プラネタリウムでしか体験できない360度コナンの世界!
プラネタリウム版『名探偵コナン 閃光の宇宙船(ペイロード)』制作秘話
1996年に放送がスタートし、ついに放送30周年を迎えたTVアニメ『名探偵コナン』。そんな国民的アニメの、プラネタリウムコラボ企画をご存じだろうか。
昨年春から全国で上映されている、シリーズ最新作『名探偵コナン 閃光の宇宙船(ペイロード)』では、南の島でのロケット打ち上げを見にきたコナンたちが、事件の調査にきていた西の高校生探偵・服部平次とともに、宇宙開発をめぐる陰謀に挑む。本作を手がけた髙木啓明監督、プラネタリウム版プロデューサー・花光昭典さん、アニメプロデューサー・藤堂真孝さんに、プラネタリウム版ならではの魅力や、『名探偵コナン』だからこそできる表現について話をうかがった。

『名探偵コナン 閃光の宇宙船(ペイロード)』
髙木啓明監督 インタビュー
テレビや劇場版とは違うドーム用の映像制作
――本作の監督をされることになった経緯を教えてください。

髙木啓明(以下、髙木) 2024年公開の劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の仕事(演出として参加)が終わったころに、プロデューサーの藤堂さんからお誘いいただきました。普段はテレビシリーズの絵コンテを描いたり、演出の仕事をしているので、映画が終わってテレビの仕事に戻ろうかなというタイミングでお話をもらい、ふたつ返事で引き受けさせていただきました。僕が参加した時点で、すでにざっくりしたシナリオはできていた記憶がありますね。
――プラネタリウムのドームに上映するための映像は、テレビシリーズや劇場版の映像と異なる点があると思います。実際の制作はいかがでしたか?
円形の映像フォーマット「ドームマスター」。プラネタリウムドームのスクリーンでは、円形の映像の中心が天頂(頭上方向)となり、下が前方、上が後方の映像となる。プラネタリウム用映像の納品には必ずこの形式が用いられる。髙木 テレビや劇場は、画面サイズにあわせて16:9のアスペクト比で作りますが、プラネタリウムはドーム型で360度見える点が違います。例えば、途中で雲や木が見切れてしまわないように、いつもより広い範囲の背景が必要になります。四角い画面だと、フレーム外からキャラクターが現れたり、体が半分見切れていたりしても気になりませんが、360度逃げ場がないドーム型で同じことをやると違和感が出てしまう。だからドームにはキャラの全身が見える引きのカットを映しつつ、顔のアップなどは四角い小窓にキャラの顔を表示するような描き方になります。当時は引きのカットでキャラの全身を生かした芝居を描きたいという気持ちがあったので、ちょうどいいタイミングでこの話をもらえて、やりたいことができたと思っています。
――普段と違う映像ということで、苦労した部分はありましたか?

髙木 僕としては、あまりなかったです。実は以前、トムスにある僕の作業机の後ろで、𠮷村(あきら)監督がプラネタリウム版の3作目『灼熱の銀河鉄道』の作業をしていたんです。それをちらっと見ていたので「あれを自分がやるのか」と、イメージしやすい部分もありました。具体的にどんな映像素材が必要なのかは、レイアウト(キャラと背景の位置関係、カメラワークなど、各カットの構成内容を決める)の段階で、花光さんからくわしく説明していただきました。
絵コンテは、いつも通りのサイズで描いていたんですが、その段階で自分の頭のなかではドームでの画面設計ができあがっていたんです。ただ、作画するアニメーターさんや背景さんは、16:9の画面の作り方しか経験がない方がほとんどなので、うまく説明するのが大変でした。その部分で悩んでいるという声を、けっこう聞きました。自分の頭にあるプランをもっとうまく共有できれば、よりスムーズに進んだんじゃないかという反省はあります。
――制作にあたって、プラネタリウム版『名探偵コナン』シリーズの過去作は参考にされましたか?
髙木 2作目の『探偵たちの星月夜』はサンプル映像だけでしたが、前作の『灼熱の銀河鉄道』は実際にプラネタリウムで見せていただきました。かっこいいカットは頭に留めておいて、生かしたいなと思って。ラストに草原みたいな場所へ移るんですが、回り込むようなカメラワークがよかったという記憶があります。見ながら「自分ならこうしたい」といったイメージをふくらませて、ロケットの打ち上げシーンや、アクションシーンをどう表現しようかと考えていました。
男子高校生感あふれるコナンと平次のやりとりにも注目
――本作の舞台は架空の島「羽ヶ島」ですが、モデルになったのは鹿児島県・種子島ですね。

