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『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』
亀山監督が明かす“説得力あるキャラクター描写”へのこだわり

2025年に放送・配信されたショートアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(以下『ミルキー☆サブウェイ』)は、強化人間やサイボーグが活躍する近未来的世界観でありながらどこか懐かしいテイストとキャッチーなキャラクターデザイン、テンポのよい会話劇などが話題を呼び、SNSを席巻した。そして2月6日(金)より、シリーズ全12話を再構成して新作パートを追加した『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が劇場公開される。
本シリーズをほぼひとりで作り上げたのが亀山陽平監督。専門学校の卒業制作として2022年に『ミルキー☆ハイウェイ』を制作し、『ミルキー☆サブウェイ』は、その続編にあたる。そんな亀山監督に、制作の裏話から影響を受けた作品まで語ってもらった。

キャラデザはシュールさとリアルさのバランスが大事

――『ミルキー☆ハイウェイ』や『ミルキー☆サブウェイ』のレトロフューチャー的な世界観は、どこから着想を得ているのでしょうか?

亀山陽平(以下、亀山)  『ミルキー☆ハイウェイ』は、宇宙が舞台の作品を作りたいと思っていたわけじゃなくて、当時の流行にのって作り始めたんです。2022年ごろはシティポップ(1980年代の日本で生まれた都会的なポップミュージック)が盛り上がっているタイミングでしたし、レトロな雰囲気がいいなって。宇宙っぽいビジュアルのなかに、どこかなつかしい要素があると、絵的に映えるんじゃないかと思ったんです。けっこうミーハーな感覚で作るタイプなんですよ。

――作品公式Xで、シリーズの舞台が地球から離れたバルナディア合星連邦であり、秘密裏に一部の地球人が入植したことや、地球の文化や情報が遅れて届くことが明かされています。これらの設定は『ミルキー☆ハイウェイ』のときからすでに考えられていたんですか?

亀山  そうですね。設定自体は『ミルキー☆ハイウェイ』を作るなかでどんどん広がっていったものですが、当時はそういう世界観だと発表する機会もなくて。シリーズ化するとなったときに、あらためて文章にまとめて、細かい部分をブラッシュアップしました。

――個性的なキャラクターデザインについて、こだわりを教えてください。

亀山  絵的に映えることは意識したうえで、シュールさとリアルさのバランスに気をつけました。ほとんどのキャラクターが人間じゃない、サイボーグかピンク色の肌をした強化人間なので、ビジュアル的にシュールな要素が多いんですが、服装は現実にもありえるような説得力のあるものにしています。劇場版では、警察側の新キャラも登場しますが、実際に目にするリアルな警察の制服を、ピンク色の肌の人が着ていると、ギャップがあってビジュアル的なユニークさが生まれるかなと思って。シュールになりすぎず、リアルにもなりすぎないように意識しています。

――サイボーグのキャラクターでは、マックスのデザインが印象的です。顔のモニターがまったく変化せず、表情がわからないデザインでも、かっこよさが表現できるんだと驚きました。

亀山  もともとは、マキナがこういうデザインになる予定だったんです。顔がシンプルで機械っぽくても、かわいい髪型をしていたらキャラクターとしてかわいく見えるんじゃないかと思って。ただ『ミルキー☆ハイウェイ』制作時に、マキナは表情がある程度表現できたほうがいいと感じて、予定よりも派手な見た目に落ち着きました。でも、顔以外の部分でかわいさやかっこよさを表現できるんじゃないかという気持ちはあったので、マックスで再挑戦してみました。その結果、イケメンキャラとして受け取ってもらえたようなので、正しさが証明されたなと(笑)。

――チハルやアカネのような、宇宙の過酷な環境に対応するための強化人間という設定は、どこから生まれたんでしょうか?

