体性」だ。
「マニア性」からは、ユニークなキャラクターと独創性の高いストーリーを、「身体性」からは、映像的な表現を生み出してきた。
「身体性」について、もう少しだけ考察したい。
大倉の文章では、動と静、つまり、激しいアクションとその中での冷静な思考、その両方が端的な言葉でリズミカルに紡がれる。これは大倉が体得している「武道家の呼吸」から生まれるものではないだろうか。その呼吸のリズムが、読む者に映像を感じさせる。大倉の小説が映像化に適しているのも、映像のノベライズに指名されるのも、この「武道家の呼吸」が文章に宿っているからではないのか。 そして、強大な相手に向かうとき、まず「基本に立ち返る」姿勢も、武道に由来しているのかもしれない。

大倉が手掛けてきた作品を足早に眺めてきた。その魅力とポテンシャルを感じていただけただろうか。

この大倉がシリーズをまとめ上げる『ルパン三世 PART6』。大いに期待したい。

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