提供:トムス・エンタテインメント
髙木 種子島へロケハンに行って、JAXA(作中ではJAXDA)やロケット発射場などをめぐりました。宇宙に人並みの興味はありましたが、くわしいわけではないので、JAXAは未知の世界でしたね。ロケットの仕組みなどについて説明していただいて、すごく勉強になりました。天気がいいときに行けたこともあって、ロケット発射場がよく見える高台の景色がすごくきれいで、印象に残っています。実際の種子島の街並み、建物の雰囲気なども作品に反映したいと思いながら歩きました。ちなみに、作中に登場するジェラートは食べていないです(笑)。
――4作目にして、プラネタリウム版で初めて服部平次が登場しましたね。

髙木 僕自身が大阪出身ということもあり、子どものころから関西キャラには親しみを感じていて、服部平次はとくに好きなんです。平次の登場話数や、大阪が舞台になるエピソードもよく見ていて。コミカルなところは描いていて楽しいですし、コミカルさとかっこよさの二面性があるキャラなので、そこをうまく切り替えて表現できたらと思いながら描いています。最近の原作漫画やテレビシリーズでは、和葉との恋の話がメインになっていますが、今回は和葉が登場しません。だから、そのぶんコナンとのライバル関係を、アニメならではの雰囲気で見せたいなと。コナンと平次が小競り合いをするシーンがあるんですが、あそこは男子高校生感あふれるふたりのやりとりを楽しく見せられたらなと考えていました。
――平次のバイクアクションも見どころだと思いますが、とくにこだわった点は?

髙木 アクションまわりは、CGスタッフにがんばっていただきました。ドームの大きい画面だと、どこまで作画にして、どこからCGでやるかというのが難しいんです。「崖をバイクで駆け上がるような、むちゃなくらいのアクションをやりたい」というのを絵コンテで提示して、CGさんがそれにあわせて見事に作ってくださった。あと、派手なアクションに入る前に、バイクで後ろに下がって助走をつけるシーンがあるんですが、そういった盛り上がりの前に停滞するような“ダレ場”というか、アクションの合間に息抜きポイントを作るのも好きですね。
――そのほかのこだわりや見どころについて教えてください。

髙木 プラネタリウムで上映される作品なので「ドームならではのかっこいい画面作りをしたい」という気持ちは強かったです。カメラがぐるっと回り込んだり、歪んだレンズでカメラワークをつけたときに、どうしたら映像の気持ちよさが出せるかなど、いろいろ考えました。ロケットや灯台を見上げるシーンでは、その巨大さを感じてもらうなど、ドーム画面を活かした没入感を味わえるカットは、意識的に多くしています。
それから、子どもたちがホテルでごはんを食べたりするわちゃわちゃしたシーンを、物語のアクセントとして入れたのは、よかったんじゃないかなと思っています。でも尺の都合で切っちゃったシーンもあるんです。子どもたちが寝ていて、コナンと阿笠博士、灰原の3人がベランダでしゃべるシーンで、気に入っていたんですが、尺の都合上泣く泣くカットになってしまって。物語に必須なシーンに加えて、科学エピソードなどが入る関係で、尺がオーバーしてしまったんです。
――完成した映像をプラネタリウムで見たときはいかがでしたか?

髙木 狙い通りの映像でよかったなと思いました。すごく没入感があって、バイクアクションのシーンでカメラがぐるぐる回ったりするところなんかは、自分が思っていた以上に迫力が出て、本当によかったです。
――今後、やってみたい演出や描きたいキャラなどは?
髙木 もしまたプラネタリウムの映像を作らせていただけるのであれば、蘭の空手の格闘シーンをドームでやってみたい気持ちはありますね。今回は蘭が出てこなかったので。普段は16:9の映像ばかり作っていますが、今回ドーム用の映像を作ってみたことで「こういうこともやってみたい」と、いろんな考えが浮かぶようになりました。
――これから本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。

髙木 勉強にもなると思いますし、難しいことはなにも考えずに「星がきれいだな」とか「ロケットすごいな」というふうに楽しんでもらえればうれしいです。宇宙や空の表現、アクションシーンの迫力、コミカルなシーンなど、見どころがいっぱいですので、ぜひプラネタリウムという特別な場所で『名探偵コナン』を味わってください。
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