亀山  パッと見ただけで宇宙人っぽいとわかる、映えるデザインにしたいという考えがまずありました。そこに「一応人間ではある」という細かい設定を入れることで、興味を持った人がさらに深く調べたくなったり、想像がふくらむかなと思って。自分のオタクっぽい面が出ているかもしれません(笑)。

――作中では未登場ですが、マキナの母親が強化人間に対して差別的な思想を持っているという設定が公開されています。サイボーグはよいが、強化人間はダメという価値観を設定しているのが興味深いと感じました。

亀山  差別意識はあらゆるところに存在しますが、この1話3分半のシリーズで実在する差別問題を描くと、テーマが重すぎてしまうと感じたんです。でも同時に、現実にある差別などの社会問題を、一歩引いた目線から違うかたちで見せられるのがSFの強みだとも思うので、強化人間という架空の存在への差別がある設定にしました。マキナの母親はまだ登場していませんが、こういうキャラがいることで世界観の深みを出せるのかなと。

フル3DCGで描く日本人らしい立ち居振る舞い

――脚本、キャラクターデザイン、モデリングやアニメーションなど、実制作をほぼひとりで担当されていますが、とくに大変だったことは?

亀山  単純に、画面に映るキャラクターが多ければ多いほど、アニメーションをつけて動かすのが大変です。11話などの6人全員が映っているカットが多いエピソードは、本当にしんどかったですね。作業としては地味なんですが、めちゃくちゃ時間がかかりました。

――アニメ作りには様々な工程がありますが、一番楽しいのはなにをされているときですか?

亀山  アニメーションをつけていて「あ、キャラクターが生きてる」と感じられる瞬間が、一番やりがいを感じます。でも、結局どの作業もスケジュールに追われながらになるので、楽しんでいる余裕はないですね(笑)。

――話数を重ねるごとにSNSで支持が広がり、後半は毎話トレンドに関連ワードがランクインする状態でしたが、人気を実感したのはどのタイミングですか?

亀山  1話の放送がスタートした段階から、ファンアートを描いてくださるかたはいたんですが、8話くらいからSNSにアップされるファンアートがあまりに多すぎて、チェックが追いつかなくなったんです。そのとき「こんなにたくさん見てもらえているんだ」と実感しました。

――アニメファンでも、国産フル3DCGアニメに苦手意識を持っているかたがいるなか、本作は幅広い層に抵抗感なく受け入れられていると感じます。その要因はどこにあると思われますか?

亀山  キャラクターの立ち居振る舞いが、大きな要因だと思っています。フル3Dでもディズニー作品は好きだというかたは多い。あれは、日本人からするとちょっとオーバーな演技をつけていますが、海外で制作されたものなのでナチュラルだし、僕らも海外作品だとわかって見ているから違和感がない。

でも、同じ動きをそのまま日本的なキャラクターにやらせると、嘘くささや違和感が生まれてしまう気がするんです。日本のアニメキャラも独特なしゃべりかたをしますが、あれは手描きだから、そのよさがでるのであって、3DCGで解像度の高いキャラクターにああいうしゃべりかたをさせると、また別の違和感が生まれるかなと。今回は、日本人っぽいと感じてもらえるような説得力ある立ち居振る舞いを意識したのが大きいと思います。

――声をはらない、リアルな会話も印象的でした。音響監督も担当されていますが、キャスト陣にどんなディレクションをされたんですか?

亀山  具体的な細かいディレクションはしていないんです。ただオーディションの時点で、自分が持つキャラクターイメージに素の状態が近い人をキャスティングしようと考えていました。だから「普段はどんなしゃべりかたですか?」と質問したり。そうやって選んだうえで「素の感じのままでやってください」、「お腹から声を出さないでください」とお願いしました(笑)。

――本作は、アフレコではなくプレスコ(セリフを先に収録してから映像を制作)とのことですが、声がついたことでイメージしていたアニメーションを変えた部分はありましたか?

亀山  具体的に、どのシーンとはっきりいえないんですが、自分が想像していなかったような声のトーンや細かい言い回し、抑揚のつけかたなどはたくさんありました。すごく繊細な違いではあるんですが、そういうアプローチをしてもらえたおかげで、自分の想像力のさらに上を行くアニメーションが作れたなと感じています。
リョーコなんかは、声がついたことでイメージがふくらんだキャラクターですね。初期イメージでは、終始やる気のない感じだったんですが、小松(未可子)さんの演技によって、ひょうきんなニュアンスが加わりました。「プライベートでは、ずっとふざけてそうだな」と感じたので、そんな雰囲気がにじみ出ていると思います(笑)。

――キャラクターが同時にしゃべって、声が重なるシーンが多いのも本作の特徴ですが、会話劇に関してはどんなことを意識されましたか?

