戦地の夜を追体験する「水木サンのみた暗闇 ーぬりかべに遭った夜ー」
戦後80年の節目を迎える今年。多摩六都科学館(西東京市)のプラネタリウムで、水木しげるの戦争体験をもとにしたオリジナル番組「水木サンのみた暗闇 ―ぬりかべに遭った夜―」が、2025年11月までの期間限定で全8回特別上映される。
©GOTO東日本最大の直径27.5メートルのドームスクリーン
世界最大級のプラネタリウムならではの映像&音響体験
漫画『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』で知られる水木しげるは、1943(昭和18)年に陸軍に召集され、南太平洋のニューブリテン島(現在のパプアニューギニア独立国)へと送られた。本番組は、水木が戦地で体験した過酷で不思議な出来事を、星と音と語りによって追体験できる、他に類を見ないプログラムとなっている。
会場となる多摩六都科学館は、1994年に開館した体験型ミュージアム。5つの展示室と東日本最大のプラネタリウムドーム「サイエンスエッグ」を有している。直径27.5メートルの傾斜型ドームは、世界最大級のサイズを誇り、足元から頭上までを映像と星で覆うことが可能。2012年のリニューアル時に導入された光学式投映機「CHIRONⅡ(ケイロン2)」は、総恒星数約1億4000万個を忠実に再現する性能をもち、地球上のあらゆる場所、あらゆる日時の星空を映し出せる。つまり、1944年当時に水木しげるがニューブリテン島で見たであろう星空を、見られるのだ。
イラストと語りでよみがえる戦争の記憶
©水木プロ水木氏のイラストも交えながら、人気声優・古川登志夫氏のナレーションで語り進められる約60分の作品
上映されるプログラムは、このプラネタリウムの特性を最大限に活かした意欲作。水木しげるは、漫画作品以外にもエッセイや手記を多数残していて、そうした著作群からニューブリテン島での印象的なエピソードを厳選。牛尾茉由(演劇集団 円)が、シナリオを構成した。さらに水木作品からイラストを用い、水木の文章と言葉を引用し「水木サンのみた暗闇」が描き出されていく。
語りを務めるのは、声優の古川登志夫。TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期(2018〜2020年)でねずみ男を演じるなど、水木作品とは永年にわたり縁を持つ。おだやかでどこかとぼけた語り口が、シリアスとユーモアを行来し、水木しげる作品に通底する独特な世界観に不思議なリアリティを加える。ただの音声解説にとどまることなく、観客が戦地の水木青年と一体となるための、導き手としての役割を果たす様は見事だ。
光の届かない静寂な暗闇と「ぬりかべ」
赤道を越えた南緯5度のニューブリテン島では、日本とは見える星座も異なる※ここからはストーリーのネタバレを含みます。
ドラマの舞台となるのは、1944(昭和19)年、戦局が悪化し孤立するニューブリテン島。日本軍の拠点ラバウルからズンゲンを経て、さらに前線のバイエンへと派遣された水木しげるは、ある夜、歩哨に立っていたところを現地民の襲撃に遭い、分遣隊は水木を除いて全滅。命からがら脱出した水木は、追撃をかわしつつ、何日もかけて本隊へと戻ることに。その途中、暗闇のなかで「ぬりかべ」と遭遇し、九死に一生を得る。この「闇夜の脱出行」を追体験するのが、本プログラムのハイライトとなっている。
暗闇のなかで現実と幻想が交差するこのエピソードこそが、本作の核心だ。通常プラネタリウムでは、星空を再現するためにわずかな光も入らない暗闇の空間を作り出すが、今回はその空間を「水木サンのみた暗闇」として活用している。
圧倒的な静寂。
星明かりしかない闇夜。
波の音、虫の声、微かな風の音色。
本プログラムはそれらをただ再現するのではなく、まさしく「体感」させる。ドーム内に配置されたスピーカーから6chサラウンドで広がる音が、観客の背後や頭上からそっと忍び寄り、時間と空間の境界を曖昧にしていく。水木しげるの作品を長く愛してきた熱心なファンも、新鮮な驚きに包まれるに違いない。

アニメや実写といった、いわゆる映像作品とは一味異なるが、むしろ映像ではないからこそ「暗闇」をリアルに感じ取れる。語り・イラスト・音・星が織りなす物語体験は、プラネタリウムだからこそ成立する新しい朗読劇のかたちであり、ここでしか出会えない、特別な没入体験を提供してくれるはずだ。
水木しげるが南太平洋の戦地で見上げた夜空を眺めながら、暗闇に息をひそめた恐怖を体感することは、戦争について考えるきっかけにもなるだろう。終戦から80年という歳月が流れ、いまや戦争を知らない世代が大半となった。だからこそ「感じること」からはじめてみてはいかがだろうか。
【水木プロダクション・原口智裕氏コメント】
水木しげる自身が戦地で体験した、真っ暗な空間と、時々映る星空、その中で感じる「苦難」と「不安」……。そういったものを追体験できる、プラネタリウムならではのプログラムが完成しました。ナレーションを担当された古川登志夫さんも、お兄様が戦争で亡くなられたとうかがっています。古川さんご自身の戦争への思いや、お兄様と水木を重ねられた語りは、真に迫るものがあります。
TEXT:加山竜司
【終戦80年 水木しげるの戦争体験
「水木サンのみた暗闇 ―ぬりかべに遭った夜―」】
©水木プロ声の出演:古川登志夫
構成:牛尾茉由(演劇集団 円)
協力:(株)青二プロダクション、円 演劇研究所、鬼太郎茶屋、
(株)水木プロダクション
音響制作:(株)エス・シー・アライアンス 前島慶太 金子孝志 井上幸音
制作:多摩六都科学館指定管理者 株式会社乃村工藝社
会場:多摩六都科学館 プラネタリウムドーム(サイエンスエッグ)
〒188-0014 東京都西東京市芝久保町5-10-64
多摩六都科学館 公式サイト:
https://www.tamarokuto.or.jp/
開催日時:2025年7月26日(土)、
8月6日(水)・7日(木)・8日(金)・9日(土)、
11月16日(日)・22日(土)・24日(月・祝)
全8回。
各日とも午後5時開場、午後5時20分開演(約60分間)
推奨年齢:小学4年生以上
投影中は暗闇・無音・大きな音などの演出がございます。
また、戦闘の様子や、昭和の軍隊のありのままの描写が
含まれます。
趣旨を充分にご理解の上、チケットをご購入ください。
3歳以下は入場不可。
定員:各回234人
料金:2200円
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