亀山  声が重なるシーンでは、どうしてみんなが一斉に発言してごちゃごちゃしたのかが伝わる構成を心がけています。1話で刑期計上プログラムが長いことにみんなが文句をいうくだりでは、最初にカナタの「なげー!」というセリフが際立って聞こえるようになっている。それがないと、どうしてみんなが騒ぎ出したのかが伝わらない。ごちゃごちゃさせるところでも、発言の意図がどうすれば伝わるかを考えて構成しています。

――キャンディーズの「銀河系まで飛んで行け!」も、レトロな世界観にマッチしていますが、この曲を主題歌にした経緯を教えてください。

亀山  もともと、キャンディーズの曲が好きで聴いていたんです。ハリウッド映画によくある、ひと昔前の曲をあえて流す演出も好きだったので、自分の作品でやってみたいと前々から考えていて。『ミルキー☆サブウェイ』は、宇宙が舞台の作品だし、「銀河系まで飛んで行け!」はぴったりだろうと思いました。Vコンテ(動画になった絵コンテ)の時点で、この曲に頼りまくった演出をつけて「この曲なしでは成立しません!」という状態にしたら、シンエイ動画さんががんばってくれて、曲を使わせてもらえることになりました(笑)。

――YouTubeで、日本語に加えて10言語(英語・ポルトガル語・スペイン語・韓国語・中国語・タイ語・インドネシア語・フランス語・ヒンディー語・ロシア語)で配信されたことも話題になりました。反響について教えてください。

亀山  自分としては「ほかの言語での吹き替えってどんな感じになるんだろう」とまったく想像できなかったんですが、言語学習の教材として楽しみながら使ってくれている人もいるみたいで、うれしい驚きがありました。海外のかたが作ってくれたリアクション動画も見ましたね。セリフに頼りすぎた部分があるアニメになったかな、という反省もあるので、海外のかたも楽しんでくれていることに安心しました。ただ、比率でいえば国内のファンのかたが多いと思うので、次に作るときはセリフに頼りすぎない、アニメーションとしての表現方法を追求できればと思います。

劇場用新作パートは、元々シリーズにいれたかった内容

――劇場版の制作が決定したのはどのタイミングだったんでしょうか?

亀山  シンエイ動画さんとは、放送前から「できるといいですね」という話をしていたんです。でも実際に現実味を帯びてきたのは、徐々に話題になった放送後半からで、正式発表したのは12話の放送日でした。

――決定したときのお気持ちは?

亀山  シリーズ12話を劇場用にうまく一本化できるのかという不安が大きかったですね。シンエイ動画さんから声がかかって、『ミルキー☆ハイウェイ』をシリーズにするという話になったときも、まずは自分にできるのか不安でした。振り返ってみると、よろこぶより先に不安になることが多いですね。

――劇場版では、アサミとハガという警察官が新たに登場します。新作パートで、警察側を掘り下げた理由を教えてください。

亀山  アサミはシリーズに入れようと考えていたんですが、尺の関係で削ったキャラクターでした。だから、追加で新作パートを作るとなったときに、本来やりたかった話を入れたいと思ったんです。それに本編は受刑者メインの内容だったので、「一方そのころ」という警察側の視点も描くことで、より深く世界観を描写できそうだと考えました。

――シリーズのストーリー構成の面で、時系列を入れ替えるような形式にした理由は?

亀山  「どうなってしまったんだ」と興味を引けるかなという意図がありました。冒頭のシーンをふまえてエンディングまで見ると「そういうことだったのね」というすっきり感も出せるかなと。
さらに、3話でチハルとマキナの取調べ、6話でマックスとカートの取調べで時系列が戻るんですが、あれは舞台が毎エピソード違う場所に移ることで、画面に変化が生まれてマンネリ化しないようにと考えていました。

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